雪が降る前に。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 嬰児の柔らかさは得もいわれず、不快な日々に角質化しかけている頬も緩む。今日は中休みで明日も労働なので、あまり気乗りしなかったが、MRIを終えた妻が来週はまた十日間に及ぶ手術入院になり、当分会いに行けないからぜひ行きたいというので孫見に運んでいった。そしてミニウサギほどしかない孫の体を目にすれば、自ずと爺の自覚も目覚めもとより細い目もいよいよ細くなる。
 今、命名問題で私一人抵抗勢力になっているが、こういうのは孫にとって一生背負うことだから安易に結論してはいけない。といって揉める必要はないが、百年後に孫がその名で良かったと思えるものにしてもらいたいので、けっこう諄い。意味や音もそうだが、視覚的問題もよくよく検討しなければならない。私は子供の名を付けるとき、一ヶ月くらい仕事そっちのけで案を練り数百の候補をあげてからそれらを検討してひとつに絞った。結果として安直な名前になったとしても、そこまでやってあれば不安はなく、自信満々でこれだと決定できる。名付けとはそうするべきなので、しつこい。ただ、良い感じというだけで決めないで欲しいという思いがある。どんなことにも背景があり、その背景が名前の本質であり、名付けられたものが生涯背負う価値尺度のひとつともなる。それが言葉であり、人間の宿命でもある。くらい重いことなので、別に口を出す気は無いが、最初の孫の時から言っているが、娘らには意味がわかりにくいらしい。

 それはそれとして、明日は東京の方も積雪が見込まれるそうで、とても悩ましい。営業車はスタッドレスを履いているから少々の積雪などものともしないが、われらがヨンクちゃんは四駆のくせに雪に弱い。というか、この辺は急坂だらけで、どんな四駆でもチェーン無しでは動きにくいだろう。動きにくいときは動かないのが私なので、明日は有断欠勤にするしかないかな、と悲しんでいる。休みたくはなく労働したいので悲しいのである。車夫労働が好きだからではなく、今月度は売り上げ低迷だから一日も休みたくないためである。けれど、雪の日にヨンクちゃんを寒い中に出すのは可哀想だし、ヨンクちゃんが途中で身動き不可になったら私がもっと可哀想だし、苦渋の選択をせざるを得ないと思われる。
 大雪であれ嵐であれ、なにがなんでも営業すべきである、というのが我が社の方針だと研修の教官から聞かされたが、こいつバカかぁと思ったものだった。そんな時にノコノコ出て行って事故でもやったら、一瞬のことでは済まず、下手すればその後まで尾を引く事態にならないとも限らない。君子危うきに近寄らずとは、そういうことを言うものだろう。根性も忠誠心も無用である。寒いときは人間もコタツで丸くなっているのが正しい酷寒の過ごし方である。

 明日、もしも有断欠勤したらそのことも記したいが、まだわからない。
 出動するかしないか不明だが、出動できるように就眠時刻は変えられないし、飲酒制限も外せない。
 常にいつでも出動できる準備を万端整えて、有断欠勤に備えている。
 降り積もらなければ良いなと思いつつ、どうせ降るなら、この世のなにもかも身動きできないくらいフルに降れば良いなぁとも思う。
 いっそ世の中のすべての機能がストップしてしまうくらい降ってしまえ、とも思う。
 が、降らないで欲しい、というのが本音なのが、凡夫の切ない胸の内。
 庭の梅たちもちらほら綻び、雪見酒も味わいたいが、降らないで欲しい。
 けれど、大自然のやることは想像を絶するものだから、考えてもどうしようもなく、すべてを忘れて、夢の世界へ遊びに行くのが関の山か。