静御前物語<8>
吉野の別れから半年が過ぎようとしている。 私は今、鎌倉にいる。
義経と別れた後、私に付けてくれた家来に裏切られ、宝を持って逃げられた。 私は雪の中をさまよった挙げ句、頼朝の手のものに捕まり、一旦、都に戻ることになった。 その際、義経の居場所を厳しく問いただされたが、何も分からないとして、口を閉ざした。 頼朝の一行も義経を捕らえるのに必死であったが、その行方は知れず、とうとう私が頼朝の前に来るようにとお達しがあったのだ。
私は心を決めていた。 これからどうなるのか私は知っている。 鎌倉に行けば辛いことが待っている。 しかし、私は逃げることなどできない。 歴史に名を残すことになる、あの舞をするために。 私は義経が残していってくれたお腹の子供と共に、鎌倉へ旅立ったのであった。
鎌倉でも厳しい取り調べが待っていた。 しかし、私は行方は知らないと言い通した。
ある日のこと。 頼朝はいつもと違い、こう切り出した。
「そちは、都で知られた白拍子だそうじゃな。 今度、鶴岡八幡宮で舞を披露せよ」
私は即座に拒んだ。 義経のために舞うことはあっても、兄とはいえ、敵である頼朝のために舞う気持ちなどさらさらない。
頼朝は再三命令をしたが、私は拒み続けた。 なぜ、そこまで私の舞にこだわるのか。 それは頼朝の妻である政子がぜひ見てみたいとだだをこねているからだった。 私は、敵である頼朝も妻の尻に敷かれているのかと思うと、フッと笑いが込み上げてきた。
どうせ、今の私は人質みたいなもの。 断り続けることはできない。
私はこれ以上詮議をしないことを条件に、舞うことを承知した。
「舞った後、そちの出産までこちらに留まるがよい。 その後は都に帰してやろう。 ただし、こちらにも条件がある」
頼朝のその言葉に、心臓が跳ね上がる。 未来を知っているから。 その条件も知っている。 でも、聞きたくない。 だって、その条件って・・・。
「生まれてきた子が女ならば、そのままそちと一緒に都に帰す。 が、男ならばすぐに始末する」
残酷だった。