短編小説「京のおんな」静御前物語<7> | 京こね☆ニュース

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静御前物語<7>

 

 私がこの時代に来て、ずいぶん経った。 義経は他に奥さんがいるにも関わらず、時間が出来れば私のもとを尋ねてくれた。 そして、いろいろなことを語り合った。 といっても、私はほとんど聞き役だったけど。

 

 「静と話をしている時は、いろいろな事を忘れることができる」

 

 会えば会うほど、私の好きという感情は、どうしようもないほど膨れ上がっていく。 義経も同じ気持ちだと考えていいのだろうか。 恋愛初心者の私は、それを聞く勇気すらない。

 

 しかし、恋愛などにうつつをぬかしている場合ではないのだ。 義経が今置かれている現状は、決していいものではない。 兄の頼朝との仲はどんどん悪くなってきている。 残念ながら、私が知っている歴史通りに、日々進んでしまっているのだ。 このままでは義経が殺されてしまうのも時間の問題。

 

 私は未来を知っているのに。 私には何もできないの?

 

そんな自答自問を繰り返す日々を過ごしていたある日、義経から声を掛けられた。 それは、今までに見たことのないような厳しい顔だった。

 

 「静。 都を離れることになった。 九州に向かうつもりだが、厳しい旅になると思う。 一緒に付いて来てはもらえないか?」

 

 すでに私の心は決まっていた。 何があっても義経に付いて行く。 例え、歴史を変えることはできなくても。

 

 私は大きく頷くと、義経は安堵の表情を浮かべた。 そして、私達は初めて、夜を共に過ごしたのであった。

 

 

 それからしばらくして、九州に行くべく乗り込んだ船は、私達の行く手を阻むかのように暴風雨で難破。 どうにか陸地にたどり着いた時には、義経の手勢は私を含めて数人だけだった。

 

 それからは陸地を歩く日々が続いた。 桜で有名な奈良の吉野も、今は雪深く、ここでも行く手を阻む。 私は数日前から、原因不明の体調不良に襲われていたが、足手まといにならないよう、必死に付いて行った。 しかし、そんな私の姿を見た義経は辛い決断をした。

 

 「静。 そなたは都へ帰れ。 これ以上、連れて行くことはできぬ」

 

 「いやです」

 

 私はかたくなに頭を横にふる。

 

 「私もそなたと別れるのは辛い。 しかし、そなたを危険な目に遭わせるのは、それ以上に辛いのだ。 大丈夫、きっとお互い無事で再会できる」

 

 ―きっとお互い無事で再会できる- その言葉が現実にならないのを私は知っている。 だから、私は最後まで付いて行きたかった。 しかし、歴史を変えることなど私にはできないのだ。

 

 義経は私をきつく抱き寄せると、家来と宝を残し、雪の中を去って行った。

 

 「義経さま・・・」

 

 私は泣きながら、何度も愛しい人の名前を呼んだが、その主が戻ってくることはなかった。

 

つづく

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