前回までのお話は↓から。
※フィクションの部分もあります。あと、現代の言葉を使っています。
ご了承下さい。
与謝蕪村の娘・くの物語<4>
私が離縁されて戻ってきたのはちょうど梅雨時期。 長雨に気分もうっとうしい季節でした。
おっ父は、その頃知人に宛てた手紙にこう一句書き記したそうです。
さみだれや 大河を前に 家二軒
氾濫しそうなほど降り続き、増水した大河に面し、それにおびえる家が二軒寄り添うように立っている。
途方に暮れたおっ父の心情をよく表わしている句なのかもしれません。
だからといって、いつまでも途方に暮れているおっ父ではありません。 おっ父は、元来さっぱりとしている性格。
いろいろなことを吹っ切るかのように、なじみの芸妓さんの元へ通い詰めるようになったのは60歳も過ぎてから。 私と年が変わらない芸妓さんにのめり込み、家にも滅多に帰ってこなくなりました。 娘としては大変複雑な気分で、時にはおっ父に言い逆らうようになりました。 少し遅い反抗期だったのかもしれません。
そして、少ししてから、知人の忠告で別れることにはなったのですが、おっ父はこんな句を残しました。
桃尻の 光りけふとき 蛍哉
蛍がお尻を光らせて去っていくのを寂しく思う。 もちろん、蛍というのは別れた芸妓さんのことなのでしょうね。 まだまだ未練たっぷりのおっ父なのでした。