早いもので6月。
梅雨入りも間近ですね
さて、本日からの小説は、幕末を生きた一人の芸妓・君尾を
ピックアップ。
6話までです。(つまり、6週続きます)
※フィクションの部分もあります。あと、現代の言葉を使っています。
ご了承下さい。
君尾物語<1>
「君尾(きみお)姉さん。 またあのお話聞かせて」
年若い妹芸妓が、いつものようにせがんでいます。
「まあ、あなたはあのお話が好きねぇ」
少しあきれ顔で言う私に、少女は目を輝かせています。 私は仕方ないなぁと思いながら、新撰組の局長・近藤勇(こんどういさみ)との出会いと、その浪士に殺され掛けたお話を始めることにしました。
明治になるほんの7年前。 時代は、目まぐるしく変わろうとしている中、私は京都・祇園で芸妓となりました。 それは17歳の春のこと。 置屋としては有名な島村屋で、引き立ててくれるお姉さん芸妓の立派な後ろ盾もあり、私は「君尾」という名をもらい、鮮烈なデビューを果たしました。
時の流れは京の都も飲み込み、天誅だの新撰組だのと物騒な時代でありました。
新撰組は壬生前川邸を屯所、東本願寺太鼓番所を出張所としており、威勢を示しておりました。その中でも、局長の近藤勇の名前は恐がられたものです。
芸妓になって数年経ったある日、一力(いちりき)さんからお声が掛かりました。
京にはいろいろな藩士が集まっていましたが、それぞれにおいて遊ぶ場所が決まっておりました。 例えば長州藩は縄手の魚品(うおしな)、薩摩藩は末吉の丸住(まるすみ)という具合です。 そして、新撰組のお方達は、大石内蔵助でも有名な祇園の一力というわけでした。 その一力さんからお声が掛かったということは新撰組のどなたか。
私はいろいろな藩士の方のお座敷に呼ばれますが、ここの藩だから嫌だということは申しません。どちらの方でもお客様に違いはないのですから。
さて、どなただろうと考えながら、一力までの道のりをいそいそと歩いておりました。
そして、お部屋に入ってビックリ。 お部屋に座っていらっしゃったのは、新撰組の局長である近藤勇様でした。 私は初めてお会いしますが、有名な方ですからお顔は存じております。
「そちが君尾か。 かねてより名前を聞いておったが、会うのは初めてだな。 ワシは近藤勇だ」
まさしく、恐れられる新撰組を束ねる長らしい威厳に満ちた声。 しかし、決して人を恐れさせるような口調ではありませんでした。
「ええ、お顔は存じております」
「左様か。 知っているとはかたじけない。 まずは一献」
近藤様からお酒を注がれ、それを飲み干すと、今度は私が近藤様に注ぐ。
盃のやりとりが何度か続き、二人とも酔い心地になると、近藤様はとんでもないことを申されたのです。
「どうであろう、君尾。 ワシはそちを想おているのだが」