おらが街「東大阪市民美術センター」で今夏に開催された、特別展「みんな大好き!近鉄電車のデザイン展」訪問記をお送りしています。



展示の最後は、現在「奈良線」系統で走っている人気のラッピング列車「ならしかトレイン」の出来るまでを辿る、というコーナーでした。五位堂検修車庫、河内永和にて。

青空のもと、大自然を駆けるシカの姿が印象に残る爽やかなデザイン。
ラッピング列車のコンセプトから完成まで知る機会はそうそうありませんから、楽しみです。
それでは、さっそく項を進めてまいります。

最初に、ラッピング列車の目的と企画の意図。
デザインに現れていますが、シカというと、やはり奈良をイメージさせるもの。昨今のインバウンド需要も加味してのものだとわかります。

続いて、制作コンセプト。
これが気になったのですが、「乗りたくなる→撮りたくなる→教えたくなる」…というプラスイメージのループを目指しているということ。
「こないだ、こないにおしゃれな電車に乗ってなあ!」というものであれば、好循環になりますし、PRとして大成功に違いありませんね。

外装ビジュアルについての余談。
実際はラッピングのみですが、車内に実物大のシカの模型やぬいぐるみを置く、電車の正面にシカのシンボルを作るという案は、なかなかおもしろいですね。

一案では、先頭の方向幕の真上にシカが乗っているもの。すんごいインパクトですし、わたしはこれが良かったですね(汗)

車内は、床面を奈良の青芝に模したり、座席モケットをシカ柄にしたりと、内装にも凝っているのですが、おもしろいのはつり革にもさまざまな案があったこと。
右上の「シカせんべいを食すシカ」は考えられているなあと感じますが、実際は奈良公園で露店の方から購入するやいなや、わらわら寄って来てすぐに奪い取られるのが関の山なんですが(苦笑)
https://kintetsu-rs.com/topics/14928/
このつり革はかわいらしく人気のようで、キーホルダーにしたものが売られていたりします。先ほど触れた、人気の好循環がこれなんでしょうね。
このつり革はかわいらしく人気のようで、キーホルダーにしたものが売られていたりします。先ほど触れた、人気の好循環がこれなんでしょうね。


解説にもありますが、窓部分にはデザインを描くことが出来ないために、苦心したとのこと。それでいても、完成したものは実に生き生きした印象だというのが、お見事です。

次は、完成までの過程について。
構想自体は2019(令和元)年10月というので、完成までは3年を要していることがわかるのですが、ラフデザインを制作したり調整している間にコロナ禍があったがゆえ、1年以上は計画はストップせざるを得なかったよう。
デザインの決定に時間を要したことも加え、このようなところにも、あのコロナ禍の影響は及んでいたのですね。


そしてようやく、2022(令和4)年8月から内装を、同11月から外装の制作に着手。もともとはごくごく普通の通勤型電車ですが、これがあの内装に変わるとは。



そして、完成したのは2022(令和4)年12月1日。同月にはさっそく営業運行に入り、現在に至ります。


奈良へ観光客を誘致する広告、というと、近鉄電車ではこれまでもさまざまなものを見かけたものですが、大阪や、相互乗り入れ先の阪神から乗った瞬間から、奈良のイメージにどっぷり浸れる、というコンセプト。

広告だけではなく、行った気になる、というだけでもその訴求力は「ならしかトレイン」にはあるのだなと感じるものです。
ラッピング列車は各車にあれど、ここまで影響のありそうなものは、なかなかないのではと個人的には思えます。わたしなど、鉄オタだということを置いといても、また乗りたいと思えますし。五位堂検修車庫にて、団体専用列車「かぎろひ」と並ぶ。
貴重な記録を知ることが出来ました。

さて、今日まで特別展「みんな大好き!近鉄電車のデザイン」訪問記をお送りして来ました。
近鉄の母体会社となった「大阪電気軌道(大軌)」が「奈良線」を1914(大正3)年4月に開業させて110周年を迎えたことを記念しての、おらが街で開催されたこの特別展。



「奈良線」に端を発し、数多くの鉄道会社を合併しながら今日の2府3県に及ぶ我が国最大の私鉄へと拡大した近鉄電車。その長い歴史をひもといて行くと、実に興味深い経緯があります。
いずれの路線が辿った歴史というものも、切り取ってみると本当に深淵なものなのだなと、特別展を通じて、感嘆しきりでした。

長駆、お付き合いくださりありがとうございました。今日はこんなところです。