HDMI 6.0(エイチディーエムアイ ろくてんゼロ)は、HDMI Licensing Administrator, Inc.によって2027年1月に発表された高精細マルチメディアインターフェース規格である。HDMI 2.1bの後継規格として位置づけられ、8K解像度を超える映像伝送と次世代オーディオフォーマットへの対応を主眼に開発された。
概要
HDMI 6.0は、2026年9月にカリフォルニア州サンノゼで開催されたHDMI Forum Annual Meetingにおいて正式に承認され、同年12月に仕様書の最終版が完成した。本規格の開発には、ソニー、パナソニック、サムスン電子、LGエレクトロニクスなどの映像機器メーカーに加え、インテル、AMDといった半導体メーカーが参画している。
策定の背景には、業務用映像制作の現場において10K解像度での編集需要が高まっていたこと、また家庭用ディスプレイにおいても8K 240Hzでの映像表示を求める声が増加していたことがある。HDMI 2.1bでは最大帯域幅が48Gbpsに制限されていたため、こうした要求に応えることが技術的に困難であった。
技術仕様
HDMI 6.0の最大帯域幅は128Gbpsであり、前規格の約2.7倍に向上している。この帯域幅の拡張により、10K解像度(10240×4320ピクセル)を60Hzのリフレッシュレートで伝送することが可能となった。また、8K解像度では最大240Hzまでの高リフレッシュレート表示に対応しており、スポーツ中継やゲーム用途での需要に応えている。
色深度については、従来の10ビットに加えて12ビットおよび16ビットカラーに対応した。これにより、映像制作の現場で使用されるマスターモニターとの色再現性の差を縮小することが期待されている。対応する色空間はRec.2020に加え、新たにRec.2100の完全対応が実現された。
動的HDR技術としては、HDR10+、Dolby Vision、HLG(Hybrid Log-Gamma)に引き続き対応するほか、2026年に策定されたHDR10+ Adaptive IIIにも対応している。この新方式では、映像のシーンごとではなくフレーム単位でのメタデータ調整が可能となり、より自然な階調表現が実現されている。
オーディオ面では、最大32チャンネルの音声伝送に対応し、サンプリングレートは最大1536kHzまで拡張された。立体音響フォーマットとしては、Dolby Atmos、DTS:X、MPEG-H 3D Audioに加え、2026年に発表されたAuro-3D Proにも対応している。
物理層の変更
HDMI 6.0では、信号伝送方式にPAM4(4値パルス振幅変調)が採用された。HDMI 2.1までのNRZ(非ゼロ復帰)方式と比較して、同一の物理帯域でより多くのデータを伝送できる利点がある。ただし、PAM4は信号対雑音比の要求が厳しいため、ケーブルの品質管理基準も従来より厳格化されている。
コネクタ形状については、HDMI 2.1と同一のType Aコネクタが引き続き使用されている。これにより、物理的な互換性は維持されているが、HDMI 6.0の全機能を利用するためには新たに認証を受けたケーブルが必要となる。HDMI Licensing Administratorは、HDMI 6.0対応ケーブルに「Ultra High Speed HDMI Cable Plus」という新しい認証ラベルを付与している。
ケーブル長については、48Gbps対応の従来ケーブルでは3メートルまでの伝送が保証されていたが、128Gbps対応ケーブルでは推奨最大長が2メートルに短縮された。長距離伝送が必要な場合は、アクティブケーブルまたは光ファイバーケーブルの使用が推奨されている。
ゲーミング機能の強化
HDMI 6.0では、ゲーム用途を想定した機能拡張が行われている。VRR(可変リフレッシュレート)の対応範囲が1Hzから480Hzまで拡大され、次世代ゲーム機や高性能PCでの滑らかな映像表示が可能となった。
ALLM(自動低遅延モード)については、従来の入力遅延検知機能に加え、ゲームの種類を自動判別して最適な画質モードに切り替える機能が追加された。例えば、FPSゲームでは応答速度を優先し、RPGでは画質を優先するといった調整が自動的に行われる。
QMS(クイックメディアスイッチング)機能も改良され、異なる解像度やフレームレートへの切り替え時間が従来の約半分に短縮された。これにより、メニュー画面とゲーム画面の切り替え時に発生していた一時的な画面の暗転時間が削減されている。
開発の経緯
HDMI 6.0の開発は、2024年3月にHDMI Forumの技術委員会内に設置された次世代規格検討ワーキンググループによって開始された。当初は帯域幅を80Gbpsとする案が有力であったが、2025年5月の中間報告会において、映像制作業界の代表者から10K解像度への対応要求が出されたことを受け、128Gbpsへの引き上げが決定された。
技術的な課題として、PAM4方式の採用に伴う信号品質の確保が挙げられた。インテルとブロードコムの技術チームは、2025年8月から12月にかけて集中的に信号補償技術の開発を行い、最終的にFFE(フィードフォワード等化)とDFE(判定帰還等化)を組み合わせた方式を採用することで、2メートルのケーブル長での安定伝送を実現した。
2026年2月には、試作チップを用いた実証実験が東京都内の研究施設で行われ、10K 60Hz映像の連続48時間伝送に成功している。この結果を受けて、同年6月に仕様の最終調整が開始され、9月のフォーラム会議での承認に至った。
対応製品の展開
HDMI 6.0に対応した最初の製品は、2027年9月に発表されたソニーの業務用マスターモニター「BVM-X6000」である。同製品は10K解像度に対応し、映像制作の現場での色校正用途を主眼としている。
一般消費者向けでは、2028年1月に韓国のサムスン電子が85インチの8K対応テレビ「QN900E」を発表し、HDMI 6.0端子を4系統搭載した。同社は同時に、8K 240Hz対応のゲーミングモニター「Odyssey G9 Pro」も発表している。
GPU分野では、NVIDIAが2028年第2四半期に発売予定のGeForce RTX 6090において、HDMI 6.0出力に対応することを明らかにしている。AMDも同時期に発売予定のRadeon RX 9900 XTXでの対応を表明している。
ゲーム機メーカーでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが次世代機での対応を検討していることを示唆しているが、具体的な時期は明らかにされていない。
後方互換性
HDMI 6.0は、物理的なコネクタ形状がHDMI 2.1以前と同一であるため、既存のHDMI対応機器との接続が可能である。ただし、この場合は接続される機器の対応する最も低い規格の仕様に制限される。
例えば、HDMI 6.0対応のディスプレイにHDMI 2.0対応のブルーレイプレーヤーを接続した場合、映像は4K 60Hzまでの出力に制限される。HDMI 6.0の全機能を利用するためには、送信側と受信側の双方がHDMI 6.0に対応している必要がある。
EDID(拡張ディスプレイ識別データ)のバージョンは1.5に更新され、機器間の能力情報交換がより詳細に行われるようになった。これにより、接続された機器が対応する最高仕様を自動的に判別し、最適な設定が適用される仕組みとなっている。