HDMI6.0(エイチディーエムアイ6.0)は、HDMI Licensing Administrator, Inc.が2028年1月に発表したHDMI規格のバージョン6.0である。2029年7月から対応製品の市場投入が開始された。
概要
HDMI6.0は、前バージョンのHDMI2.1bから約5年ぶりの大幅な仕様更新として策定された。最大伝送帯域幅は96Gbpsに達し、これはHDMI2.1の48Gbpsから倍増している。この帯域幅の拡張により、16K解像度への対応や、8K映像における480Hzまでのリフレッシュレートの伝送が可能となった。
開発の背景には、2020年代後半における業務用映像機器市場とゲーミング市場における高解像度・高リフレッシュレート需要の高まりがあった。特に医療用画像診断装置やデジタルサイネージ分野において、より詳細な映像表示への要求が強まっていたことが、新規格策定の契機となった。
開発経緯
策定前の状況
2024年頃から、HDMI Forum参加企業の間で次世代規格の必要性が議論されるようになった。当時、すでにDisplayPort2.1規格が80Gbpsの帯域幅を実現しており、業務用途ではDisplayPortが選択されるケースが増加していた。この状況に対し、家電メーカーを中心とするHDMI陣営は、消費者向け市場におけるHDMIの優位性を維持するため、技術的な優位性の確保が必要と判断した。
2025年3月、HDMI Licensing Administrator, Inc.は、次世代規格の技術検討委員会を設置した。委員会には、ソニー、パナソニック、サムスン電子、LGエレクトロニクスなど主要な家電メーカーのほか、エヌビディア、AMDなどのGPUメーカーも参加した。
技術仕様の策定
委員会では、伝送帯域幅の目標値設定が最初の課題となった。当初は64Gbpsが提案されたが、2026年2月の会議において、ソニーの技術者である田中宏樹氏が「今後10年間の技術進歩を見据えるなら、より大きな余裕を持たせるべきだ」と主張し、最終的に96Gbpsが採用された。
物理層の仕様については、既存のHDMI2.1で採用されていたFRL(Fixed Rate Link)方式を発展させたFRL+方式が採用された。この方式では、4レーンそれぞれで24Gbpsの伝送速度を実現し、合計96Gbpsを達成している。信号変調方式には、従来の16b/18b符号化に代わり、新たに開発された128b/132b符号化が採用された。これにより、オーバーヘッドが約11.1%から約3.0%へと大幅に削減された。
ケーブル仕様の検討では、伝送距離の維持が重要な論点となった。高周波数帯域での信号減衰を抑制するため、導体材質の見直しやシールド構造の改良が行われた。その結果、3メートルまでのケーブル長において、フルスペックでの伝送が保証されることとなった。
正式発表
2027年11月、HDMI Licensing Administrator, Inc.は、仕様策定が最終段階に入ったことを発表した。2028年1月9日、米国ラスベガスで開催されたCESにおいて、HDMI6.0の正式仕様が公開された。発表会には、HDMI Licensing Administratorの社長であるロバート・ブランチャード氏が登壇し、新規格の技術的特徴について説明を行った。
主な技術仕様
伝送帯域幅と解像度
HDMI6.0の最大伝送帯域幅は96Gbpsである。この帯域幅により、以下の映像フォーマットに対応している。
16K(15360×8640ピクセル)映像を60Hzのリフレッシュレートで、RGB 4:4:4、10ビット色深度にて伝送可能である。8K(7680×4320ピクセル)映像については、480Hzまでのリフレッシュレートに対応し、同様にRGB 4:4:4、10ビット色深度での伝送が可能となった。4K(3840×2160ピクセル)映像では、960Hzまでのリフレッシュレートが理論上可能である。
色空間とHDR対応
色空間については、従来からのRec.709、Rec.2020に加え、新たに策定されたRec.2100-2規格にも対応している。HDR(ハイダイナミックレンジ)については、HDR10、HDR10+、Dolby Visionに加え、2027年に標準化されたHDR Vivid+規格にも対応した。
動的メタデータの伝送機能が強化され、フレーム単位でのメタデータ更新が可能となった。これにより、シーンごとの最適な輝度調整がより精密に行えるようになった。
音声機能
音声伝送については、最大32チャンネル、サンプリングレート1536kHzまで対応している。非圧縮音声フォーマットに加え、Dolby Atmos、DTS:X Pro、MPEG-H 3D Audioなどのイマーシブオーディオフォーマットに対応した。
新機能として、音声と映像の同期精度を向上させるA/V Sync Enhancement機能が追加された。この機能により、遅延時間の測定と自動補正が行われ、リップシンクのずれが最小化される。
ゲーミング機能
ゲーミング用途向けの機能として、HDMI2.1で導入されたVRR(可変リフレッシュレート)、ALLM(自動低レイテンシモード)が継承されている。新たに、QFT+(Quick Frame Transport Plus)機能が追加され、フレーム転送の遅延時間がさらに短縮された。
また、ゲーム機とディスプレイ間での詳細な性能情報交換を可能にするGaming Performance Protocol機能が実装された。この機能により、ディスプレイ側が対応する最大フレームレートや入力遅延時間などの情報をゲーム機に通知し、最適な映像出力設定が自動的に行われる。
ケーブルと認証
ケーブル規格
HDMI6.0に対応したケーブルは、Ultra High Speed HDMI Cable Category 2として分類される。ケーブルの構造は、4対の差動信号線と、電源供給用の線、DDC(Display Data Channel)用の線から構成される。導体には純度99.99%以上の無酸素銅が使用され、シールドには3層構造が採用されている。
認証テストでは、96Gbpsでの伝送時における誤り率が10のマイナス12乗以下であることが求められる。また、EMI(電磁妨害)規制への適合も必須要件となっている。
コネクタ形状
コネクタの物理形状は、HDMI2.1と同一のType Aコネクタが使用されている。これにより、既存のHDMI機器との物理的な互換性が保たれている。ただし、フルスペックの性能を発揮するためには、HDMI6.0対応のケーブルとデバイスの組み合わせが必要である。
市場展開
対応製品の登場
2029年7月、ソニーが最初のHDMI6.0対応テレビを発表した。85インチの8K液晶テレビで、480Hzのリフレッシュレートに対応したゲーミングモードを搭載していた。同年9月には、サムスン電子とLGエレクトロニクスも対応製品を投入した。
GPU市場では、2029年11月にエヌビディアがGeForce RTX 6090を発表し、HDMI6.0出力に対応した。AMDも2030年2月のRadeon RX 9900 XTでHDMI6.0に対応した。
ゲーム機では、2030年11月に発売されたPlayStation 6が、HDMI6.0を標準搭載した最初の家庭用ゲーム機となった。
普及状況
2031年末時点での調査によると、新規に販売される8Kテレビの約65%がHDMI6.0に対応していた。4Kテレビにおける対応率は約30%にとどまっていたが、ゲーミング向けの高リフレッシュレートモデルでは80%以上が対応していた。
業務用途では、医療用モニターや放送用マスターモニターにおいて採用が進んだ。特に、病理画像診断や内視鏡画像の表示において、高解像度化による診断精度の向上が報告された。
技術的評価
DisplayPortとの比較
同時期に存在するDisplayPort2.1規格と比較すると、HDMI6.0は帯域幅において優位性を持つ。一方、DisplayPortはMST(Multi-Stream Transport)機能により、1本のケーブルで複数のディスプレイへの出力が可能という特徴を持つ。
実用面では、HDMI6.0は家電製品やゲーム機での採用が中心であり、DisplayPort2.1はPC用モニターや業務用機器での採用が多い傾向が続いている。
技術的課題
高周波数信号の伝送に伴い、ケーブル品質による性能差が顕在化しやすくなった。粗悪な非認証ケーブルでは、映像の乱れやリンク確立の失敗が報告されている。このため、認証ケーブルの使用が推奨されている。
また、既存のHDMI機器との互換性確保のため、接続時のネゴシエーション処理が複雑化し、一部の機器で認識に時間がかかるケースが報告されている。