タイラント・キリエは、全50話のテレビアニメーション作品『ギャラクティック・フェイト』に登場する人物である。彼は、太陽系を中心とする惑星連合政府の統治に反対する武装組織「アルタイル解放戦線」の最高指導者であり、同組織の宇宙戦艦「アケロン」の艦長を務めている。また、指揮官であると同時に、深紅の専用人型機動兵器「ヴェイガン」を駆るパイロットでもある。物語の第一話から登場し、主人公カイト・ミナヅキが所属する連合軍第7艦隊と幾度となく衝突する、作品全体を通じた主要なライバルとして位置づけられている。

キリエは、辺境の資源採掘コロニー「ヘリオス7」の出身である。ヘリオス7は、連合政府の基幹産業を支える重要鉱物「ネオタイト」の主要産地であったが、そのために重い資源供出ノルマと経済的搾取を受けていた。キリエの父親であるアラン・キリエは、コロニーの自治権を求める穏健派の代表であり、対話による解決を模索していた。しかし、物語開始の10年前、アランが主導した平和的な抗議デモに対し、連合軍の治安維持部隊が武力介入する「ヘリオス7事件」が発生。公式記録では、暴徒化した住民によるテロ行為の鎮圧とされているが、実際には非武装の市民に対する一方的な武力行使であった。この事件でキリエは父親を含む多くの知人を失い、当時15歳だった彼は、連合政府への根深い不信感と、力による変革の必要性を認識することとなる。 事件後、キリエは数少ない生存者と共にコロニーを脱出。その後、数年間の足取りは不明瞭だが、作中の回想では、身分を隠して輸送船の護衛や傭兵として活動し、操縦技術と実戦指揮を学んだことが示唆されている。この時期、彼は連合政府の統治がヘリオス7以外の多くのコロニーにも歪みをもたらしている現実を目の当たりにする。彼は各地で活動する小規模な反連合勢力と接触を重ね、徐々にそのカリスマ性と卓越した戦術眼で頭角を現していく。「タイラント」という異名は、この時期に彼が指揮した連合軍補給基地襲撃作戦において、最小限の戦力で基地機能を完璧に麻痺させた手際と、捕虜の扱いに一切の情を挟まない(ただし、不必要な殺害はしない)冷徹さから、連合軍兵士が恐れを込めて呼称したものが起源とされる。物語開始の2年前、彼は分裂状態にあったヘリオス星系周辺の反連合組織を武力と交渉によってまとめ上げ、「アルタイル解放戦線」を結成。自らその頂点に立ち、連合政府に対する組織的な抵抗運動を開始した。

作中での彼の行動は、常に解放戦線の指導者として、連合軍の戦力を削ぎ、コロニーの独立を勝ち取るという目的に沿って展開される。 物語序盤(第2話~第8話)、キリエはアルタイル解放戦線を率い、連合軍の最重要補給路である「オリオン・アーム輸送ルート」の完全遮断作戦を実行する。彼はデブリ帯に潜伏し、連合軍の護衛艦隊の隙を突く奇襲戦術を採用。自らヴェイガンで出撃し、主人公カイトが所属する部隊と初めて交戦する。この戦闘で、キリエはカイトの未熟さを見抜き、戦闘技術の差を見せつけ、カイトの僚機を撃墜(パイロットは生還)し、第7艦隊に大きな損害を与えて撤退させる。 中盤(第20話~第25話)、連合軍はキリエの活動拠点であり、彼の故郷でもあるヘリオス7の奪還作戦「オペレーション・レクイエム」を発動する。キリエは故郷の防衛戦を自ら指揮し、コロニーの複雑な内部構造を利用したゲリラ戦術で、物量に勝る連合軍を苦しめる。しかし、連合軍の新型兵器の投入と、キリエの戦術パターンを学習したカイトの奮戦により、解放戦線は徐々に追い詰められていく。キリエは、コロニーに残る民間人の脱出時間を稼ぐため、あえて自機を囮とし、カイトの試作機「イクシオン」との一騎打ちに臨む。激しい戦闘の末、ヴェイガンは左腕を失うなど中破するが、民間人の脱出は完了。キリエは副司令サラの手引きで戦場を離脱する。この戦いを通じて、カイトはキリエが守ろうとするものの存在を意識し始める。 終盤(第40話~)、キリエは独自の情報網を通じて、連合政府内部の強硬派が、解放戦線を含む全ての反連合勢力を一掃するため、座標指定型の大量破壊兵器「ゼウス・ハンマー」の使用を計画していることを察知する。この兵器が使用されれば、ヘリオス7だけでなく、戦闘と無関係な中立コロニーにも壊滅的な被害が及ぶことを危惧したキリエは、組織内部の反対を押し切り、宿敵である連合軍第7艦隊、特にカイト個人に対して休戦と一時的な共闘を申し入れる。この決断は、彼の目的が単なる連合への復讐ではなく、無益な犠牲を防ぐことにあることを示す重要な転機となった。

彼の周囲には、異なる立場の人物が存在し、複雑な関係性を構築している。 カイト・ミナヅキは、物語の主人公であり、連合軍第7艦隊のパイロットである。当初、カイトは故郷を戦場に変えたキリエをテロリストとして強く憎悪していた。しかし、戦場で幾度となく対峙し、キリエの信念や彼が背負う人々の想いに触れる中で、キリエを単なる悪と断じることができなくなっていく。二人は宿敵でありながらも、互いの実力を認め合う奇妙な共感関係を築いていく。 サラ・ヴィンセントは、アルタイル解放戦線の副司令官であり、キリエの幼馴染である。ヘリオス7事件で家族を失い、キリエと共にコロニーを脱出した過去を持つ。キリエの最も信頼する腹心であり、作戦立案の補佐から政治的交渉まで幅広く彼をサポートする。冷静なキリエとは対照的に情熱的な性格だが、キリエの理想主義的な側面と、指導者としての孤独を深く理解している。 ギデオン・ラウは、連合軍第7艦隊の司令官であり、カイトの上官である。彼はヘリオス7事件当時、治安維持部隊の現場指揮官を務めており、キリエにとっては父親アランの仇とも言える存在である。ギデオン自身も当時の過剰な武力行使を後悔しており、その贖罪のために軍内部での改革を目指している。キリエとギデオンの因縁は、物語の縦軸の一つとなっている。 バロム・シュタイナーは、解放戦線内部の急進派を率いる幹部である。彼はキリエの戦闘能力を認めつつも、その(彼から見れば)手ぬるい戦い方や、連合との共闘も辞さない柔軟すぎる姿勢に不満を抱いている。彼は徹底的な武力闘争による連合の打倒を主張しており、キリエの指導者としての地位を脅かす内部の対立要因として機能する。

キリエは、常に冷静沈着で、感情をあまり表に出さない人物として描かれている。指導者としての強い責任感を持ち、自らの行動が多くの人々の運命を左右することを深く自覚している。彼の行動原理は、ヘリオス7事件の経験から生まれた「力によって奪われたものは、力によってしか取り戻せない」という信念に基づいている。父親が信奉した対話路線が武力によって無残に踏みにじられたトラウマから、連合政府という巨大な権力構造に対抗するためには、同等以上の実力(武力)が必要であると結論付けている。 しかし、彼は本質的に暴力を肯定しているわけではない。戦闘においては、敵兵であっても命を奪うことを極力避け、兵器の無力化を優先する描写が散見される。また、自軍の兵士の損耗を最小限に抑えるため、常に緻密な作戦を立て、自ら最も危険な任務に赴くことも少なくない。部下からは「厳格だが、常に我々の命を考えてくれる指揮官」として、深い信頼と忠誠を集めている。 「タイラント(暴君)」という異名については、彼自身が「理想を守るために、あえて冷酷な現実主義者でなければならない」という自戒として受け入れている節がある。彼は常に、理想(コロニーの解放)と現実(武力闘争による犠D牲)の間で葛藤しており、その人間的な苦悩が、彼のキャラクターに深みを与えている。

タイラント・キリエの存在は、『ギャラクティック・フェイト』という物語において、単なる敵役以上の重要な役割を果たしている。彼の行動と背景が明かされることで、視聴者は「連合=正義、解放戦線=悪」という単純な二元論ではこの世界の対立を理解できないことを知る。彼は、連合政府の統治システムが抱える構造的な問題点や、搾取される辺境コロニーの現実を象徴する存在である。 彼の存在は、主人公カイト・ミナヅキの精神的な成長に決定的な影響を与えた。当初は命令に従うだけの兵士であったカイトが、キリエという鏡を通して自らの正義を問い直し、組織の論理を超えて行動する「個」として自立していく上で、キリエの存在は不可欠であった。 また、物語終盤における彼の「敵との共闘」という決断は、連合政府内部の強硬派と穏健派の対立を表面化させ、物語を予測不能な方向へと導く最大の転換点となった。キリエの行動がなければ、ゼウス・ハンマーの使用によって引き起こされたであろう破局的な結末を回避することはできなかった。彼は、主人公とは異なる立場から、作品のテーマである「対立と和解の可能性」を体現する、もう一人の主人公とも言えるキャラクターである。