数日かけて制作したデザイン案を絞り込み、メール文に添付して送信する。
宛先はもちろん担当であるチョンさんだ。
『 いつもお世話になっております。
先日承りましたデザインが上がりましたので添付致します。
ご検討の程宜しくお願い致します。
シム 』
堅苦しい定型文に簡単すぎる名前の名乗り方。
これでも十分に分かるはずだ。
後がつかえている仕事に手を付けたいところだけど、すぐに来るであろう返事を貰ってからの方が集中出来ると踏んで、今か今かとデスクに齧り付きながら待った。
やがて返事のメールが来た事を知らせる電子音がピコンと鳴って、早速クリックして内容を確認する。
『 いつもお世話になっております。
添付内容を確認しました。
上から順番に三点に絞りたいと思います。
つきましてはサンプルの状態にて確認したいので、週明けに提出をお願いしたいと思います。
打ち合わせもしたいですが、都合等はいかがでしょうか。
チョン 』
同じように返ってくる仕事で縛られた文章。
黙っていると冷たそうに見えるあの表情でメールを打っているのだろうか。
それとも。
僕もすぐさま返信をする。
『 かしこまりました。
ではすぐにサンプルを手配致しますので、打ち合わせの時間が決まりましたら連絡を下さい。
・・・で、
明日の土曜日は休みでしたよね。家に来ますか? 』
送信してからニヤけてしまう顔を管理するのが大変だ。
チョンさんも同じだったら嬉しいんだけど。
すぐに来た返事が、更に笑みを大きくさせる。
ピコッ
『 行く 』
『 じゃあ、泊まりになりますよね?
着替えまでじゃなくても、替えの下着は持って来た方がいいですね。
だってほら、チョンさんはちょっと触っただけでも我慢出来なくなるから、すぐに濡らしてベタベタにしたりするでしょう?
そうなると・・・予定枚数より多めがいいですよ 』
・・・送信。
ピコッ
『 うるさいバカ!』
「、ぶっふぉっ!」
思った通りのチョンさんの反応に、つい吹き出してしまった。
引き続き腹を抱えて笑いたいところだけど、膨らましかけていた風船の口から空気が抜けて萎む時のような音をフロアに響かせてしまったので、周りの視線が集中している中で笑う事は難しい。
本人の前で笑う事にしよう。
僕の強引な申し出を断る事無く受け入れたチョンさんとホテルに行ったあの日。
当たり前だけど、普段の仕事ぶりからは想像もつかない彼の一面を目の当たりにして目から鱗が落ちた。
本当にするのかと聞くのに、期待で前を固くして。
不安を隠して、僕を迎え入れる準備までして。
もう大丈夫だからと、突き入れた中は熱くて柔らかくて纏いつくようで・・・動くたびに艶めかしく反応する媚態に酔いしれて魂ごと持っていかれそうだった。
身体を離したくなくて抱きしめて眠るなどという、今までの自分と比べるとどうかしたのかと思うようなロマンチックかつセンチメンタルめいた事をしたのに。
チョンさんが長い睫毛に縁取られた瞼をゆっくりと持ち上げ、その瞳に僕が映るのを見たかったというのに。
結果として、見る前に頭突きされた。
「・・・朝っ!遅刻するっ!」
・・・僕の顔を見る前に、なんか明るいって思ったのでしょうね。
僕と過ごした夜を夢とすり替えていた可能性が高い。
飛び起きようとして、抱きしめられているから上手く動けず僕に頭突きをかまし、その拍子に腕からすり抜けてベッドから無様に転がり落ちた。
額の激痛に悶絶しながら下を見ると、あられもない格好で転がっているし。
「・・・何もかも丸見えになっていますよ」
「っ!うわあぁぁぁぁっ!!」
大の字になって悲鳴をあげるこの人が、仕事出来るオーラをバリバリ出しているチョンさんと同一人物っていうのも信じ難い。
優秀なサラリーマンで夜はエロエロなチョンさんは、実は意外とそそっかしい人なのか。
本当に目から鱗だ。
すぐさま記憶と現実を一致させたらしいチョンさんが、顔を真っ赤にしたまま膝立ちで僕に近づいて来て、上目遣いで覗き込んできて。
「ぶつかっちゃったよな?・・・ごめん、大丈夫か?」
キュルンと音がしそうな潤んだ瞳で至近距離から見つめられて、心拍数急上昇で赤面した僕を彼の瞳の中で見つけてしまった。
こんなはずではなかったんだけど、まぁこれは仕方が無かったと思う。
優秀なサラリーマンで夜はエロエロなチョンさんは、実は意外とそそっかしくて。
そして、可愛い人だった。
本当に目から鱗だ・・・。