私の母がとある介護施設に
入所していた頃の話。
私の母は認知症を患っている。
だんだんと意思表示も曖昧になって
日頃からぽわ~んとしていた。
そんな母に毎日声をかけて下さる
ご年配の女性がいた。
同じ施設に入所している方で
ハキハキしてとても明るい方だった。
ある日のこと。
母を気遣って下さっているその方に
どうしても御礼が言いたくて、
私の方からお声をかけた。
すると、
その方は私を見るなり、
大きな声でこう言った。
あら~~!!貴方!!
なんて、綺麗なの~~???
結婚してるの??
良い人見つけなさい。
子供を産むなら女の子がいいわよ。
私が面倒見てあげるから。
突然 矢継ぎ早に話しかけられ、
驚いて ただただ微笑む私。
褒められ慣れていないので、
お世辞と分かっていても
なんと返したらいいのか
分からなかった。
とはいえ、
やっぱり嬉しい。
それから何日かして
又母の所へ行った。
廊下であのセリフが聞こえてきた。
あら~~!!貴方!!
なんて、綺麗なの~~???
結婚してるの??
良い人見つけなさい。
子供を産むなら女の子がいいわよ。
私が面倒見てあげるから。
ふふふ。
もう私に気づいたのね。
今度はちゃんと言葉を返そう。
そう思って振り返ると、
その方はちっとも
私なんて見ていなかった。
その方の側には
車椅子に乗った母の姿があった。
母の頭を撫でながら、
子供を産むなら女の子がいいわよ。
と繰り返していた。
80になろうとする母に…。
そう。
その方も母と同じだった。
認知症って、
心配だし、
家族は辛いけど、
こんな可愛らしい症状だったら、
いいんじゃないのかな。

とても微笑ましい時間が流れていた。
それ以来。
その方にお会いする度、
厚かましい自分を思い出して
とてつもなく恥ずかしくなった。
