餌場を設置すれば、ホイホイとすぐに小鳥がきてくれるわけではない。世の中、そんなに甘くはないのだ。

うちから表の道路にでると、メジロが気にとまっているのがみえるし、遠くの方ではシジュウカラの鳴き声も聞こえる。
しかし、どうやって彼らに、うちの裏庭にミカンがあることを伝えられるのか?

うちの庭は、周りをマンションに囲まれている。生垣もあるから更に見通しが悪くなる。
東京のビルの森の中に置かれたミカンなど、誰にも見つからないのではないかと思っていた。
そして実際に、数日の間、餌場に置かれたミカンは手つかずの状態が続いていた。

ところが、意外に早く変化が訪れた。

4日目くらいだったろうか。餌場のミカンを確認しにいくと、なにやらつついたあとのようになっていて、明らかにミカンが減っているのだ。まわりに小鳥の影はない。しかし、ミカンの果実だけが器用に啄まれており、猫などの食べたあととは、到底思えない。これが小鳥の仕業であることは、明らかだった。
当時僕は、週に4日くらいテレワークで働いており、比較的簡単に庭をみることができる状態だった。そこで、ちょっとした部屋の模様替えをして、机を窓際に持ってきて、カーテンも細く開け、いつでも小鳥を確認できる状態にしておいた。
こうして、仕事をしながら合間に餌場を確認する、ということを何時間か続けていた。

すると、ついに現れたのだ。

それはメジロだった。用心深そうに、常に周りを見回している。そして、脅威になるものがないことを確認すると、素早く餌場に飛び乗り、ミカンをつつく。ちょっとつついたら、またすぐに餌場から離れ、生垣の中に隠れる、ということを繰り返していた。

【Fig.1] 餌場に現れたメジロ


メジロは小さい鳥だ。見かけでは、スズメよりも小さいと感じる。
ミカンをつついている間も、ひっきりなしに首を動かし、周囲を見回している。
あの敏感さは、長い時間をかけて身につけた生き残りの知恵なのかもしれない。

そういえば、DIYの師匠がネズミ対策でエアコンの室外機の裏などに粘着シートを置いたところ、なぜかイソヒヨドリがかかってしまったことがあった。それも複数回である。
そんな建物の近くに小鳥がくると思っておらず、とても驚いたそうだ。
都会の住宅地に住み、野生動物とは無縁の生活を送っているつもりでも、それは人間の論理であって、実際の環境は必ずしもそうはなっていない。小鳥や虫たちは、人間が気づかないだけで、案外すぐそばまで来ているのかもしれない。

そんなわけで、餌場に置いたミカンを見つけてもらえないのではないか、という心配は杞憂であり、僕のうちの庭も、色々な生き物が遊びに来ており、それも生垣の周りといったレベルではなく、おそらくエアコンの室外機の裏や、ガスのボイラーの周りといった、建物のすぐそばまで来ているのではないかと思われる。
生垣から吊るした餌場のミカンなど、見つけるのに造作はないことなのだろう。もしかすると、ミカンが食べられていなかった三日の間も、メジロは既にミカンをみつけていて、危険がないかどうか遠巻きに眺めていたのかもしれない。僕ら人間はそんなことも露知らず、なかなか見つけてくれないと心配していたのかもしれない。
そんなことを考えると、なんだか自分が間抜けな気がして、なんとも可笑しな気分になった。

さて、餌場にくるメジロを観察していると、一羽だけではなく、必ずつがいで来ていることに気づいた。しかし、二羽仲良く食べるのではなく、一羽が食べている間、もう一羽は必ず近くで待機し、見張りをしている。
そして、数口食べると役割を交代する。これを何回か繰り返したら、一旦餌場を離れて様子を見る。こんなことを何回も繰り返しているのだ。
見ているこちらはのんびりおやつの時間のつもりだが、メジロたちにとっては命がけの食事なのかもしれない、と思った。