横断歩道で立ち止まっている小学生に、車を一時停止して渡らせてあげた。するとその小学生は、急ぎ足で渡って振り向いて、ペコリとお辞儀して素敵な笑顔を見せてくれた。

 

「ありがとうございました!」

 

と大きな声でお礼を言う。

 

 びっくりした。え、まじで?そんなに礼儀ただしいのか今どきの子は。僕が子どもの頃はこんなこと絶対しなかったぞ。すごいな小学生。

 

 おかげで僕はとても気分が良くなって、その後の一日を気持ちよく過ごすことが出来た。今では通学時間帯や学校の近くでは、歩いている子どもをキョロキョロと探すようになった。

 

「渡ろうとしている子はいないかなあ」

 

 そんな感じだ。そうなると当然、横断歩道の近くでは速度を落とすようになる。なるほどこれは良い傾向だ。小学生のほんの少しの礼儀正しさから、交通安全のきっかけが生まれていると言える。大人である僕たちドライバーの中にも、目配りや優しい気持ちが育ってゆく。

 

 それ以来、横断歩道で子どもたちを注意深く見るけど、頭を下げる子どもはとても多い。時代なのか土地柄なのか、みんな礼儀正しくて気持ちよい。

 

 車を走らせていると他の車との譲り合いも様々だ。僕はなるべく先を譲るようにしていて、相手に譲ってもらった時はきちんと頭を下げる事を心がけている。

 道をゆずってもらった後には、僕も誰かに道を譲ってあげたい気持ちになる。こうした時は自分の心の中が、優しい気持ちでフカフカにつまっている感じになる。

 

 優しさは連鎖する。受け取った優しさは次の誰かに引き渡されて、何度でも何倍にも増えて繋がってゆく。通りすがりの対向車であっても、ほんの一瞬の優しさを与えたり、受け取ったりすることは出来るものなのだ。

 

 この前、信号待ちしていたら、対向車の人が手を挙げたから僕もあわてて手を挙げた。するとその人はただ頭を掻いただけだったので、僕も何気なく頭を掻くことにした。

 

 すれ違いざま対向車のおじさんが大きな口をあけてあくびをしていた。

「あらまあすごい顔だ」と笑っていたら、僕もつられてあくびが出そうになった。

「絶対にうつるまい」とあくびを噛み殺そうと努力した。とてもつらい戦いだった。