前回の続きから。
その当時、私より20歳ほど年上の女性が入職して私には後輩というものが出来ました。
しかし、仕事上では私が指導したりしますが母親ほど離れたその方には常に敬意を払っていたつもりです。悪く言えば、その態度から下に見られていたのだと思います。
ある日の勤務終了後のことです。
その方と途中まで一緒に帰路についておりました。
すると思い出したように「あ!」と声を上げられたので当然「どうしました?」と聞きますよね。
すると「子供のゼッケンを買わないといけないんだけど今日手持ちがなくて…」とこちらを一瞥しながら言うのです。
「ああ、これは私に金を貸せということか」とすぐに察しました。
「ごめんけど、千円貸してもらえないかな?」と申し訳なさそうに相手は手を合わせてこちらの様子を窺ってきます。
まだ20代前半で気も弱く、また金額もそんなに高いものではなかったので貸してしまいました。
翌日にはきちんとお礼も言われ、千円も返ってきましたしそれで終わりだと安心したのです。
しかし、それは始まりにすぎませんでした。
それから1・2カ月経った頃でしょうか。
今度は「1万円貸してほしい」と言われました。
「給料日には絶対に返すから」とはっきり拒絶することが出来なかった私は畳みかけられ、また貸してしまいました。
給料日を迎えてもなかなか返ってきませんでしたが、なんとか返してほしい旨を伝えて返してはもらいました。
やっとそのことがあってから「もし次また言われても断ろう」と強く決意しました。
そして、その機会は訪れたのです。
その日も勤務を終えて、帰路についている時でした。
しかし今までと違ったのは、その方と途中で別れた後にわざわざ電話を掛けてきてそこで告げてこられたということです。
「6万3千円を貸してほしい」
相手はそう言ってきました。
開いた口が塞がりません。金額が今までと比にならないくらい大きいですし、さっきまで一緒に居たにも関わらず、わざわざ別れた後に電話口で言ってきた意図もわかりません。
私と別れた後に、それだけのお金が急に必要になるようなことがあったのか、直接ではなく電話でという方が良いと思ったのか、意図は分かりませんがそういう演出なのか。
今でも分かっていません。
取り敢えずそんな金額を貸せるわけもありませんので「無理です」と断りました。
しかし相手も諦めません。勝手にお金が必要になった理由を私に説いてきます。
「一人暮らしをしている大学生の息子が家賃を滞納していたらしくてすぐに払わないと追い出されるみたいで…」
いや、知らんがな。
何で私がそれを建て替えなきゃいけないのか。そんな気持ちでいっぱいでした。
取り敢えず「私も一人暮らしでそんなに余裕ないので…」と言葉を繰り返すしかありません。
相手はなんとか諦めてくれましたが、ターゲットを変えるつもりなのか「〇〇さんの連絡先知ってる?」と聞いてきました。
〇〇さんは同じく看護助手として働いているスタッフです。
知っていましたが、勿論教えるわけにはいかないので「知らないです」と返し、電話を終えました。
そして翌日。
念の為、〇〇さんに事情を話して用心するように伝えておこうと話しかけました。
しかし、遅かったようです。
昨日私と通話を終えた後、違うスタッフを通して連絡先を手に入れたようで○○さんにも既にその話がされた後でした。
○○さんは勿論、断ったようでした。
「あまりにも金額が大きいですしね…」と私が呟くと○○さんも大きく頷いて同意します。
「6万円はねえ…」
はい?なんでやねん。
なんで私の方が3千円高いんや。
エセ関西弁が出てしまう程、動揺しました。
一人暮らしでひいひい言ってる二十歳そこそこの小娘と勤務歴30年のベテランを比べて、私の方が何故多く取れると思ったのか。
今考えてもわかりませんが、そのことが決定打となり、その方を勤務以外では避けるようになりました。
更に、看護助手の内のほとんどがそういう声が掛かっていたことも、看護師にまで数人に言っていたことも分かり、病棟スタッフ内で噂が広まっていきました。
そのことからも「その人はお金に困ってる人。他人にお金を借りようとする人。」という共通認識が確立されていた為、病棟内の盗難事件はその人が犯人だろうという空気が出来上がっておりました。
中には「それに便乗して違うスタッフがやったのかも」と言う人もいましたが、スタッフのほとんどが警察の事情聴取で「金銭トラブルのありそうな人は?」と聞かれれば、その人の名前を挙げただろうと思います。
私も実際にそれまでのやり取りを全て警察にはお話ししました。
続きはまた次回に!