あれから、もう7年の月日が流れてしまいました。

 

両親を連れて出かけた、山梨・石和温泉の夜の記憶です。

 

石和温泉を訪れるのは、ちょうど1年ぶりくらいだったでしょうか。

 

今時では珍しく、大勢の従業員の方々がずらりと並んで笑顔で出迎えてくれる、どこか懐かしい温かさの残るホテルでした。

 

ウェルカムドリンクで喉を潤し、丁寧な手続きを済ませて部屋へと向かいます。

 

用意されていたのは、贅沢な露天風呂付きの部屋でした。

 

 

窓の外に目をやれば、抜けるような秋晴れの向こうに、遠くの山々がくっきりと美しいシルエットを描いてそびえ立っています。

 

 

夕食の前に、ふと思い立って久しぶりに父親と大浴場へ足を運びました。

 

湯気立ち込める湯船のなかで、私は父の背中を流しました。

 

今にして思えば、あの時が父親の背中を流した「人生の最後」だったのかもしれません。

 

 

温泉のお湯は驚くほど肌にしっとりと馴染み、当時少しずつ体に感じ始めていた痛みを、優しく和らげてくれたのを覚えています。

 

 

夕食は部屋食ではなく、落ち着いた個室でいただきました。

 

テーブルを埋め尽くすほどの品数に、「どれから箸をつけようか」と嬉しい迷いを覚えます。

 

 

料理長がわざわざ部屋まで来て目の前で揚げてくれた天婦羅は、サクッとした音と香ばしさだけで何倍も美味しく感じられるご馳走でした。

 

 

名物の甲州牛サーロインステーキも、口の中でほどけるような柔らかさと、しっかりとした旨みが絶妙です。

 

 

ただ、あまりのボリュームの豊かさに、「歳を取ると、全部を平らげるのはなかなかの大仕事だな」と、嬉しい悲鳴を上げつつ箸を進めました。

 

 

翌朝の朝食は、種類豊富なバイキングを選びました。

 

大浴場の近くにある会場に一歩足を踏み入れると、右手にずらりと並ぶ色鮮やかな料理の数々に目を奪われます。

 

和食から洋食まで50種類以上が並び、職人さんがその場で腕を振るう実演コーナーがあちこちで湯気を上げていました。

 

欲張って山梨名物のほうとうや、お蕎麦まで手を出してしまい、朝からお腹はパンパンです。

 

 

ふと、「こんな贅沢な旅を、もっと若いころに両親とたくさんしたかったな…」そんな少し切ない思いが胸をよぎります。

 

けれど、いくつになっても、好きなものを好きなだけ選ぶバイキングのワクワク感は変わりません。

 

「ご馳走様でした」と宿をあとにする時も、到着時と同じように多くの従業員の方々が深々と頭を下げて見送ってくださいました。

効率ばかりが優先されるこのご時世に、昭和の時代のような温かな真心に包まれる素晴らしいホテルでした。

 

いつの日か、また必ずこのお湯に浸かりに再訪したいものです。

 

皆さんは、今でも大切な人と交わした「あの日の温もり」を、どんな瞬間に思い出しますか?