みなさん、おはようございます。

 

ガタゴトと常に人の出入りがあり、威勢のいい声が響いている。それが、自営業を営む我が家の日常の風景だった。

 

しかし、その日は日曜日。店はお休みで、朝から父は地元の青年部会の野球に出かけていた。 

家の中に残されたのは、母と妹、そして5歳の私の3人。お昼頃、近所の小学校で開かれている運動会へ、母がちょっとしたお祝いを届けに行くことになった。

 

「ちょっと行ってくるから、お留守番しててね」

 

母はまだ小さな妹の手を引いて、玄関を出ていった。 

残された私は一人、テレビの前に座る。最初はいつものテレビまんがでも眺めていたのだろう。だが、時間が経つにつれて、ある「異変」が幼い心に忍び寄ってきた。

 

普段、あれほど賑やかな家の中が、シン……と底の方から冷たく静まり返っていくのだ。誰もいない奥の部屋から漂ってくる、生々しいほどの静寂。柱時計の秒針の音だけが、居間に妙に大きく響き始める。

 

(お父さんに、会いたい)

 

静けさに耐えかねた5歳の心は、寂しさの限界をあっさりと超えた。「そうだ、お父さんを探しに行こう」。そう思い立つや否や、私は靴を突っかけ、衝動のままに家を飛び出していた。

 

当時の記憶は、セピア色の断片でしかない。 

私はまず、母たちが向かったはずの小学校へと足を向けた。そこは、翌年には自分が入学する予定の、まだ見ぬ未知の世界。普段なら少し緊張して見上げる場所だが、その日は違った。門をくぐると、そこは色とりどりの万国旗がはためき、大勢の人頭がひしめき合う砂埃の世界。小さな私の視点では、砂漠の中で一本の針を探すようなものだ。大好きな父の姿など、どこにも見当たらない。

 

「ここにはいない。じゃあ、あっちだ」

 

根拠のない直感だけを頼りに、私は次に近くの中学校へと向かった。 

グラウンドへたどり着くと、確かにユニフォーム姿の集団が白球を追いかけている。胸を躍らせて近づき、フェンス越しにじっと目を凝らした。だが、そこにいたのは泥にまみれて部活動に励む、全く知らない中学生のお兄ちゃんたちばかり。探している父の姿は、やはりどこにもなかった。

 

一方その頃、用事を終えて自宅に戻った母は、もぬけの殻になったリビングを見て血の気が引いていた。 

すぐさま小学校へと引き返し、運動会の本部に駆け込んで迷子の校内放送を依頼する。賑やかな大歓声のグラウンドに、自分の名前が何度も何度も連呼されていたとは、当の本人は知る由もない。

 

そんな大騒ぎになっているとは露知らず、私は小さな足を一生謙命に動かし、元来た道を正確に辿って、家へと向かって歩いていた。あきらめて、帰ろうとしていたのだ。

 

その帰り道でのことだ。 向こうから、見覚えのある白い車が、スピードを落としながらこちらへ近づいてきた。

 

あ、お父さんの車だ。

 

母からの緊急連絡を受けたのだろう、野球をしていたはずの父が、ユニフォーム姿のまま慌てて車を走らせ、私を捜索しに戻ってきた真っ最中だったのだ。

 

窓越しに見えた父の、驚きと、すべてを許すような安堵が混ざり合った顔は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。こうして私は、炎天下の路上で無事に父親に「捕獲」され、助手席に乗せられて家へと帰り着いた。

 

あまりに必死すぎたせいか、不思議とその後の記憶はすっぽりと抜け落ちている。 

学校中を巻き込む大放送を流させ、両親の肝を冷やさせたのだから、帰宅後はそれなりに大目玉を食らったはずだ。だが、それすら覚えていないのは、大好きな父親の手のひらに包まれたあの瞬間の安心感が、幼心に何よりも勝っていたからに違いない。

 

大人になった今ならわかる。5歳児の徒歩圏内に、父親がいるわけがないのだ。それでも、あの「しんとした日曜日」の寂しさから逃れるために、がむしゃらに歩いたあの道は、私にとって最初の大冒険だった。

 

みなさんは子供の頃、寂しさに突き動かされて、今思えばとんでもない場所まで歩いていってしまった、そんな「大真面目な迷子」の記憶はありますか?

 

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 

それでは、今日も皆さんにとって良い一日になりますように。