花輪和一「刑務所の前」第3集 | 行雲流水的くっぞこ

花輪和一「刑務所の前」第3集

 去年出てたんですが、知らなくて(笑)。この3巻で完結です。

 花輪和一「刑務所の前」第3集(2007年)です。


 花輪さんは、1947年埼玉生まれ。1971年漫画家デビュー。


 この作品は、一風変わってるんですよ。3つの話が同時進行していきます。面白いです。

 この作品の冒頭に描かれているんですが、元々は、タイトル通り、花輪さんが逮捕される前の話を描く、ということだったみたいなんですね。知らない方に説明しますが、花輪さんは、ガン・マニアで、それが高じて、壊れた拳銃を手に入れ、1995年に改造銃の所持により逮捕されて、懲役3年の服役をされています。


 3つの話ですが、

 ・これがメインストーリーだと思うんですけど、戦国時代を舞台にした時代劇。

 ・元々の企画だと思われる、壊れた拳銃の修復工程。

 ・刑務所の内情。

これらの話が、各々の漫画の中に、唐突にはさみ込まれます。唐突というのは、ちょっと違いますね。例えば、時代劇で、主人公が「もう一つ幸せが欲しいな」というセリフのあと、拳銃を手に入れた花輪さんが、”あの時、筆者は、「幸せ」だったと思います”、と1人ごとを言ってるコマが入り、いきなり拳銃修理漫画が始まります。こんな感じで、微妙に関連はあるんですけど、切り替えが唐突なんですよね(笑)


 時代劇パートでの主人公は、花輪さんの漫画によく出てくる7-8歳くらいの女の子。娘は、多分、花輪さんの分身なんでしょうね。火縄銃を撃つのが好きで、現実的で、常識的な性格。周りを冷静な目で見ています。

 そして、花輪さんの漫画には珍しく、時代設定がはっきりしています。主人公の女の子が、火縄銃鍛冶屋の娘であり、永楽通宝が使われています。日本に鉄砲(火縄銃)が伝来したのは、1543年、永楽通宝は、中国からの輸入銭で、室町時代から江戸初期まで使われたお金です。これから、この物語の舞台が、戦国時代というのが分かります。

 そこで描かれているのは、親子関係について。金持ちの米問屋の親娘の関係。自立しようとする娘と、娘に依存する親。主人公親娘にも当てはまりますけどね。

 この作品は、花輪作品の中で、ファンタジー色が薄いからかもしれませんが、ストーリーが非常に分かりやすいです。


 そして、もう一つのメインストーリーと言っていい、拳銃の修復工程漫画(笑)。

 花輪さんは、ガンマニア仲間から、壊れて錆びまくっている拳銃を手に入れます。拳銃の錆びを、コンパスの針で一つ一つ取り除いて、ハンダで埋めていく~錆びて無くなっている部品は、モデルガンの部品を流用する~そんな風にして、少しずつ修理していくんですね。その様子が、微に入り細に入り、描写されていきます。

 子供の頃の拳銃の思い出や、本栖湖で行っていたガンマニアの集い(キャンプ)の思い出等も挟み込みながら。


 これに、刑務所内のエピソードが絡まって、不思議な読後感がありますね。各話は、直接は関係ない話なんですが、根っこは一緒というか。ここでも、テーマは、人間の業です。感動的なラスト。面白いです。


 もう一つ驚いたのは、各話の扉絵。

 うっそうと生い茂った林の中に、一本の年を経たようなゴツゴツこぶが出来ている木の幹が描かれています。初読のときは、線の濃淡が変わるくらいで、絵は変わらないなぁ~と思って、扉絵は、読み飛ばしてたんですね。半分以上読み進めて、扉絵をふと見ると、その木の幹に不動明王がいるんですよ。

 え!? と、今までの扉絵を改めて見直すと、だんだん木の幹から不動明王が現れてきているんですね。驚きました!