江戸川乱歩「三角館の恐怖」
ミステリー小説は好きなのですが、トリックが分かっても、そのトリックを理解できなかったミステリー、というのがあります。
私が小学生の頃ですが、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにはまり、それが長じてミステリー好きになる、という黄金パターンを私も踏襲していました。ポプラ社という出版社から出ていた、江戸川乱歩のジュブナイルミステリーのシリーズを繰り返し読んでいました。
そのシリーズに「三角館の恐怖」(昭和26年)という小説があります。アメリカのロージャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」を翻案したものです。翻案とは小説の粗筋だけを使って、それ以外は創作したものです。
当時はこの小説のメイントリックが理解できなかったんです(笑)
簡単な粗筋を話しますと…、
子供がいない金持ちのところに、養子として双子がひきとられます。その養父の遺言が「双子の兄弟のうち、長生きした方に全財産を譲る」というものでした。若いうちは気にならなかったこの遺言が、二人とも年をとってくると、だんだん気になってくる訳です。だんだんエスカレートして、とうとう屋敷を壁で対角線に二等分して、御互い行き来を絶ってしまいます。これが、この屋敷”三角館”の由来で。
弟は若いうちから健康に気をつけていましたが、兄は気にせずに暮らしてきたので、年を取ってから健康を害します。そこで兄は、弟にあの遺言を破棄して、財産を二等分しようと持ちかけます。そこで、事件が起こります。
詳しくは書きませんが、柄が無い短剣が背中に刺さって殺されてしまうんですけどね。
当時小学4-5年の私は、刃物の仕組みを知らなかったので、”柄が無い短剣”という状態が理解できなかったんです。
それから、三年ほど経った中学生のとき、テレビで刀鍛冶の番組を見ていたときの事。刀鍛冶が日本刀を分解していました。
「へぇ、刀ってこんなふうにして、柄を外すんだなぁ…あれっ?」
ここで、「三角館の恐怖」のトリックが全部理解できたんです。
理解するのに、三年かかったんですね(笑)。
「三角館の恐怖」は文庫本で読めますので、読んでない人は簡単に手に入りますので。どうぞ。
昭和36年~38年にかけて、生前最後(昭和39年没)の全集が出ましたが、乱歩さんは、手塚治虫さんと同じく、新しく全集が出るとその時勢に合わせて現代風に書き直します。この時も大分いじりました。
有名なところでは、長いからという理由で「目羅博士の不思議な犯罪」というタイトルを「目羅博士」に縮めたり、「盲獣」という小説では、変態っぽいからという理由で”鎌倉ハム大安売り”という章を丸々削ったり、ですね。
これ以後出版された、乱歩さんの小説は、この全集と同じバージョンで出ています。ただ、春陽堂書店の春陽文庫の全集では、この前述の全集以前に出版されていたものなので、「目羅~」も元のタイトルのままですし、「盲獣」も”鎌倉~”の章はそのままです。
読み比べてみるのも、面白いんじゃないでしょうか。