仲良しの兄から、太極拳で使うようにとチャイナ服上下をもらいました。シルク製でとても肌触りが良いです。きっと、僕の持っているどの服よりも高そうです。兄はお金持ちなので、衣装に糸目はつけないと思います。
早速、着込んで太極拳の手解きをしてもらいました。なんだか上手になったような気分です。「猫背だなあ」すぐにダメ出しです。「僕は格闘家だからファイティングポーズになっちゃうんだ」「言い訳しない」「はい」
さらに「狭いなあ」手の動きが小さいということでしょう。「僕は空手をやってるから、動きが大きいと突きが受けられないよ」「なんでも空手のせいにしない」「はい」もちろん、太極拳教室では一切口答えしません。
兄は何を思ったか、亀仙人のフィギュアを持ち出してきて「これに似てるねえ」確かに、チャイナ服を着た亀仙人は少し猫背です。それでも、亀仙人は武術の達人ですから、光栄に思いこそすれ、恥じるところではありません。
その日は頭陀袋ももらいました。お坊さんが托鉢をするときの袋です。お布施をする人は、お坊さんの持った鉢にお金や食べ物を入れます。お坊さんはその施し物を頭陀袋に移して、鉢を空にして托鉢を続けるのです。
兄は「托鉢に出ることがあったらこれを使ってね」と言いますが、そんな予定はありません。お寺さんのイベントのくじで当たったそうです。本来は首にかけて前にぶら下げますが、下の方にも紐を通す穴があるのでリュックサックにも使えます。
チャイナ服にしても、頭陀袋にしても、「良く似合ってるねえ」と兄が連発します。その発想は、単に僕のスキンヘッドからくるものに違いありません。きっと、亀仙人や托鉢僧に僕の頭を重ねてほくそ笑んでいるのです。
美しい妻は「チャイナ服はいつ着るの?」とか、「頭陀袋はちょっと大き過ぎない?」と訝しがります。もちろん、ファッション的には改良の余地があります。それにしても、自分では買えないものだけに、だんだん魅力的に思えてきます。