映画 「蛇の道」
コウがコワい。 …黙々と、虎視眈々と、それは、実行されていく。
黒沢清の、伝説の作品が、何とフランスで、セルフリメイクだそうな。
しかも、主演は、柴咲コウ! これは絶対、見逃せない1本ですね。
「修羅の極道 蛇の道」は、「修羅の極道 蜘蛛の糸」と二部作で、本作は前者。
30代の頃にVHSのレンタルビデオで見たんですが、はっきり言って、マニアックな世界。
主演の哀川翔は、塾の先生でしたが、本作の柴咲コウは、心療内科医。
“相棒”の香川照之は、ダミアン・ボナール。大柄なので、力はありそう。
小柄な小夜子と、がっしりしたアルベールの組み合わせが、何とも面白い。
物語の舞台はフランスだけど、都会ではなさそうな、ひっそりした街。
小夜子が、相手を特定し、2人で襲って、古い倉庫に連れて来る。
スタンガンで攻撃して気絶させ、寝袋に入れて運ぶのが笑えます。
手際が悪いようで、それなりに何とかなってしまうのが、クロサワスタイル。
鎖で手足を拘束し、ある映像を見せて、罪を自白させようとする。
連れて来られた男は、激しく抵抗しながらも、従わざるを得なくなってしまい…
どんよりして、湿気を帯びた独特の映像が、雰囲気タップリ。
柴咲コウの、ギロリとした目線が、いいですねえ。
「バトルロワイアル」を思い出すなあ。栗山千明とダブルでブレイクしたっけ。
落ち着きがなくうろたえるアルベールと、落ち着き払った小夜子が対照的でよろしい。
これって、北野武の「ブラザー」で、ヤクザたけしと黒人俳優のバランス感を思い出します。
堂々としてりゃあ、日本人の方がカッコよく見えるんだから、これは痛快でございます。
派手なアクションとか、絶妙な台詞回しとか、ほとんどありません。
ただ、男をさらって連れて来て、鎖につないで、放置するだけ。
TVモニターが、ブラウン管じゃなくて薄型になっているところに、時代を感じるなあ。
連れて来られる男を演じるのは、グレゴワール・コラン、マチュー・アマルリックのお2人。
おお、マチュー氏は、「潜水服」のおっちゃんですね。大半を目だけで演技した映画。
彼は、007でも悪役やったし、これは柴咲コウちゃんと、目ヂカラ対決の構図ですな。
火花バチバチ、スタンガンバチバチで、日仏の対決を楽しみましょう。
そして、忘れてならないのは、高橋洋のオリジナル脚本であること。
本作では原案というポジションですが、彼の薄気味悪い、ギャグ混じりの鬼才ぶりが発揮した作品。
「女優霊」「リング」も、彼が脚本を書いたからこそ、あれだけキモチワルイ傑作になったんだから。
中田秀夫、黒沢清、鶴田法男、清水崇、白石晃士といった、Jホラー監督に加えて、脚本の高橋。
俺的には、コワすぎて笑える、というサム・ライミ的な面白さを開拓した先駆者たちなんですよね。
黒沢作品を初めて見たのは、たしか「スイートホーム」だったかと思います。
俺が好きなのは、「霊のうごめく家」「降霊」「CURE」の3本がダントツ。
あと、「蟲たちの家」の緒川たまきも、なかなかよかったなあ。
復讐シリーズみたいなのが何本かあって、「蛇の道」「蜘蛛の糸」の二部作が生まれました。
このシチュエーション、けっこう何度も使っているスタイルだったような気がするなあ。
変てこなんだけど、ショボいんだけど、シンプルなこだわりが何とも、素敵なんですねえ。
できれば、柴咲コウちゃんそのまんまで、「蜘蛛の糸」もお願いしたいところ。
大杉漣の長台詞を、フランス人俳優に堂々と演じ切っていただきたいですな。
監督は、今年で68歳。まだまだこれから、面白いものを見せてもらいたいです。
あ、そうそう、“草々”青木崇高と、西島秀俊も、出番少ないけど存在感抜群なので、ご注目。
いいなあ、日本人俳優が堂々と演じている姿が、俺はゾクゾクするほど嬉しんですわ。
そんなワケで、フランス人たちが、いかに日本映画を愛して下さっているか、よくわかる貴重な1本。
クロサワファンの皆様は、絶対見た方がよろしいかと。
監督ご自身が、『…これはリメイクではなく、完全版である。』とおっしゃっておりますので。
復讐は、静かに、淡々と行うべし。
やろうてめえこのやろう、と思っていても、ポーカーフェイスで、ジロリ。
相手を睨み、確実に、ターゲット・ロックオン。
最後の最後まで、気を緩めるな。
問題が起きても、慌てずに、冷静に、対処せよ。
…視界に入ったら、狙いは外さないわ。覚悟しなさい!