映画 「碁盤斬り」
目は、口ほどに物を言う。
これは、お見事でした。
「武士の一分」のキムタクよりも、俺は本作のツヨポンの方が気に入りました。
寡黙でストイックな侍は、ワケあり感が漂って、ミステリアスなオーラを放つ。
主人公の柳田格之進は、かつて彦根藩の武士であったが、娘と一緒に江戸の長屋で暮らしている。
彼は碁をたしなみ、それがきっかけで商人のおっさんと知り合いとなり、
長屋の仲間たちとともに、あたたかい交流が生まれていた。
そこへ、旧知の藩士が現れ、状況が一変。
彼は、胸に秘めていた何かを、次第に燃え上がらせるのであった…
監督は、白石和彌。今回も、かなり力入ってます。
脚本は、加藤正人のオリジナル。小説は3月に発売されています。
古典落語の人情噺として有名な柳田格之進の物語を、大胆にアレンジしたそうな。
日本人の美しい心を描いた、極上の時代劇をお楽しみ下さい。
草彅剛の演技を初めて見たのは、黒沢清監督の「降霊」だったと思います。
淡々として飄々として、つかみどころのないクールな大学生だったかな。
アイドルオーラを消していたような、新鮮な印象が残りました。
あと、「まく子」で、主人公の男の子の父親を演じていたっけ。
浮気をして周囲から悪く言われているけど、息子には誠実に接するいい父親だった。
ふたりで一緒にお尻を出して笑う姿は、なかなか微笑ましかったなあ。
で、「ミッドナイトスワン」の演技が高く評価され、NHK朝ドラも経験して、
本作の主演をきっちり演じ切りました。
彼はかつて、泥酔してワイドショーを騒がせた時に、高倉健から手紙をもらっていたという。
その後、「あなたへ」の出演につながるのですが、
俺、今日の映画を見ていて、高倉健オーラを一瞬だけ感じ取りました。
口数が少なく、黙々と自分のやるべきことをやる姿が…何だか重なってしまって(涙)
クライマックスの、額に青スジを立てた形相は、すさまじいものがありました。
孤独な戦いを続ける男の姿を、目に焼きつけておきましょう。
柳田の娘、お絹を演じるのは、清原果耶。なるほど、彼女も父親同様に、芯が強そう。
商人のおっさんは、國村隼。その養子が、中川大志。
他に、小泉今日子、斎藤工、市村正親といった大物たちも共演しています。
本作の見どころは、剣での斬り合いもそうなんですが、
俺としては、囲碁の対局シーンが面白かった。
俺は、将棋は知っているけど、囲碁はよくわかりません。
しかし、対局姿勢とか、駒さばきや態度で、空気感はわかります。
その人の持っている人間性や、備わっている品性など、あらゆることが出てくる。
駒(じゃなくて石)を持つ時の音とか、打ち方ひとつで、精神状態が想像できちゃう。
侍としての生き方が、指し方に影響するように、
いい師や友に出会うと、自分の生き方も影響されて、よくなってくる。
囲碁のことがわからなくても、雰囲気で想像できる、いい作りになっています。
あの人は、何故、こんな生き方をするのだろう。
普通の者だったらああするところを、どうして奴は、そうしないんだろう。
娘も娘で、なんであんな父親に従っているのだろう。
彼が、そんな悪いことをしたって? そりゃ本当かい?
人は、見かけによらないからねえ…
心が乱れると、指し手も乱れる。
行動も乱れ、進路を反れ、正しい道を歩けなくなる。
しかし、そうなったからには、何か、理由があるはず。
あの者が、本当に悪人とは、どうしても思えないんだ。
わたしだけは、父上を信じます。
そして、できるだけのことをします。
わたしは、侍の娘だから。
青年よ、彼女の気持ちをしっかりと見つめよ。
そして、己に恥ずかしくない行動を示すべし。
目は、口ほどに物を言う。
余計なことを言わなくても、伝わるものは伝わる。
そして、必ず、わかってくれる者がいる。
自らに嫌気がさしても、自分から決して目を背けるな。
全てを失っても、居場所は必ず、どこかに、ある。
窮地に立たされても、あきらめずに、逆転の妙手を見つけ出せ。
迷ってばかりいるくらいなら、腹を決めよ。
立ち止まっているばかりなら、動き出せ。
文句を言うくらいなら、自らの行動で示すべし。
…大局観に立って、迷いのない、渾身の一手で勝負せよ!