映画 「哀れなるものたち」 | 映画熱

映画 「哀れなるものたち」

貧しい者は、幸いである。

 

 

ようやく、今年の2本目を見ることができました。

 

コテコテのアメリカンアクションを見た後は、濃ゆい味付けのイギリス映画を選択。

 

いやはや、すごかったですわ~

 

豪華絢爛で、悪趣味で、息をのむような美しさ。

 

今の俺の、混沌とした気分を、きれいに洗い流してくれるような、強作と言えるでしょう。

 

 

 

原作は、アラスター・グレイの同名小説。

 

監督は、ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス。

 

そして主演は、エマ・ストーン。

 

 

ええと… エマ・ストーンって誰だっけ。

 

ハリーポッターのヒロインは、エマ・ワトソン。

 

Zガンダムのノースリーブおねえさんは、エマ・シーン。

 

おお、そうか、「ラ・ラ・ランド」の主演女優であった!

 

ほうほう、全然雰囲気が違って、これはなかなか面白い。

 

彼女の、射るような鋭い目線が、観客を金縛りにします。

 

カッと見開いた、魔物のような目が、夢に出てきそう。

 

 

 

物語は、青いドレスをまとった女が、河に飛び込むシーンから始まります。

 

彼女は、天才外科医の手により、見事に蘇生。

 

しかも、すごい方法で!

 

宣伝ですでにネタバレしているから、教えてもいいんでしょうが、

 

俺的には、あんまり核心に迫る部分は伏せたいので、ぼんやりと。

 

映画が始まってから少し経つと、わかるようになっているので、

 

知らないで見た方が、映画を楽しめるかと思います。

 

(どうしても予め知りたい人は、ゆりあん淀川の動画を見るといいでしょう)

 

 

彼女は、ベラと名付けられ、これから、二度目の人生を生きることになります。

 

しかも、前の記憶は一切なく、生まれたての赤ん坊のように、無垢の状態。

 

外界の刺激が、何もかも新鮮で、興味深々。

 

志村けんのだいじょうぶだあ、で、石野陽子がやってた、お花坊みたいなキャラで、

 

ドタバタしながら、周囲の者をハラハラさせながら、少しずつ変化するのが楽しい。

 

 

さあ、彼女と一緒に、素敵な世界を旅しましょう!

 

 

 

 

天才外科医を演じるのは、名優・ウィレム・デフォー。

 

もともと個性的な顔に、特殊メイクが加わり、ますます、一度見たら忘れられない感がアップ。

 

彼女を誘惑しようとする悪徳弁護士を演じるのは、マーク・ラファロ。

 

メグ・ライアン主演のエロ映画「イン・ザ・カット」の刑事ですな。真逆だけに、面白い。

 

 

 

 

 

注意していただきたいのが、R18であるということ。

 

残念ながら、18歳未満は映画館で見ることができません。

 

これはたぶん、エロ描写のせいなんでしょうが、

 

俺的には、PG12くらいでもいいんじゃないかと。せめて、R15でも。

 

猟奇的な場面は、医療行為なんだし、そんなに過剰にならなくてもいいような…

 

むしろ、大人の滑稽さを学ぶいい教材として、使えそうですけどね。

 

まあ、その分、ボカシも一切ないので、大人のみなさんは思う存分楽しみましょう。

 

 

 

 

ヨルゴス・ランティモス監督といえば、2009年の「籠の中の乙女」が強烈でした。

 

あれとおんなじ雰囲気が、本作にも漂っております。

 

(俺の映画記事は、2013年2月にありますので、参考になれば、読んでみて下さい)

 

 

 

 

とにもかくにも、エマ・ストーンが好きになれるかどうかが、一番のポイント。

 

純粋無垢というか、無機質というか…

 

「僕の彼女はサイボーグ」の綾瀬はるかのように、つるんとした、キレイな白い肌…

 

俺的には、妖艶な魅力なんですよねえ~

 

彼女に嫌悪感を感じたら、この映画は成立しません。

 

好きか嫌いか、二者択一でございます。

 

デートで行ったら、失敗する可能性が高いけど、

 

うまくいけば、同じ趣味のビッグカップル誕生のきっかけになるかも。

 

 

 

 

原題は、「POOR THING」。

 

「POOR」は、アドバンストフェイバリット英和辞典によると、

 

人に対しては、貧しい、かわいそうな、下手な、という意味。

 

物に対しては、質が劣った、乏しい、という意味。

 

とにかく、何かが足りていない、不完全な状態。

 

 

で、邦題は、「哀れなるものたち」。

 

「あわれ」を広辞苑で調べると、意味がいっぱいあって、絞り込めません。

 

1ページ4段のうち、ほぼ1段にわたって、意味が記述されています。

 

ものに感動して発する声、心に愛着を感じるさま、しみじみとした趣あるさま…

 

 

で、「THING」もまた、英和辞典で、1ページ2行のうち、1行半の記述。

 

これは、無限の組み合わせがある、無限の広がりがある言葉なんですね。

 

ただ、目に留まったのが、軽蔑などを込めて用いる、という表現。

 

こいつらとか、そいつらとか、そんな意味合いかと。

 

哀れみは、なかなか、使い方が難しい、高等な表現なのでしょう。

 

 

シンプルなタイトルだけに、解釈は幾通りもあるんですね。深いなあ。

 

 

 

 

本作を理解するためのポイントとして、聖書にまつわる信仰があると思います。

 

厳格な教えであればあるほど、破ってしまったら大変だ、という気持ちが湧くもの。

 

でもあえて、破ってみたいという誘惑にもかられてしまうような…危ない領域。

 

 

だからこそ、既成概念やら常識やらを、いともあっさり越えてしまう彼女が、魅力的なんですね。

 

彼女を否定する人たちは、もしかして、彼女の自由さに嫉妬している自分を認めたくないのかも。

 

願望はあるけれど、一歩を踏み出す勇気が出ない人は、この映画を見て、発散して下さい。

 

 

 

それから、注目して欲しいのが、劇中の音楽。

 

担当しているのは、イェルスキン・フェンドリックス。

 

特に後半の重要なシーンで、独特の音が、斬新に耳をまさぐります。

 

美しい情景に、絶妙な特撮。妖艶なエマと、謎めいた展開に、ピッタリとハマるから楽しい。

 

映画って、やっぱり、芸術なんですねえ。

 

 

 

 

心の貧しい者は、幸いである。天国は、彼らのものである。(マタイによる福音書)

 

貧しい、ってなんだろう。何も持っていない、ということかな。

 

多くを持つ者は、不自由なのかもしれない。

 

身軽だからこそ、何も所有していないからこそ、純粋な目で、物事を見ることができるのかも。

 

周りを気にして、何もできなくて、がんじがらめになっている者にとって、彼女は先駆者。

 

 

 

 

人生は、一度きり。

 

でももし、二度目があったら?

 

いやいやこれは、リセットしての、再スタート。

 

だから、もとの振り出しではない。

 

全く、新しい、未知の世界。

 

そこが肝であり、そこが重要。

 

 

 

あわれみ深い人たちは、幸いである。

 

彼らは、あわれみを受けるであろう。

 

 

さあ、何をもって、あわれみとするか。

 

今感じているこの感情は、あわれみなのか。

 

 

彼女を見下す者は、見下される者となっていく。

 

後の者は先となり、先の者は後になる。

 

自分が優位だと思っている者は、いずれ、立場が逆転した時、地獄を見る。

 

天国も地獄も、自分がそう感じたら、そうなっちゃうから不思議。

 

 

 

貧しい者は、幸いである。

 

金持ちになる可能性を秘めているから。

 

彼はこれから、色んなものをゲットするであろう。

 

不完全なモノは、幸いである。

 

完全なモノに生まれ変わる可能性を秘めているから。

 

それはこれから、優れたバージョンアップを施されるであろう。

 

 

ベラは、自分で判断した上で行動し、出会った人から、色んなことを学ぶ。

 

いいものは、心に宿り、新たなエネルギーを生み出していく。

 

悪い結果が出ても、人を恨んだりしない。

 

哀れだと、感じるのみ…

 

 

 

 

 

あられもない姿の、ベラ。

 

恥じらいはなく、自由奔放。

 

性の目覚めも、遊びの一環。

 

好奇心。誘惑。高揚感。開放感。

 

罪悪感よりも、嫌悪感。

 

好きなものは好き。イヤなものはイヤ。

 

知らないから、知りたい。

 

 

彼女の大きな瞳には、この世界がどう映るのだろう。

 

 

うれしい。楽しい。気持ちいい。

 

動機が純粋だから、結果オーライ。

 

 

 

…いと、あはれ。

 

…いと、うつくし。