映画 「ノア 約束の舟」 | 映画熱

映画 「ノア 約束の舟」

「信じる」よりも、「信じたかった」んだと思います。


旧約聖書「創世記」第5章から第9章に登場する「ノアの箱舟の物語」が、
大胆な解釈を加えて映画化されました。

ちょうど梅雨の時期でもあるので、タイムリーな公開ですね。
(ちなみに、昨年のこの時期には、「言ノ葉の庭」が公開されました)


主人公ノアを演じるのは、ラッセル・クロウ。
ノアの妻を演じるのは、ジェニファー・コネリー。

うは~ この組み合わせって、「ビューティフル・マインド」ですね。


ノアの父親レメクを演じるのは、アンソニー・ホプキンス。

そして、エマ・ワトソン、レイ・ウィンストンが、それぞれ重要な役を演じています。
(役柄は、本編を見て確認して下さい)



さて、映画ですが、かなりトンデモな作品に仕上がりました。

解釈とアレンジが大胆過ぎて、俺は唖然としてしまい、
申し訳ないけど、感動するヒマがありませんでした(笑)


これは、大コケする可能性が高いですね~



ストーリーには触れませんが、1つだけ教えましょう。

この映画には、何と「モンスター」が登場します(!)


神から遣わされた天使の成れの果てのような存在で、役名は「番人」だそうな。

物語前半から、ゴツゴツした岩男みたいな怪物がいっぱい出てくるので、
何だかとってもファンタジーしてるなあ…って感じで、
最初の緊張感はすっかり吹き飛んでしまいました。

つまり、彼らが箱舟を建造してくれるんですね(笑)

ノアの家族だけで、あんなにデカい舟を作るのは無理だろうと思っていたんですが、
まさか、力仕事をしてくれる「土建屋」が登場するとは驚きでした。


まあ、真面目に製作したら、かなり退屈な映画になったかもしれないし…ね。

現代的にウケるように「加工」するには、色んな要素を入れたかったんでしょう。



何しろ、「聖書」という本は、世界中で一番多くの人が読んでいるんだから、
いくら内容にヒドものがあっても、決して無視できない存在なんですね。

以前にも何度かお話ししましたが、俺は20代の頃に、キリスト教の団体に
お世話になっていた時期があって、そこで仕事もしていた関係上、
聖書は一通り読んでいたんです。

だから、全く知らない人よりは、少しは知っているけれど、
そんなに詳しいってわけではないので、そこだけご理解下さい。


考えてみれば、「ノアの箱舟」を映像化したのって、
1966年のアメリカ・イタリア合作「天地創造」くらいだったような気がします。

この時は、監督のジョン・ヒューストンご自身が、ノアを演じていたんですよね。
(ちなみに、吹き替えはボヤッキー八奈見乗児さんでした)

それ以外だと、1992年の「ドラえもん のび太と雲の王国」くらいですかね…


とにかく、そういう意味でも、本作が製作された意義は大きいと思うのです。


話を聞く限りでは、賛同的な声よりも、批判的な声が大きいとか。

それ、何となくわかるような気がします(笑)


宣伝費もいっぱいかけて、鳴り物入りで公開されているから、
ひょっとすると、「ゴールデンラズベリー賞」の最有力候補になっちゃうかも。



じゃあ、俺的にはどうかと言いますと、

本作は、「お笑い映画」としては、優れていると思います。


聖書には、こう記述されています。

『…ノアは、その時代の人々の中で正しく、かつ全き人であった。』(創6.9)

ほほう、それでキャスティングがラッセル・クロウですか(笑)
俺は、彼が主役と聞いて、かなりワイルドなノアを勝手に想像してしまいました。

でも、本作の彼は、普通にノアでしたね(汗)


聖書をよく読むと、すごいことがいっぱい書いてあるので、
これをそのまんま映画化したら、きっとR指定になっちゃいますね(笑)

やっぱり、「聖なる書」を映画化するには、
真面目な物語にしないといけないんでしょう。


ちなみに、登場した時のノアの年齢は、500歳です。
洪水が起こるのは、その100年後だから、後半の彼は600歳。

彼が500歳の時に生まれた息子が、セム、ハム、ヤペテの3人。
洪水の時にすでに100歳ってことになりますね(笑)

ノアの寿命は950歳だっていうから、100歳でも思春期くらいなんでしょうか。

アンソニー・ホプキンスの寿命は777歳だっていうんだから、
親よりも長生きした孝行息子なんですね。


まあ、当時の時間の解釈がどうなのかはわかりませんが、
とにかく、聖書に記述されている言葉をそのまんま鵜呑みにすると、
絶対とんでもないことになると思うんですよね。

いい表現はそのままに、おかしな表現は、適当に解釈を付けて、上手に読み取る。
それが、聖書の教えを生活に生かすコツであるような気がします。


だって、何ていったって、原作は「神様」なんですから(笑)


その「受け止め方」の違いで、争い事が起きちゃうんです。

神様も、もっと丁寧に解説して下さればよかったのにね。


せっかく作ったものを、壊してしまうのって、つらいことだと思う。

だから、全部壊すのはやめて、一部だけ残してみようかと思うのは、人情というもの。

最近流行った「断舎利」という言葉のような心情が、神様にもあったのかもしれませんね。



しかしながら、命令をする方はいいとしても、
その命令を「受けた者」の気持ちの葛藤は、計り知れないものがあると思うんです。


聖書には、こうも記述されています。

『…ノアはすべて神の命じられたようにした。』(創6.22)

きっと、神様のおっしゃることだから、何か意味があるのだろう、と、
余計な口出しはしなかったんでしょうね。

しかし、演じるのはラッセル兄さんだから、イライラがかなり伝わってきます(笑)

そのイライラの感情は、家族にぶつけられていくのであった…(涙)


大事な仕事を任されている者の、苦悩と孤独。

それを家族に理解してもらえず、文句ばかり言われてしまう現実…


う~む、そう考えると、今を生きる現代人の心にも、
何か深く訴えてくるものがあるのではないでしょうか。


ラッセル・クロウは、名優だと思う。

やんちゃな役から、ナイーブな役まで、自由自在に演じられる、稀有な男。

どんなヒドい映画でも、彼が演じていると、許せるような気がするんです。


そう思うと、本作の主演は、やっぱり彼でよかったんじゃないかな。



責任を背負う「覚悟」のある男は、「王者の風格」がある。

己が信じるもののために、命を懸けられる男は、なかなかいない。

暴走しようと、狂気に走ろうと、行動は一貫している。

周りの人間は、振り回されながらも、彼に従っていく。


その「限界」を、観客たちは、目の前にするのだ。


なかなか、こういう題材は、自分のこととして考えにくいと思う。

しかし、あえて、考えて欲しいのである。


自分だったら、どうするか。

この場面で、どういう行動を取るのか。


それが明確に言えないのなら、ノアを批判する資格はない。


多くの歴史書に記述されている人物というのは、「何かを成し遂げた者」である。

人として、どう生きたか、どう行動したか。

それに多くの人が、心を動かされたからこそ、歴史に名前が残るのである。


映画自体は、トンデモな作品ですが、笑いを楽しみながらも、

この物語の根底にある、重要なテーマを覚えていて欲しいんですね。



「虹」を見た時に、誰でも感じるものがありますよね。

それを、誰よりも感じていたのは、ノアとその家族だったんだと思います。



美しいものは、生まれるまでに「闇」と「苦痛」を乗り越えるもの。

大きくジャンプするためには、しゃがまないといけないもの。


時間をかけて、じっくりと熟成されたものは、限りなく美しい。

地球の歴史の一場面に立ち会ったつもりで、この映画をお楽しみ下さい。



「恵み」は、多過ぎれば「災い」となる。

だから、たくさんあればいいというものでもなく、少な過ぎてもいけない。


この物語から得られる「教訓」は、無限にあるのです。



ノアは、信じて、信じて、信じ抜いた。

彼の行動を見て、一番感動したのは、もしかしたら「神」だったのかもしれない。


「神をも動かした男」

ノアは、永遠のヒーローなのかもしれないですね。



「信じた」のは、「信じたかった」からだと思う。

そうすることで、「神」と「自分」を肯定したかったのかもしれない。



…突き進む男の「本当の強さ」を、劇場で確認せよ。







【作品データ】

監督:ダーレン・アロノフスキー 原作:神
脚本:ダーレン・アロノフスキー アリ・ハンデル
撮影:マシュー・リバティーク 音楽:クリント・マンセル
出演:ラッセル・クロウ ジェニファー・コネリー
   アンソニー・ホプキンス ダグラス・ブース
   ローガン・ラーマン レオ・マクヒュー・キャロル
   エマ・ワトソン レイ・ウィンストン

 (2014年アメリカ 上映時間:138分)


☆聖書の記述では、3人の息子の妻がそれぞれ出てきますが、
 映画では思いっきりなかったことになってます(笑)
 映画って、何かを削って、何かを足す作業なんですね☆