映画 「少年は残酷な弓を射る」
悪意と憎悪は伝染する。 …子供が親から受け取ったメッセージは何か。
この原作もまた、映画化が困難と言われて来た、イギリスの小説です。
聡明な母親と、反抗する息子の物語。
世界中を旅行して手記を書く作家として、人生を謳歌していた女が、
旅先まで追いかけて来た男と恋をして、結婚して家庭を持つことになる。
広い世界で生きてきた彼女にとって、家庭は狭い世界だった。
子育てがうまくいかなくて、イライラする母親と、泣きわめく子供の悲痛な声。
夫は、妻の話をよく聞かない。人がいいけど、全く頼りにならない。
母親は、懸命にがんばるが、息子の心は、どんどん遠くなっていく…
こんな風に書くと、どこにでもある風景にも思えますが、
この映画は、そう単純なシロモノではないのです。
だけど、キワモノ映画ではありません。むしろ、美しい作品なんです。
監督が女性である点も考慮して、映画を楽しんで下さい。
とにかく、撮り方がきれいなんです。
映像そのものに、アート性を感じるんですね。
演じる役者の細かい表情やしぐさ、顔つきや後姿まで、隅々まで丁寧。
作品にたいする愛情が伝わってくるような、不思議な映画です。
タイトルからも想像できると思いますが、悲劇的な要素がある映画です。
しかし、それであっても、本作は、美しい映画と言えます。
俺は男だから、母親の気持ちはわかりません。
この映画は、女性の方が、感じる世界が大きいと思います。
これから母親になる人、現役の母親の人、かつて母親だった人…
あらゆる世代の女性に見てもらって、ぜひ語り合って欲しい内容です。
「こんなこと、あるはずがない」 そうでしょうか?
現実に、信じられない犯罪がたくさん起きて、
親子や家族の間で、凄惨な事件がはびこる世の中だからこそ、
その「可能性」について、考えて欲しいのです。
人間は、機械ではないから、言われたことをすぐに実行できない場合があります。
頭でわかっていても、心が命じるままに、行動してしまう時があります。
心が暴走すると、止まらないのです。
それは、人が、感情によって動く生き物だから。
家族だから、親子だから、夫婦だから、何も言わなくてもわかるはず…
その考えは、とりあえず置いておいて、この世界を見つめて下さい。
そういう意味では、「怖い映画」と言えます。
じゃあ、何故「怖い」のか?
それは、触れるのが「怖い」から。
真実を知るのが、「怖い」から。
人の心の中を見るのが、「怖い」から…
それ、本来は、怖くも何ともないものなんですよね。
どんどんすれ違って、どんどんわからなくなっていくから、
いつのまにか、「怖いもの」になっていくんですよね…
あなたが大切にしている人の「心の中」を、ちょっと覗いてみましょう。
何か、置き忘れていませんか?
何か、取り返しのつかない忘れ物をしていませんか?
本当に、その人と、心が通じ合っていますか…?
気になる人は、映画の主人公と一緒に、考えてみてね。
【作品データ】
監督:リン・ラムジー 原作:ライオネル・シュライヴァー
脚本:リン・ラムジー&ローリー・スチュワート・キニア
撮影:シーマス・マッガーヴェイ 音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:ティルダ・スウィンストン ジョン・C・ライリー
エズラ・ミラー
(2011年イギリス 上映時間:112分)