リミッツ・オブ・コントロール | 映画熱

リミッツ・オブ・コントロール

いい仕事をしている男の顔つきは、やっぱり違うもの。 …自分の使命に忠実であれ。



過酷な仕事が一段落したので、ブログに戻って参りました。お待たせしました、ようやく再開です。(誰も待っていないか) 現在、映画のストックが4本あるので、これから順次更新していきます。もうすでに3月に入ってしまいましたが、俺の2月はまだ終わっていないので、よろしければお付き合い下さい。



監督・脚本は、ジム・ジャームッシュ。撮影は、クリストファー・ドイル。衣装デザインは、サビーヌ・デグレ。サウンドデザインは、ロバート・ヘイン。音楽は、日本のロックバンド、Boris。


出演は、イザック・ド・バンコレ、アレックス・デスカス、ジャン・フランソワ・ステヴナン、ルイス・トサル、パス・デ・ラ・ウエルタ、ティルダ・スウィントン、ガエル・ガルシア・ベルナル、ヒアム・アッバス、工藤夕貴、ジョン・ハート、ビル・マーレイ。


さて、映画ですが、不思議でクールで、スタイリッシュな作品に仕上がりました。独特の時間の流れに身を任せていると、イヤな現実もしばし忘れてしまいそう。ああ、この映画の住人になりたい。


独自のコードネームを持って行動する、謎の組織の物語。“孤独な男” が受けた新しい指令は、『…自分こそ偉大だと思う男を、墓場に送れ。』 という内容であった…。



主演は、コートジボワール出身のイザック・ド・バンコレ。細身で眼光の鋭いその風貌は、一目でやり手の男という雰囲気バツグン。太極拳をたしなみ、コーヒーの注文の仕方にもこだわりを持った、寡黙な男。こんなにセリフが少ない主役も珍しいですが、そこがかえって強い印象を生むから面白い。


ヒロインと言えるような女性は、いないみたい。唯一それに近い女性は、パス・デ・ラ・ウェルタでしょうか。彼女のコードネームは、“ヌード”。その名の通り、映画全編を通して、彼女はほとんど服を着ていません(笑)。主人公にあてがわれた女みたいなんですが、『…仕事中は女を抱かない。』 と言われて、ずうっと放ったらかしにされちゃいます。この時点で、彼はゴルゴ13よりスゴい。そして、女として恥をかかされたながらも辛抱強く彼に寄り添う彼女がとっても素敵でした。いい男、いい女であるだけにもったいない…でも、そこがシブい。


日本の工藤夕貴も、堂々とした演技でした。主人公が自分から追いかけた女は、彼女だけだもんネ。もう39歳になりましたが、まだまだ色気バツグンであります。「ポリアンナ」の主題歌を歌ってた頃が懐かしい。大御所ジョン・ハートは年をとりませんなあ。このジイさんは、現在70歳。


その他、色んなコードネームを持った男女が、入れ替わり立ち代わり登場。主人公に謎の暗号を残して立ち去ります。彼らの中には、大物もいっぱいいますが、全員平等に扱われているみたいで、特別扱いはしていないようです。そのバランスがミステリアスで、観客の想像力を刺激していくのだ。無表情で指令を受け取り、次の行動に移っていく主人公を通して、この不思議な空間をさまよっていくのです。



本作は、一般的なわかりやすい映画ではありません。ジム・ジャームッシュの作品を見たことがない人にとっては、異質に感じられるかもしれない。面白くてのめり込むか、退屈であくびがでるか。それはその人次第。


楽しいものを求めて見に行くよりは、何となくついでに見ちゃった、というシチュエーションが望ましいかも。あんまり気合いを入れて行くと、ちょっと肩透かしを食らうことになると思うので。


ジム・ジャームッシュ作品の特徴は、映画全体に流れる “ユルさ” にあります。俺が初めて彼の作品を見たのは、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」でした。途中から始まって、途中で終わるような映画。特別すごいことが起こるわけでもなく、ただ何となく過ぎていくユルい時間。だけど、その異空間が気持ちよかった。


デビッド・リンチ監督より上品で、ウッディ・アレン監督よりお行儀が悪く、リュック・ベッソン監督より大人しく、ウォン・カーウァイ監督ほど力が入っていない。SABU監督が疾走タイプなら、ジャームッシュはお散歩タイプでしょうか。時間の流れをゆっくり味わいながら、面白いことをじっくり考えている人じゃないかと思います。



慌ただしい時間ばかり過ごしていると、自分の居場所がわからなくなってしまう。自分の立ち位置がぼやけてしまう。自分の心の状態が不安定になる。これは、年齢とは関係がない。生きるスピードの問題なのだ。


早く移動していると、急に止まったり、曲がったりすることができなくなる。自分の人生に違和感を感じた時は、少しばかりスピードを落とすべきなのだ。焦って早く片付けようとしても、かえってうまくいかないことが多いから。


この2週間、俺は慌ただしい時間をずっと過ごしてきました。焦りがイライラを生み、イライラが暴走を生む。時間がない。トラブルは起きる。がんばってもがんばっても、ちっとも進まない…ホント、最悪の状態でした。


このままいっても、失敗するだけだってわかってしまい、自然に動きを止めました。そして、ゆっくり深呼吸。俺は今、何をしているんだろう?自分に問いかけて、自分自身がいかに危険な状態であるかを認めました。こんなんで、いい仕事ができるはずがない。今、最初にしないといけないことは何だろう?


そう思った時、やっとこの映画の記事が書けると思いました。エスプレッソコーヒーを飲んで、タバコを深く1本吸う。俺よ、帰って来い。俺の魂よ、俺の身体に戻って来い。



見える部分だけで、全てを判断するのは危険である。人を見る時にも、会っていない時の行動を含めて考えられるだけの想像力が大切である。映画に登場する人物たちの、多種多様なスタイルを、イマジネーションを働かせながら、じっくりと味わいましょう。


いい仕事をする男は、顔つきが違う。小さなしぐさや行動パターンから、その人間性をあぶり出せ。自分にないものは、相手が全て持っていると思え。そして、相手が持っていないものは、全部自分が持っていると思え。それこそが、強大な敵に立ち向かうための極意である。


自分とは何か。自分の最大の武器は何か。それを追求した男こそが、戦いのプレッシャーに耐えられる。そういう視点で見たら、主人公がとてもカッコよく見えたんです。一見ユルい映画ですが、これは、ある意味ハードボイルド映画と言えるかもしれない。



普段はユルユル、ダラダラに見えても、いざという時にパワー全開。それは、ユルユルの時間にすでにスタンバイしているってことなのかもしれない。自分を常にいい状態に保てるように、努力を惜しまないのがプロ。自分のスタイルにこだわりを持つのもプロ。男には、そういう美学が必要なのだ。


自分にとっての最大の敵は、自分自身なのかもしれない。男は誰でも、心の中に獣を飼っている。それは、いざという時に解放される、いわば最終兵器。それをうまく制御できるかどうかが、男の器の大きさになる。


獣を飼いならせ。その時が来るまで。 …それが、自分にとってのリミッツ・オブ・コントロール!





【鑑賞メモ】

鑑賞日:2月21日(日) 劇場:T-JOY新潟 12:50の回 観客:約8人

1人客が等間隔で五角形に座ってスタートしてから、途中でバタバタと3人組が入ってきました。


【上映時間とワンポイント】

1時間55分。この時間が早く感じられるか長く感じられるかは、観客次第。


【オススメ類似作品】


「デッドマン」 (1995年アメリカ)

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ、出演:ジョニー・デップ。本作の雰囲気に近いものの中では、俺的にはこれがオススメ。冒頭からトリップ感タップリで、ユル~い笑いが込み上げてきます。15年前の映画ですが、ジョニー・デップはやっぱりいい俳優ですなあ。ラストは爆笑でした。一応、西部劇です。モノクロです。


「悪い男」 (2001年韓国)

監督・脚本:キム・ギドク、出演:チョ・ジェヒョン。主演の男があんまりしゃべらない映画といえば、やっぱりコレでしょう。全くセリフがないのかと思ったら、中盤に1回だけありました。そしたら、笑えること。だって…アレなんだもん!


「美代子阿佐ヶ谷気分」 (2009年ワイズ出版)

監督:坪田義史、原作:阿部慎一、出演:町田マリー。ヒロインがヌードばっかりといえば、やっぱりコレでしょう。あんまり美人じゃないところがいい。本作のコードネーム“ヌード”のおねえちゃんも、あんまり美人じゃないところがいい。だから、両者ともエロにならない。裸が普段着なのだ。だから、とっても自然…じゃないか。そこは深く考えちゃいけませんね。