ハゲタカ | 映画熱

ハゲタカ

大人のケンカの仕方教えます。 …ギリギリまで引き付けて、全力で一気に叩け!


NHKで2007年に放映された人気ドラマが映画化。原作は、真山仁の同名小説。本作のベースになったのは、シリーズ3作目の「レッドゾーン」。監督は、TV版の演出を手がけた大友啓史。音楽は、佐藤直紀。主題歌を歌うのは、tomo the tomo 。


出演は、大森南朋、柴田恭兵、玉山鉄二、栗山千明、高良健吾、松田龍平、中尾彬、遠藤憲一、嶋田久作、志賀廣太郎、小市慢太郎、脇崎智史。 …うっはー、すげえキャスト。


さて、映画ですが、腰の据わった、熱い男のドラマに仕上がりました。俺はTVシリーズをチラッと見た程度だったんですが、見ていなくても問題ないと思います。そんなに難しい言葉は出てこないし、経済に詳しくなくても大丈夫。マッチョな頭脳バトルを、思う存分お楽しみ下さい。


『…日本を買い叩け!』 中国系巨大ファンドが目をつけたのは、日本のクルマ業界でトップクラスの自動車メーカー・アカマ自動車であった。露骨な買収でありながら、それは耳に心地いい、甘い言葉の誘惑であった。迷走する経営陣の前に降り立ったのは、“ハゲタカ” の異名を持つ鷲津政彦。中国の “赤いハゲタカ” とのスリリングな戦いに、日本中が息をのむ!


主役の鷲津を演じるのは、大森南朋(おおもりなお)。色んな映画に脇役で出演しているので、顔を見ればわかる人も多いでしょう。俳優・舞踏家の麿赤兒の息子で、現在37歳。目つきが鋭い三白眼の兄ちゃんです。イケメンかどうかはわかりませんが、男から見てカッコいいと思います。その彼が、主演ときたもんだ!


彼の演技の魅力は、ギラギラした瞳からほとばしるオーラであると思うんです。どちらかといえば、クセのある役柄を演じてくれた方が映える男。サイテー映画「蟲師」で演じた虹男は、フツー過ぎてつまんなかったくらいです。本作の主役は、嫌われ者キャラであるので、まさに絶妙なキャスティング。たぶん、TVの時も凄かったんだろうなあ。


赤いハゲタカ・劉一華を演じるのは、玉山鉄二。おお、逆境ナイン・ガオシルバー・洗剤ボールド白T男ですな。特撮出身イケメン俳優の中でも、一番柔軟性のある男が悪役ですか…これまた面白い。コワモテで気難しい主役と、甘いマスクの悪役がガチンコ対決!これは見ものですな。


ヒロイン…かどうかは微妙ですが、そういうポジションを演じているのが栗山千明。役柄は、TVキャスター。NHKの番組インタビューでは、『…普通の人間の役が回ってくるのは珍しいので、とても新鮮でした。』 というようなコメントをしていました。確かに、彼女も変わった役柄の出演作が多いからなあ。


本作では、濃ゆい男たちに囲まれた、唯一フツーの女性キャラ。だからなのか、何だか存在感が薄かったような…本作の紅一点なのにねえ。通訳の外人ねーちゃんの方が、印象強かったかも。だけど、鷲津に対して因縁モヤモヤな空気もあるので、シリーズが進めば、いつかドカンといくのかも。(あ、ドラマでもうやったのかな)


アカマ自動車の社長を演じるのは、遠藤憲一(通称エンケン)。おお、このおっちゃんも毎回面白いポジションを演じますなあ。「クローズZERO」 のヤクザから 「オッパイ星人」 まで、演技の幅は広い。太くてシブい声の持ち主でありながら、頼もしい役も情けない役も自由自在。今回は、右往左往する社長。ああ、がんばっているのに行動が裏目に出てしまうおっちゃんの姿は、心に沁みるなあ。


現在放映中のTVドラマ 「白い春」 をたまたまチラッと見たら、いましたねえ、エンケン。ポニョ大橋のぞみと、鉄仮面阿部寛のもっさい演技にはさまれながらも、お人よしのパン屋オヤジを好演。彼の演技のバランス感覚は、さすがプロの役者だと思いました。(実は、吉高ちゃんが出ていると聞いたのでちょっと気になりまして)


“旅館の経営者” を演じるのは、松田龍平。登場した途端に、彼は何者?と惹き付けられるような、独特の存在感。“怪しい” と言ういうよりは “妖しい” という表現が似合う。ゾクゾクするようなクールな視線は、父親松田優作のDNAを確実に受け継いでいると思います。セリフも出番も少ないですが、すっげえ目立ってました。


中尾彬のネクタイは、ネジネジしていませんでした。嶋田久作と志賀廣太郎の2人は、やり手オヤジとしてカッコよかった。本作には、魅力的なオヤジキャラも多いので、細かいサブキャラにもご注目。


本作で唯一ダメだったのが、高良健吾。彼は 「M」 でストーカー青年を演じた男ですが、印象は全く同じでした。雰囲気だけはいいものを持っているようですが、動いたりしゃべったりすると、途端にアウト。本作でも、寡黙な場面ではそれなりによかったのに、感情を出す場面になるとボロボロでした。…浮いているなあ、兄ちゃん。じっとしているだけの役柄だったらよかったね。


とにかく、実力派の役者がいっぱい出ているので、中途半端な連中は全部はじき返されてしまいそうな感じがします。観客も、腰を据えてしっかり見ましょう。画面にしっかり喰らいつく心構えで。




特筆すべきは、鷲津のライバルであり、好敵手であり、戦友とも言える芝野を演じた柴田恭兵でしょう。彼は、決してコワモテ俳優ではない。どちらかといえば、ソフトで甘い雰囲気を持ったアウトローというイメージかもしれませんが、「夢の祭り」 とか 「集団左遷」 で、ナイーブで一途な男を演じる一面もあります。本作の彼は、しなやかで力強い “大人の男” を演じていました。


TVシリーズの撮影中に肺ガンの手術を受けた時も、スタッフはちゃんと待っていてくれたそうな。それもあって本作との絆はより深くなり、この役柄に対しての思い入れも大きくなったんじゃないかって思います。彼のやわらかいオーラが、鷲津の心を支える一点でもあるような気がします。まさに、絶妙なコンビネーション。


やっぱりねえ、この映画に出てくる男たちは、メチャクチャカッコいいです。男の意地の張り合いって、現実には見苦しいことが多いもんですが、志が間違っていなければ、必ず最高の結果が出る。真剣に戦う男には、美しさが漂うものなのだ。


この鷲津という男、なかなかのキレ者です。彼は、人に媚びない、笑わない。それでいて、自分のマイナス面を臆面もなく人に語る。だけど、妥協しない。自分を批判する者の目をしっかりと見つめ、決して逃げない。まさに、プロ中のプロ。いやはや、すごい男がいたもんです。


そういうわけなので、この映画は真剣に見ましょう。軽い気持ちでナメてかかると、火傷するかもしれません。男の熱い火花を、体中に感じ取って楽しみましょう。ここは一つ、知的な彼女を誘ってみよう。しかし、見た後で逆に語られたりして。それもいいじゃん。たまには、レベルの高いデートをしてみよう!




本作の脚本は、何度も書き換えられたそうです。リーマンショックによる経済危機など、時代を大きく揺るがすニュースが飛び交う中で、今の日本人に伝えるべきメッセージは何か、絶えず追求したのかもしれませんね。俳優たちにとっても、直前でセリフ変更があったりと、まさに混乱した状況での撮影だったそうで、それがいい緊迫感を生む効果があったかのも。


今の世の中、生活環境が大きく変わってしまった人も多いことでしょう。俺も、その一人です。好きなだけ映画館に行って、好きな時に飲みに行けた1年前が懐かしい。こうなることがわかっていれば、もっと打つ手もあったろうに…って今さらながらに思う。でも災難って、こういう風に突然やって来るものなんですよね。


俺は、28歳の時に会社の倒産も経験しています。ある日突然に職を失うというショックは、実に大きいものでした。社員の中には、あと1年で定年の人もいたっけなあ。まさに地獄絵図でしたね。会社に忠誠を尽くすってのも、考えもんだなあって思ったものです。


リストラの担当者とか、死刑執行人とか、誰もがやりたがらない仕事というのは確実に存在する。それをやる人たちがいるからこそ、世の中は回っているのだから。一部分だけを見て、善人か悪人かは安易に決められないのだ。偏見が大多数を占めると、それは “歪んだ正義” になってしまう。だから俺は、“影の仕事” を担当している人たちを尊敬します。




現代は情報過多であり、選択肢も無数。できるだけ楽な道を選び、無難に平穏に過ごしたいと誰もが思うもの。しかし、世の中は弱肉強食なのだ。毎日誰もが誰かを傷つけ、誰かが誰かを不幸に追い詰め、間接的に殺していく…。人は、人を傷つけずには生きられない。


しかしながら、その一方で誰もが、必ず誰かの役に立っている。間接的に誰かの力となり、誰かを幸せにしていく。これもホント。つまり、人はどう生きても、誰かを傷つけた分だけ、誰かを幸福にしているんじゃないかって思うんです。ただ、本人にフィードバックしてくる情報が、偏っているだけ。


自分は善人だと思っていても、気がつかないうちに人を傷つけていることは多い。逆に、自分は何の役にも立たないって思っていても、意外とそれなりに役に立っているものである。人気者ほど疎まれることもあるし、嫌われ者でも一部の人に重宝されることがある。


だから、仕事に対しての能力も、人によって適性が違うのである。チームワークは、バランスなのだ。本作の素晴らしい点は、年齢や経歴が異なる男たちの、絶妙なチームワークであると思う。それぞれが、自分の役割をきちんとこなしてこそ、全体がうまくいく。攻守逆転、また逆転。うろたえず、冷静に反撃の機会を伺う…。やっぱりコレ、カッコいい映画だと思います。


映画は、勝負の結果をどうとらえるか、ということについてもケジメをつけています。勝って負けても、学ぶことは多い。コドモにはコドモの、大人には大人のケンカの仕方がある。そして、男には男の、女には女のケンカがある。グレードの高いケンカは、気持ちいいのだ。




目の前にある苦悩は、明日を生き抜くための力になる。困難をクリアした分だけ、戦うための武器が増えるのだ。苦労したこと、悔しい思いをしたことを決して忘れるべからず。その一つ一つが、流した涙が、知らず知らずのうちに、男を磨いてくれているのだ。


男なら、戦う時が来る。自分のために、誇りのために、プライドを懸けて突き進む。その原動力は、信念であり、志であり、夢であり、ロマンであるのだ。余計なことは考えずに、自分らしく戦う。勝っても負けても、また新しい自分になれる。だから恐れるな。敵と同じ数だけ、味方も必ずいるんだから。




“ハゲタカ” とは、“ハゲワシ類、コンドル類の俗称” だそうで、ハゲタカという名前の鳥は存在しないらしい。死屍食であることから、死にかけた者をついばむイメージで使われるようです。ハイエナの鳥版といったところでしょうか。死骸を片付ける者がいないと、病原菌が発生する原因にもなるそうなので、きちんと後始末をしてくれる掃除屋としての役割があるのかも。彼らもまた、生きるために必死なのだ。


原作者の真山氏は映画製作にあたって、『…日本企業が混迷したのを、外資系企業のせいにしないで欲しい。』 という要望を出したそうです。こちらが死にかけたからこそ、ハゲタカに狙われたということなのかもしれない。だからこそ、本物が生き残るべきなのだ。ニセモノは、ホンモノの引き立て役という役割を果たして退場すればOK。(化けの皮がハゲタカ…なんてね)


金持ちになったことがないので、マネーゲームのことはさっぱりわかりません。ビンボー人の俺が言うのもなんですが、金持ちって大変なんですねえ。やっぱりお金は貯めずに、世の中のためにドンドン使いましょう!心のわだかまりも溜め込まずに、ドンドン発散しましょう!


俺も、この世の中でいつまで生きられるのかわかりませんが、寿命という限られた収入の中で、与えられた時間を精一杯使い切って死にたいと思います。くすぶって死ぬよりも、戦い切って死にたいと思う。だから、俺の死肉はおいしいかもしれないぞ。ハゲタカたちよ、よく覚えておけ。


死神・ハゲタカ・ホワイトナイト。どうせ戦うのなら、思いっきり楽しんだ方が面白い。ユルい天国よりも、刺激的な地獄の方が居心地がいいかもしれない。だからね、今の自分にふさわしい場所にいるんだと思えばいい。今の自分にふさわしい仲間に囲まれていると思えばいい。よりよい状態を望むなら、まず自分がレベルアップすればよいのだ。


だから、男たちよ、思いっきり行動すべし。自分の信じた道を、自分のスタイルで貫け。それで滅びて何もかも失っても、それは本望だ。ワイルドな人生を生きようぜ!運が悪けりゃ、死ぬだけさ。 そしたら、ハゲタカの出番。 …後始末、しっかり頼むぜ!




【鑑賞メモ】

鑑賞日:6月8日(月) 劇場:ワーナーマイカル県央 18:40の回 観客:約6人

ワンダフリーポイントがたまっていたので、無料鑑賞できました。すいません、巨額マネーが動く映画をタダで見ることになってしまいまして。これもかなりゼイタク?おかげでパンフ買えました。


【上映時間とワンポイント】

2時間14分。少々長めですが、戦っているとあっという間です。


【オススメ類似作品】


「ハゲタカ」 TVシリーズ

まだ未見ですが、きっと面白いと思うのでオススメしておきましょう。DVDで全6巻だそうです。


「不撓不屈」 (2006年ルートピクチャーズ)

監督:森川時久、原作:高杉良、出演:滝田栄。実話に基づいた小説を映画化した、骨太な男のドラマ。もうこうなると、おっさんも若者も関係ありません。情熱を持った男こそが、世の中を変えるのだ!


「機動警察パトレイバー2」 (1993年東北新社)

監督:押井守、原作:ヘッドギア、脚本:伊藤和典、声の出演:富永みーな。アニメからも骨太な1本を。モノクロ風のシブい絵柄に、熱いオヤジたちの加齢臭がムンムン。竹中直人が演じるアラカワが面白い。演歌あり、大人の恋もあり。ラストの手のカラミ方は、何度見てもエロい。気がついたら、俺の心にワイバーン。