ブタがいた教室 | 映画熱

ブタがいた教室

豚をめぐって教室がドタバタ。 …楽しくて、オイシイ授業のはじまりだよ!


以前紹介した本 「死の教科書」 にも掲載されていた、大阪の小学校での “豚を飼う授業” のお話。実話であるという点をしっかりふまえてご覧下さい。


監督は、前田哲。原案(つまり、当事者の先生)は、黒田恭史。著書 「豚のPちゃんと32人の小学生」 があり、1993年にフジテレビの 「今夜は好奇心」 で放送されて、賛否両論を巻き起こしたそうです。


出演は、妻夫木聡、甘利はるな、大杉漣、原田美枝子、田畑智子、戸田菜穂、ピエール瀧、その他たくさんの子供たち、豚。


さて、映画ですが、思ったより健全な映画に仕上がりました。“青少年映画審議会推薦” “日本PTA全国協議会特別推薦” “文部科学省選定” などというすごい肩書きがついているので 、家族揃って見ても大丈夫です。…俺的にはちょっと不満が残りますが。


6年生の担任を受け持つことになった新任教師・妻夫木先生は、いきなり教室に子ブタを持って登場。『…このブタをみんなで育てて、最後は食べようと思います。』 生徒たちは困惑するも、かわいいブタに魅せられ、一生懸命に世話をするようになる。食肉のつもりだったブタが、クラスのペットになってしまい…。


主演の妻夫木聡は、なかなかよかったと思います。彼はあまりインパクトのある役柄には向かないと思うので、このくらいのポジションがよろしいかと。熱血教師というよりは、無邪気で悪気のない教師の方がピッタリハマる。問題を投げかけて起きながら、エラいことになったという慌てぶりが面白かった。


校長先生を演じるのは、原田美枝子。ベテランの風格が漂う彼女の話し方は、プロの教育者そのもの。彼女の大らかな心が、この授業の影の力であったことは間違いないでしょう。画面に出てこない部分で、きっと色々なことをしてくれているんじゃないかって思います。彼女の演技には、そういう雰囲気を感じさせる力がある。


脇役陣の中では、父親役の近藤良平と、ピエール瀧がいい感じでした。食育というものは本来、家庭で行うものなんじゃないかって感じるいいセリフでした。こういう言葉をさりげなく言えるオヤジはカッコいい。


生徒を演じた子供たちも、なかなか面白くてかわいかった。俺が注目したのは、学級委員長(たぶん)役の松原菜野花です。基本的に “困り顔” なので、みんなの面倒を見ていそうな雰囲気。辛そうに涙を浮かべながら、しっかりと意見を言う姿に心を打たれました。その勇気と情熱を忘れずに、これからもがんばって欲しいと思います。


そして、特筆すべきは、やっぱりブタでしょう。冒頭から、お尻をぷりぷりさせながら歩く後ろ姿は、なかなかセクシー。うーむ、これでは情がうつっちゃうかもなあ。しかも子供たちは、勝手に名前までつけちゃった。その名も “Pちゃん”。ブタ小屋に大きく掲げた文字を見たら、何だか駐車場みたいで笑えました。




ちょっと考えてみたいことがあるんですが、“豚” という表記と “ブタ” という表記では印象が違うと思うのですが、どうでしょう。前者は家畜や食肉といった印象。後者はペットや友達といった感じ。これは、豚に限ってのことかもしれない。牛とウシ、馬とウマ、鶏とニワトリ、羊とヒツジは割りと同じ印象を覚えるので、やっぱりブタって何か特別な生き物なのかも。かのジョージ・クルーニーも、ブタを飼っているとか。(確か名前はマックス)


そもそも豚は、猪を家畜化した生き物だと言われています。だから当然、人間が飼いやすいように “改良” されている要素があっても不思議じゃない。かわいいと思えるからこそ情が移る。家畜からペット、そして友達…心の暴走は続く。そして子供だからこそ、歯止めが効かなくなっていく。


先生が連れて来た時、かわいい子ブタじゃなかったら?くさくて汚い、いかにもな家畜だったらまた違っていたかもしれませんが、後からだったら何とでも言える。何事も、最初にやる勇気が大切なんだから、俺は黒田先生の情熱と遊び心を高く評価したい。ブタ、いいじゃん。なかなか粋な先生もいたもんだ。いいなあ、俺も生徒で参加したかった。


本作は、食育という面と、人間と動物の関わり合いという面、ひいては人同士のつながりにまで波紋を広げていく。いやはや、ブタ一匹でここまでの騒動になるとは。Pちゃんもすごいプレッシャーですねえ。こんなに有名なブタも珍しいんじゃないでしょうか。まさに伝説のブタ。ブタだけに、“豚(トン)デモな授業” といったところですね。


世の中には、“トンデモ教師” という存在がいる。普通の角度からではなく、別の視点でアプローチして独自の教育方法を考える先生たちのことですが、それもまた色んなタイプがいて、ホントにバカな人と、真面目にバカな人がいる。だけど、そういう先生が学校に1人くらいいて欲しいと俺は思うんですね。

真面目で模範的な先生の授業は無難だけど、その分だけ息苦しさというものも生まれる。子供は刺激的なことが大好きだから、面白いことがあった方が活性化するし、考える力も育つ。


本作でもう一つ注目したいのは、子供の親たちが、学校を信頼しているという点。そりゃあ、オバチャンたちが学校に怒鳴り込んでくる場面もありますが、原田校長先生がしっかりとした対応をすると、ちゃんと刀を納める。エライ!そういう大人たちに囲まれたからこそ、妻夫木先生も最後まで授業ができたんだと思う。始めはトンデモな内容でも、最後に授業として昇華できれば成功。俺はそう思います。


人生においては、答えのないことが実に多い。優等生は、答えを覚えておけば点は取れるが、社会に出るとそれだけではうまくいかない。相手や環境が変われば、それまでの常識はいとも簡単に覆される。そこで大事なのが、“考える力” なんです。あらゆる状況において、自分の頭で考えて、自分で行動を決めていく能力を磨く。それこそが、勉強する理由であると俺は思うんです。そしてそれは最終的に、自分の人生を生き抜いていく力になる。


自分が小学生だった頃を考えても、彼らと同じ視点にはなれない。時代も環境も違うから。情報の洪水のような今の世の中において、正しい基準なんてもうないのかもしれない。誰かが何かを言えば、賛同する人も批判する人もいる。だけど、大切なのは志。黒田先生はいい授業をしたと思います。そしてそこにいた生徒達も、いい授業を受けたことを誇りに思って欲しいと思う。少なくとも、食べ物に感謝できる大人になっていることは間違いない。


今どきの子供、今どきの大人。俺自身も、社会性に乏しい落ちこぼれのトンデモブロガーですが、みんなひっくるめて考えれば、いい悪いに差異はあまりないと思うんです。子供は決して純粋無垢じゃないし、大人も悪い人ばかりじゃない。子供が立派とか、先生が変だとかじゃなくて、この先生と生徒という “組み合わせ” が良かったんだと俺は思うんです。


生徒によって、先生は教育方法を考えればいい。先生によって、子供は勉強方法を考えればいい。誰だって楽しくて刺激的な授業をしたいと思うし、受けたいと思っているはず。そういうところから、勉強という本来の楽しさが生まれるのではないでしょうか。


教える側と、学ぶ側。双方がしっかりしていれば、教材がトンデモであっても授業は成り立つ。逆に、トンデモな授業だからこそ面白いのだ。ここでしか学ぶことができない、貴重な時間を大切にして下さい。子供たちよ、しっかりがんばって、楽しく学んで下さい。





【鑑賞メモ】

鑑賞日:11月16日 劇場:ユナイテッドシネマ新潟 15:30の回 観客:約100人

妻と娘と3人で行きました。9歳の娘は、純粋に面白かったと話しています。


【上映時間とワンポイント】

約1時間50分(パンフに記述なし)。豚はかわいくてうまい、というのが我が家の結論です。


【オススメ類似作品】


「紅の豚」 (1992年スタジオジブリ)

監督・原作・脚本:宮崎駿。声の出演:森山周一郎。豚といえばやっぱりコレでしょう。この豚は強くてカッコいい。そして女にモテる。オヤジはこうでなくちゃって思えるような、粋な映画です。


「はれときどきぶた」 (1988年)

監督:平田敏夫、原作:矢玉四郎。児童文学のアニメ映画化。少年の妄想が現実になるトンデモ映画。豚が空からたくさん降ってきます。これだけ豚がいたら、殺して食っても誰も文句は言わんでしょう。


「あしたのジョー劇場版」 (1980年ヘラルドエンタープライズ)

監督:福田陽一郎、原作;ちばてつや、声の出演:あおい輝彦。格闘家のバイブルとも言える傑作。少年院の場面で、豚を暴走させて脱走を図るシーンにご注目。豚の尻に乗ってスタコラサ、これがホントのトンズラと言います。全然かわいくない、汚いイメージの豚が爆走!これを拳で仕留める力石はカッコいい。…さあ、この豚なら食えるだろ!


「未来少年コナン」 (1978年NHK)

監督:宮崎駿、原作:アレクサンダー・ケイ、声の出演:小原乃梨子。主人公コナンの親友、ジムシーが飼っている豚にご注目。名前はウマソーでした(爆笑)。わかりやすくていいじゃん!生き残るのはこういう男だ!これをTV放映したNHKはエラい!


「天使の涙」 (1995年香港)

監督・脚本:ウォン・カーウァイ、出演:レオン・ライ。「恋する惑星」 でさわやか青年を演じていた金城武が、口のきけないアイスクリーム屋を演じています。映画の中で、豚のマッサージをする場面が特に笑えます。


「いのちの食べ方」 (2005年オーストリア・ドイツ合作)

監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター、出演:食材のみなさん。ありとあらゆる食材が、解体されていく様を、延々と見続けていくドキュメント映画。豚はもちろん、牛や鶏、魚も登場します。本作を見た後でこの映画を見る勇気がある人はいないと思いますが、見る機会があったらどうぞ。


「築地魚河岸三代目」 (2008年松竹)

監督:松原信吾、原作:はしもとみつお、出演:大沢たかお。最後は、魚の映画を紹介しましょう。これもまた、食育につながる映画です。“いただきます” という言葉の本当の意味を考えてみませんか。