⑰海部川、裕子の鮎釣りポイント
少し上流に向かって歩いている裕子。その先に見覚えのある鮎釣り師が竿をだしている。
裕子「あら、もしかして、朝の・・・。こんにちは~。この辺りに入らせてもらってもよいですか?」
身振り手振りで上の釣り人に挨拶をする裕子。
(どうぞどうぞ)といったジェスチャーをする釣り師。
そろりそろりと鮎釣りを始める裕子。しばらく竿をだすもなかなか釣れない。
手元に囮鮎をよせてきて錘をつけておくりだす。
裕子「ごめんねえ、ちょっとがんばってきてねえ~。」
鮎竿「おいおい、そりゃちょっと酷やのお。弱ってから錘つけるとは。」
裕子「だってえ、もう元気な囮鮎いないのよお。真夏じゃないからって油断してたわ~、
水少ないところに曳船浮いちゃってた・・・」
鮎竿「やれやれ、根ガカリさせないように気をつけるんだぞ」
根ガカリさせて四苦八苦する裕子。なかなか外れない。
じりじりと沖に近づいていく。
上から走って来る鮎釣り師良男。ばしゃばしゃと根ガカリポイントに入って外す。
良男「ダメじゃないですかあ~、危ないですよ。」
裕子「すみません、ありがとうございますありがとうございます。・・また助けられてしまいました。」
良男「わははは、何かの縁ですかねえ~。あ、ここポイント荒らしてしまったので少し休みましょう。」
裕子「あ、は、はい。そうですね。本当にすみません、せっかく釣れてらしたところでしょうに・・・」
良男「いやいや、大して釣れてやしませんよ。お近くの方ですか?私は毎週のようにこの川で遊ばせてもらってます。」
裕子「…近くなんですけど、すごく久しぶりなんです。」
担いでいた鮎竿を持ち直してしみじみ眺める裕子。
しばし身の上話をするふたり。
再びそれぞれのポイントに立ち、鮎釣りをする。
穏やかな表情の裕子。いつの間にか姿がみえなくなっている良男のいた上流川原。
だんだんと陽が傾いていく。
鮎竿「・・・もうワシの出番はなくてもよさそうだな。」
裕子「えっ?」
鮎竿「あいつは良い鮎釣り仲間になるだろう、あの威勢のいい嬢ちゃんもな。
・・・仕掛けも針も一生分あるんだから、せいぜい楽しんでおくれよ、元気に・・・な。」
裕子「待って!待ってよ!!、ねえまだ聞きたいこといっぱいあるんだから!!」
鮎竿「・ ・ ・ 」
ほろりと裕子の頬を伝う涙。ぎゅっと鮎竿を握りしめる。
変わりなくとうとうと流れる川の水。
西陽に映し出される裕子の影。下で手をふっている小さな空の姿。
竿を仕舞い、歩き出す裕子。

