早いですね〜、一月最後の週末です。![]()
(注;自分は仕事です)
気まぐれに投稿します「読みもの」シリーズ。
ヽ(;▽;)ノ
今回の作文は、去年の春にほんの一泊二日で出かけた徳島県のもみじ川温泉界隈をとりあげました。
徳島県といえば、阿波踊り…くらいしかとりあげられないのが非常に残念なので。徳島にも良い川があるし、自然も美しいのに…。誰か1人でも徳島に行ってみよう٩( ᐛ )وと思って頂ければと、
徳島に観光客や釣り人が増える
↓
徳島県が潤う
↓
道路が整備される。
とりあえずコレを願っております。٩( ᐛ )و
そして、私のブログ、実は、アラフィフカテゴリーに属してまして(永遠のアラフィフ
)
そちらのブログ読者とも仲良くしたいなーとか…
前置き長くなりました。
単なる暇つぶしに、どうぞーっヽ(;▽;)ノ
『もみじ川にて』
からんころんからん、じゃ~っ・・・。
もみじ川温泉女湯の洗い場で、まるでドジョウ掬いを踊っているかの如く掌から逃げだしたシャワーヘッドを必死で抑え込む今田徳子、52才。
やっとのことで壁の定位置にシャワーヘッドを治めると、隣からの冷たい視線に背筋が凍りついた。
「す、すみませんでした、ごめんなさい。」
必死で謝る徳子に対し、その女は一言も発することなく一瞥して自らの体を洗い始めた。
(え、何?そりゃあ私が悪かったわよ、百パーセント私が悪かったけど、人が謝ってるのに完全無視ってどうよ・・・。)
心の中でぶつぶつ言いながらシャンプーを手に取りわしゃわしゃと髪の毛を揉む。
時々、顔面に滴り落ちてくるシャワーの隙間から隣の女の姿を盗み見る。
歳は、六十程だろうか、何年か前までは世の中の男の視線を釘付けにしたであろうと思われる豊満な乳房は臍の辺りまで垂れ下がり下腹の肉と二段重ねとなって太腿の上にのしかかっている。横から見るとまるで正月の鏡餅の様だ。
少し憐れんで、まだ水滴を弾く自分の肌を丁寧に洗う。
そして思った、ああ、さっきの無言の仕打ちは、どうしようもない女の加齢による体の変化に対する嫉妬からだったのかもしれない、いずれ自分にも否応なしにやってくるモノ・・・。
頭の中に沸いた考えをシャンプーの泡と共に一気に洗い流してすたすたと露天風呂に向かう徳子。
そこは小さな露天風呂でひとり入っていれば、まず他の人は入ってくることはない。
ゴールデンウイーク明けの平日とあっては尚更のことだ。
実際、女湯の現人口は、徳子とシャワーをかけてしまった女、あと年老いた婦人の3人だけだ。
そちらのご婦人レベルの年齢になれば、もう肌の弾力だの乳房の下垂などはもはや意識の圏外になるのだろうか、
それはそうかもしれない、
もっと深刻な、腰が痛いだの目が見えない耳が遠くなる、といった問題が生じるに違いない事は容易に予想がつく。
一体、いつ頃からなのかわからないのだが、以前なら気にも止めなかった加齢という恐ろしい現実が何かにつけて襲いかかってくるようになった。この先、自分は目を逸らさずに向き合っていくことはできるのだろうか・・・。
考えても仕方のないことを必死で頭の隅っこに追いやった。つまらないことを考えてせっかくの有給休暇を無駄にするわけにはいかない。きっぱりと風呂からあがり、お楽しみの夕食へと心と体を切り替える。
もみじ川温泉の食事処は那賀川のダム湖、あじさい湖に面しており、この時季は川の右岸側と左岸側にかけてワイヤーが張られ何匹もの鯉のぼりが泳いでいる景観に癒される。
決して豪華とは言えない食堂には、昭和にタイムスリップしたような雰囲気の4人がけテーブルとイスが九つ、縦横三つずつ、行儀よく配置されている。
が、料理が並んであるテーブルは窓際にある3つのテーブルの上だけだった。
風呂上りの徳子がやってくると、フロント係も土産物ブースの店番もやっていた女性のスタッフが案内の声をかけに寄ってくる。
「お客様のお席は、あちらでございます。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」
三つのうちの、真ん中のテーブルに案内された。
両側のテーブルにはどちらも二人分の料理が向い合せでセッティングされている。
徳子は自分だけがおひとり様なのか・・・。と、何とも言えない気まずい空気に負けて聞かれてもないのに、
「ありがとうございます、あの、実は私、鮎釣りが趣味でして、
すぐそこのもみじ川では鮎の友釣り専用区なんかはありますかね?」
と やや大きな声でビールを運んできたスタッフに話しかけていた。
「ああ、鮎釣りをなさるんですか、もうすぐ解禁ですねえ、今年はどの川も天然遡上が良いらしいですよ、楽しみですねえ、
もみじ川にも友釣り専用区、あると思いますよ。すみません、あまりよく知らなくて・・・。」
ややしどろもどろに話す職員をよそに、これで、徳子が何か訳ありとかでここに来たのではなく、
れっきとした理由があるのだと周知されただろうと満足気に食事を始めた。
鮎の友釣りはシーズンが限られている。初夏から秋までのほんの五か月ほどの間だ。
春に河口で生まれた稚鮎は物凄い勢いで川を遡っていく。魚体の何倍もある堰堤や滝でさえ見事なジャンプを繰り返しながら川上を目指す。そうして辿り着いた綺麗な水と餌となる美味しい藻がつく岩を縄張りとして居つく。
そんな鮎を長い長い竿で、囮鮎という同じ鮎の鼻孔に小さな輪っかを通して細い糸で繋いで泳がせていき、縄張りを守っている居つきの鮎と喧嘩をさせて囮鮎につけてある掛け針にひっかけて釣り上げるのが鮎の友釣りだ。
よく巷で言われる『友釣りとは循環の釣り』とは、囮鮎で掛けた野鮎を次の囮鮎として送り出し、また野鮎をかける、つまり常に活きの良い元気な鮎が循環して釣果をあげるというものだ。
入れ掛かりと呼ばれるその現象は鮎釣り師を恍惚とさせ、魅力にとりつかれた者をひきとめるのは至難の業だと言われる釣り種なのだ。以前は男性でないと難しいとされていた鮎釣りも、近年は道具が進化して女性には重くて扱うのが難しいとされた鮎竿も、短いもの軽いものと多種多様となり女性をターゲットにした製品も次々登場して今や、女性鮎釣り師は珍しくなくなった。
そのかわりといえば皮肉だが、環境の悪化、川を管理する漁協の組合員の減少など様々な問題によって鮎の友釣りを楽しめる川は減る一方だ。
徳子が一番好きな鮎釣り河川は、もはや国内では数えるほどしかないダムのない清流海部川だ。
高速道路からも鉄道からも離れたその地は、不便さ故に自然が守られている。
徳島市内からでもひた走りに走って車で二時間くらいかかる。往復4時間となるとまず日帰りでは釣りにならない。
もう少し近くにも良い鮎釣りポイントはないものかと鮎釣りシーズンを前に新規開拓の行き当たりばったり旅にでた徳子は、この那賀川支流のもみじ川に辿り着いたのだった。
煩わしい日常から離れて、鳥の声と川のせせらぎの中、ただただひたすらに鮎を泳がせる至福の時を想いながらアメゴの塩焼きを頬張る。アメゴも美味しいがやはり、苦労して自分で釣った鮎。香魚に軍配を上げる。
ふと右隣のテーブルの老夫婦であろう二人に目をやると。何かしら違和感を覚えた。
なんとなく熟年夫婦らしからぬ会話が聞こえるのだ。
視界の片隅で盗み見ると女性の左手薬指には年季の入った結婚指輪がぎっちりと指にくいこんではまってあるが、男性は指輪をつけてないではないか。てっきり、長年連れ添った夫婦でご褒美旅行だろうと思っていたが様子が違う。妄想が膨らんだ。
~つ づ く~

