※この書き物は私の独り善がりの妄想話であり、フィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。

 大通りに出て、あいちゃん、「猫Gの携帯番号教えてえ」と甘えた声。

 俺は瞬間、『ヤバい!今度は携帯番号教えて攻撃かぁ』

 ライン友達は何回かおねだりされたが、上手く躱してきた。

 俺は惚けて、「丸丸丸の丸丸丸丸の丸丸丸丸」

 あいちゃん、「もう!」と頬を膨らませているんだろう。でも、教えたら、必殺電話攻撃されるに決まっている。そこは遠慮のないかわいい13歳とことだから。

「何か連絡したいことがあったら今まで通りユーチューブのコメント欄に入れれや。直ぐには気付かんかもしれんが半日あれば気付くけんよう」

 あいちゃん、「いい。猫Gの家に行った方が早い」

 俺は、「確かにな。来た方が早いわ。だいたい18時までは車ん中に居るしよ。ほいでここんところえいちゃんが来たときに車ん中に居らんやったことねぇやろ」

 あいちやん、快活に、「うん!」

 

 あいちゃん、「でねぇ。今日きよのちゃんと一緒にかえったよ」

「おうそれは朗報や。っていうことは新学期になって3日目で漸く登校したっていうことか?」と俺。

 あいちゃん、「でも学校に着いたんは1時限目ぇ」

 俺は意地悪く、「きよのちゃんに『あんた誰?』とか言われんやったか?」

 あいちやん、口を尖らせているんだろう、「言われんよぉ。あいかと毛玉(きよのちゃんのこと)仲やし。でもやっぱり毛玉とが一番話が合うし楽しい」

 俺は、「それ俺痛いほど分かるわ。去年まだ二人か中一のとき小倉駅まで車で贈ってやったやん。そんときあいちゃんめっちゃ楽しそうやったわ。きよのちゃんもね。俺も何とか二人の話に加えて貰おうっち話題振ったばって見事に跳ね返されたしな」と、末尾を強調すると、あいちゃん、「猫Gがあいかと毛玉の二人の世界に入り込もうなんてそんな無駄な努力してたなんてちっとも知らんかったぁ」とけらけら笑う。

 

「俺、あいちゃんときよのちゃんに関して一つ、めっちゃ残念なことがあるんじゃ」

「何?」とあいちゃんが突っ込んで来る。

「三人で到津遊園地に行く予定やったんがわ取り止めになったことや」

「どうして中止になったんやったぁ?」とあいちゃん。

「到津遊園地に行く前日、あいちゃんがアイパッドミニを俺の車ん中に忘れてよぉ、帰ってくる夜の8時まで俺んちの駐車場で待っとったていう事件じゃ。あいちゃんが帰ってこんけんあいちゃんのママが心配してきよのちゃんのママに電話で訊いたんやろ。それだきよのちゃんのママが怒って一緒に遊ぶん止められたってあいちゃん自身から聞いたけど。」

 あいちゃん、「そんな遠い昔のこと忘れたぁ」と惚ける。

 俺は、「都合が悪くなったら記憶にございませんかぁ?」と笑う。

 あいちゃん、口を窄めてるんだろう、「はい、記憶にございませ〜ん」

 

 車は安部山の交差点の手前に差し掛かる。

 俺は、「あいちゃんショートカットや」

「ここからどんな風にショートカットぉ?」ときょとんとしてるんだろう。

「足立山の山道を通って足立に出る」

 あいちゃん、「下の道は渋滞するからぁ?」

「信号がねぇけんそれもあるけど、まぁ細い真っ暗な曲がりくねった山道やからそう飛ばせんと思うけん時間的にはそう短縮にならんかもしれんが、一応斜めに突っ切る形にはなるけん距離的には短くなるかいな」と、俺は安部山の交差点を右折して上がって行く。

 

 上がって行った先の安部山公園は北九州市小倉南区の桜の名所だ。進入路の湯川1号線の両側を桜並木が囲う。3月末の桜の季節はそれはそれな見事だ。花見客が路駐しないように赤いカラーコーンが両側にぎっしりと置かれる。

あいちゃん、「車何か上って行ってるね」

「それはそうくさ。今から足立山に上がるんやけんな」と俺。

 安部山公園に沿って走って、和気清麻呂の像の前を左になだらかに曲がって、真っ暗な山道に入る。珍しいことに、俺の車の前に1台先行車が。