※この書き物は私の独り善がりの妄想話であり、フィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。
おっとしまった、大掃除中だったので、色が完全に褪めてしまった古い方の帽子を被っていた。色が褪めた帽子を被っていると、何か、完全ジジイになった感じだ。あいちゃんにカッコ悪い。
俺は、「おうあいちゃん」と、車に近付いていく。大掃除中だったので、車はロックしていた、「あいちゃんちょっと待て。キー取って来る」と俺は勝手口を開ける。
嫁に、「あいちゃんが来た。送って来る」
「どこまで?」と嫁。
まだあいちゃんに行く先訊いてないのに、適当に、「下曽根駅やろ」
勝手口の前での、「あいちゃんクリスマスイブは何しよったか?」との俺の問いに、「彼氏と居たよ」
「おう、それは良かったな。いくらバイトで忙しいいうてもクリスマスイブは絶対一緒に居って貰わんとな」
車を開けて、後部座席の荷物を左側に押しやって、あいちゃんの座席を確保して、「あいちゃん乗れや」と促しながら、「であいちゃん今日はどこまでか?」
「小倉駅ぃ」
「おっと下曽根駅じゃねぇんか?彼氏が待っとんか?」
あいちゃんバツが悪そうに、「児相に行かんといけんの。小倉駅から電車で戸畑まで行く」
俺は、「戸畑って言うたら市の施設が集まっとる戸畑駅の横のウェルとばたやな」
北九州市福祉施設(ウェルとばた)
ウェルとばたは、平成14年10月にJR戸畑駅南口に開設した、市民福祉の向上と、福祉活動の活性化を図るための拠点施設です。北九州市社会福祉ボランティア大学校や、子ども総合センター(児童相談所)など約40団体が入居しています。
「もう終わったんやないん?何で戸畑の果てまで今さら行かなならんの?おっともしかしてその後のあいちゃんのママとの関係とかの聞き取り調査か?」
あいちゃん、「そうだと思う」
「ならあいちゃんだけで行ってもしょうがねぇんじゃないか。あいちゃんのママも一緒に行かんの?」
「それがね、ママと連絡が取れんの」とあいちゃん。
「今日は遅くまで寝てたぁ。児相から連絡あって何時でもいいので必ず来て下さいってぇ」とあいちゃん。
今日はウォーキングのとき額に汗を掻くほどの陽気だったので上着は着ずに出た。
「彼氏とクリスマスイブ過ごしたなら今度は初詣で一緒やないんか?」と訊いた俺に、あいちゃん、「それがダメみたい。彼氏友達と過ごすんだって」
「何てぇ、彼女と初詣行かんで友達と過ごすってそりゃ殺生やで」と俺。
あいちゃん、「今日のあいか、良い匂いしない?」
「おう、また香水変えたんか?」
「シュンに貰ったぁ」とあいちゃん。
俺は訝って、「シュンって誰か?」
あいちゃん、「もう猫G、あいかの彼氏じゃん」
俺は、「おっとすまん。確か彼氏の名前、一回あいちゃんから聞いとったな」
師走の道路はやっぱり混んでいる。出来たら、16時半には帰って来てローソンのコーヒータイムに行きたかったんだが。そうでないと、走行中に嫁の必殺ライン攻撃がやってくる。早まったかな?とか考えたって、あいちゃんとしては、ここで会ったが百年目、俺は忠実な足だし、面と向かって、今日は都合が悪いなんてかわいそうで言えない。
「俺実は24日は誕生日やったんや。クリスマスイブやし息子が小倉駅のシロヤで2000円のクリスマスケーキ買って来てくれたわ。2000円のケーキって小さいんやな。三人で一切れちょっとでちょうどよかったわ」
あいちゃん、「そうやった。24日のクリスマスイブは猫Gの誕生日やったね。改めまして、猫Gお誕生日おめでとうございます」
「って、そう畏まられたら二の句が継げ難いな。あいちゃんにおめでとうとは言ってもろうたが今回の誕生日は全く嬉しくなかったんじゃ」
あいちゃんきょとんとして。「どうして?」
「もう60過ぎとるけん見た目も完全ジジイなんやけど65歳になったら名実ともにジジイなんや」
「どういうこと?」とあいちゃん。
「俺は自分のことやけんジジイって気軽に言いよるけど、テレビとかでは絶対ジジイとか言えん。やけん65歳以上の高齢者っちゅう言い方するんやが俺その65歳に入ってしまったんや」と運転しながらがっくりと項垂れる。