この土日、鳥栖市にある佐賀競馬場で馬娘とのコラボイベントがあることのこと。俺ら夫婦、馬娘なんてまったく興味ないのだが、土曜日、特設ステージで、大ファンのめいどりーみんのライブがあること、みらいちゃんのブログで知った。なら、行かずばなるまいと張り切ったのだが、初めてのところだし、不安もあった。

 

 鳥栖市は俺が、亡くなった両親、縁を切ったつもりの弟二人と一緒に10年住んだ町だ。佐賀県競馬場、中に入ったことはないが、もう40年前になるか、車の免許を取るという三男を、この広い駐車場で、俺のランサーで練習させてやった。

 

 めいどりーみんの動画、今、俺のユーチューブチャンネルの中に二つある。最後に撮ったのは11月4日の起業祭のときだ。例の店の動画を非公開にせざるを得なくなってからというもの、視聴回数が千回を超えているのはめいどりーみんの動画だけだ。どうしても、この土曜日のライブ、俺のコレクションに加えたかったのだが。

 

 競馬場の見取り図、プログラムもネットでゲットして、夜中の3時に起きて、ローソンでコーヒータイムしたあと、3時半には小倉を出た。競馬場には4時半には着いたが、勿論、真っ暗だ。今の季節、7時にしか明るくならない。

 嫁がコンビニで朝飯兼昼飯を買って食べたいと言うので、競馬から一番近くのコンビニ、セブンイレブンに入った。

 

 再び、競馬場のトイレの近くに停めて、買った弁当を食った後、車を降りて、明かりの点いた事務所に一人居た宿直の係員を訪ねた。どこに並ぶのか訊いて、俺が先頭に並んだら、その後、きれいに列が形成された。このとき、朝の5時くらいか。

 

 どうして俺がこんな早くに並んだかというと、特設ステージは馬場のど真ん中に設置されるようで、入口から相当距離がある。9時半に開門されても、クラッチ杖を突い歩く俺は走れない。どうせ、後ろの奴に抜かされるだろうが、先頭であれば、何とかステージ前の最前列をゲット出来るのではないかと踏んだ。動画をきれいに撮るには最前列は必須条件だ。

 それと、ネットの、2月に開催された馬娘イベントを覗いたら、7時には500人の列が出来ていたと載っていた。8時になったら列の整理があるとも書いてあったが、まさか、その列を崩して並び直させるとは思ってもみなかった俺だ。

 

 7時の過ぎ、40代くらいの担当係員が姿を現して、コーンを立てて8時からの行列に備えるので列を崩してくれと言う。俺は、えっ!とは思ったが、みんなが従うなら仕方ない。でも暫くして、みんな、お行儀よく最初に並んでいた場所の横に再び列を作った。それを見たその係員、嫌みったらしく、「これ、正式な列ではありませんから」を繰り返す。こいつ、どういうつもり?

 

 そして、問題の8時、この係員、列の後方からバイロンの内側に客を入れ始めた。素早く動けない俺は当然最後尾にならざるを得ない。

 嫁が俺に不満をぶつけてくる、「何で一番最初に来た私たちが一番後ろなん?」

 苛立っていた俺は語気も荒く返す、「そげなこと俺に分かるか!」

「俺ら5時から並んどったんにこれおかしいやないか」と、その係員に文句を言うと、「8時に列の整理をしますと書いてあったでしょ。だから、出来た列を崩させて、8時になるまで車の中にでも居て下さいって言ったんです」

 意味分からん?

 

 嫁に、「気分悪ぃわ。しゃぁねえ帰ろう」と一旦車に乗り込んだが、気が収まらない俺は、事務所窓口に居た係員にもう一度、クレームをつけたが、そっち、警備会社のジャンパーを着ている。

 外部の人間なら無駄かなとも思ったが、「朝5時に着いて、そんとき居た係員にどうすればいいか訊いて、示された場所にちゃんと並んどったんやわ。それなんに、せっかく出来とった列、崩されて、並び直させられて、俺、足悪いで素早く動けんで最後尾になってしもうたし。これおかしくねぇ?ムカついてもう帰るしかなくなったで」

 

 その警備会社の者、その列の係員のところに、クラッチ杖を突いた俺と一緒に行ってくれた。

「足が悪いのに5時から並んどったんにそいが無効って酷くない?」と、もう一度文句を言った俺に、そいつ、「先に並んどった人を優先させるとちゃんと時間を守って8時に来た人が話が違うってなるんじゃないですか?」

『あっちゃ〜、ど田舎の人間には常識が通用しねぇ。先着順にしねぇと、集まった客が8時に一斉に並んだら混乱するこたぁ目に見えとるし、素早く動けない俺ら夫婦、絶対に先頭には並べねぇ。やから、朝5時にやって来たっていうのに。なら、ちゃんとこう書いとけよ。8時前に来られて列に並ばれましても無効ですからと』

 

 こんな気分で楽しくめいどりーみんの動画なんて撮れない。もう帰るしかない。諦めるしかない。ご到着アイドルも居ない、こんな鳥栖のど田舎までのこのこやって来た俺らが悪いのだと。

 

 最後にふと思ったのだが、大それた人間になってないと、平気でゴミ扱いされること、佐賀競馬場で思い知らされた。もうあと10年前後であの世行きだろうが、次に、我思う故に我有り状態になれたら、今度こそ、ゴミ扱いされない大それた人間になりたい。