あと、独身のとき、何の違和感も懐くことなく出席したのは、高校時代からの親友で同級生、成澤の結婚式だ。彼、残念ながら、5年前、脳の難病、多発性硬化症で、60歳の還暦で亡くなった。本当の意味での親友の死に直面したら、あそこまで次から次に涙が溢れて止まらないものなんだと改めて痛感させられた。咽んで、弔辞がまともに読めなかった。

 

 成澤の死の前、俺にとって大事な人の死といったら、セールスマンとお客の関係を飛び越えて、家族ぐるみで親交のあった石田真木さんの死と親父の死だ。石田さんは確か、63歳だったと思う。俺より5つくらい年上だったか?肺癌で亡くなった。葬儀は家族葬で、唯一、オレと嫁だけが参列した。家族葬だったせいなのか、厳かに故人を見送って、涙は出なかった。

 子供はかおりちゃんとひろき君で、二人とも成人していた。

 ご主人曰く、「真木が亡くなって遺体をアパートに連れて帰って来たんやけど、かおり、明日は火葬だから今日が共に過ごす最期と言って、真木を風呂に入れてやっていたよ」と、さも何でもないことのように言っていたが、俺は驚愕した。

『えっ!いくら愛する母親といっても遺体と一緒に風呂!』

 俺の親父も亡くなって家に帰って来て、葬儀場での通夜と葬儀の前、遺体とともに2日過ごしたが、死後硬直した遺体の肌は切り株の根の如く硬くて気持ち悪い。俺には親父の遺体と風呂に入るなんて鳥肌ものだ。絶対に出来ない。

 

 親父の葬儀の喪主は、お袋が恍惚状態だったもので俺が務めた。喪主の挨拶のとき、咽び泣く俺はまともに発声出来なかった。このとき、俺は52歳。

 あと、涙が溢れ出たのは、西南大学の空手部の同期、58歳で癌で亡くなった今村の葬儀だ。

 

 二十代の俺ら、いつもつるんでいたのは三人。ドライブにはやはり異性が居た方が盛り上がるのは当然だ。あの頃、俺は大学四年。大学受験を断念して市役所に就職した成澤は社会人4年目。もう一人の親友・豊田は、大学が現役だったため、地元の観光会社に就職して1年目。

 俺が自動車免許を取ったのは大学3年の春休み。同乗していた先輩の車が事故を起こして、額に傷痕が残った俺は、後遺症代として、先輩と相手、二口の自賠責保険から150万円出たが、手続きしてくれた保険代理店に、保険の簡単な知識さえあれば払わなくでも済んだと社会人になって気付いたが、謝礼として30万円取られた。でも、気を落とすことなく、残った130万円で、免許を取って新車を買った。白の、トヨタ・カリーナ2ドアハードトップ1600CCのオートマチックだ。なら、励むのはナンパだ。

 

 当時、大学生の俺が家族と住んでいたのは鳥巣、屯していたのは、同級生で親友の成澤の部屋、というか、親に建てた貰ったプレハブ小屋。豊田の愛車は中古で買ったモスグリーンのカリーナ・2ドアハードトップ1600SR。俺のカリーナの旧型あ。でも、マニュアルミッション。俺は障害者免許だったので、オートマチック。成澤の愛車は、誰からか貰ってきた、ほんとぼろぼろのモスグリーンの初代セリカのだるま。

 日曜日度に、そのセリカで爆音を立ててナンパに向かったのは、福岡市内や佐賀駅前など。この時代、車でのナンパ、誰でもやっていたし、犯罪に進展してニュースになることなんて全くなかった。おおらかな時代だった。女性の方も、車の窓越しに声を掛けられるのを今か今かと待っていた。ナンパの成功率が高いのは夜中に人が集まるところ。といったら駅と夏場の志賀島。

 

 俺と成澤と豊田、親友同士の三人。身長は三人とも同じくらいで170前後。大学四年の俺は額が若干広がっていたが、髪を下ろしていたら分からないレベル。

 この中で彼女を持った経験があるのは豊田だけだった。何故か、豊田だけモテた。中学三年のときのバレンタインデー、一緒に帰っていたら、女子が豊田を呼び止めて、チョコレートを渡していた。お恥ずかしながら、女子と全く縁のなかった俺、2月14日がバレンタインデーであることも知らなかった。豊田、中学生でありながらそのその子と付き合っていたのではなかったか?鳥巣高校に入学して切れたようだ。

 

 鳥巣高校三年になると、新入生が夢にまで見る、三年になっての体育祭。今の体育祭は学校側に管理されているが、俺らの頃は体育祭は、学校側は全くなかった関知しない。生徒会主導の体育祭だ。

 大学体育会は一年は奴隷、二年は平民、三年は天皇、四年は神様という序列だが、これはあくまでも体育会に入会した場合のこと。だが、鳥巣高校は在校生全員にこの序列が適用される。この期間、どんな理不尽なことがあろうとも、逆らったり口答えしたりすることは許されない。

 体育祭の期間は9月の約1ヶ月。その間、説教と称して、三年は二年と一年の教室にどかどかと土足で踏み込んで(鳥巣高校は元より土足だが)、下級生を一人一人立たせて、大声で自己紹介させる。どんなに大声で自己紹介しようとも、竹刀で力一杯教卓を叩いて、「声が小さい!」と難癖を付け、何度も何度も繰り返させる。一年の女子が恐がって泣き出そうともお構い無しだ。俺の知る限り、下級生で、この説教中に逆らった者は誰も居ない。

 おっと、一人居た。俺がこアメブロに載せている小説、「凶悪志願」の主要登場人物、「井本」だ。

 傷害事件などに発展すれば話は別だが、鳥巣高校の体育祭の歴史において、そういう前例はない。

 

 下級生にしてみたら、体育祭期間中の三年は輝いてみえるらしい?だから、三年は学校中が浮かれたこの期間に下級生に告り捲る。

 

 2023年11月5日