※この書き物は私の独り善がりの妄想話であり、フィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。
この猛暑、車の中で寝てたら、エアコン無しでは無理。今日も164円の寺迫口スタンドで600円分給油して目盛り半分の5になったが、直ぐ4に下がって、クリーニングせいやに行くときは3になった。
5時頃、庭からパソコンを置いている辺りを掃除して駐車場に戻ったら、住宅街の日豊線に沿った路地から、「猫じい!」とあいちゃん。
おっとあいちゃん、黒のビキニトップにパンツルック、露出が多い挑発的な服装だ。あいちゃんまだ13歳なのに、出るべきところはちゃんと出て、締まるべきところはきゅっと締まった魅力的な女の子だ。ジジイの俺には刺激が強過ぎる。
「おうあいちゃん今日は何処に行くんか?」
「下曽根駅ぃ」
俺は一旦ロックした車を開錠してあいちゃんを乗せてエアコンを入れてやった。
「今日のあいちゃん夏らしい服装やな」と俺の感想。
「あれっあいちゃん今日のウイッグは茶髪かぁ」
あいちゃん、「今日のうちはギャルやしぃ」
駐車からバックさせて住宅街の路地に出た、「昨日は何時に帰ったんか?」
あいちゃん、「4時くらい」
「でまた小倉(市街地)に行くんか?」
「祇園」
「何ち?また祇園か。誰と行くんか?」
「みーちゃんと行く。若松花火大会」
俺は、「おう若松花火大会大会か。やったら若松駅近くの久岐の浜やな。どうやって行くんか?」
あいちゃん、「折尾駅まで行ってまた若松駅まで戻らんといけんのよね」
「電車で行ったらそうなるな。ばって若松駅は戸畑渡場から若戸渡船で行っても近いぞ」
「えっ、そんな行き方あるの?戸畑渡場って戸畑駅から近い?」
「駅から近いかどうかは戸畑駅から行ったことねぇけん分からんわ。駅員に聞いてみぃや」
住宅街の路地から大通りに出て、「みーちゃんは相変わらず金持っとるんか?」
あいちゃん、「持ってるよ。お母さん看護師さんだからぁ」
「父ちゃんは?」
「みーちゃんの家別居してるよ」とあいちゃん。
俺はびっくりして、「何か離婚かぁ?」
「まだ離婚はしてないみたいやけど一緒に住んでないよ」
「そうか。どこの家庭も夫婦で問題抱えとるなぁ」
あいちゃん、平然と、「あいかんちもこの前離婚寸前までいったよ」
俺は驚愕して、「何てぇ!!離婚寸前までいったぁ」
あいちゃん、「じゃぁ私たち離婚しようってママが言ったもん」と、あいちゃん全く動揺していない。あいちゃん肝が座っている。
俺、あいちゃんと同じくらいの歳のとき、両親が離婚したらどうしようとか考えたことある。でも当時、離婚は余程のことがない限り不可能な時代だったことは確かだっただろう。俺の家系で離婚したことのある親戚は一人しかいない。死んだお袋の兄貴だ。離婚なんてこと、あの時代、最大の恥だった。子供心にも伯父貴離婚したってぇとバカにしていたから。
それと、あの時代、ほとんどが専業主婦だったから、親父を怒らせたら、機嫌が治るまでお袋はじっと我慢していたような気がする。でも、今の時代、あいちゃんのママはバイトでもちゃんと働いているから、お袋のように理不尽な我慢などする必要はない。
「でもそれからちょっとママの機嫌が直って夫婦仲が戻ったぁ」とあいちゃん。
俺は訊かざるを得ない、「もしパパとママが離婚したらあいちゃんはどっちに付いて行くんか?」
あいちやん、「パパかな。ママとは馬が合わないしぃ」
まぁこう答えるのは想定内だった。初めて知り合った小学生六年生のときからあいちやんがパパっ子なのは周知の事実だったから。周知というのは、かなえちゃんときよのちゃんも知っていたことだから。
俺は、「あんなど田舎であいちやん我慢出来るんか?」
「確かに山鹿って相当な田舎よね」
「山鹿でも不登校か。ばって友だちつくるためにゃぁ学校行かんとできんぞ。そいにパパは仕事で居らんけん鍵っ子状態やでぇ。俺は10年前仲間と山鹿温泉に泊まったわ。あっと会社辞めた年やったけん6年前か」
あいちゃん、「猫じいいい加減!6年前と10年ってだいぶ開きがあるしぃ」
「そうか」と俺は頭を掻く。
「ばって山鹿灯篭祭があるぞ」と俺。
あいちゃん、嬉々として、「それ今年行くよぉ」
下曽根駅の交差点の信号が青に変わって、駅前交番のある長い進入路にはいる。戯れに、「よっしゃ〜、不良少女保護しましたって交番にあいちゃん預けて帰るかのぉ」と戯言を叩いてやったのに、あいちゃんからの突っ込みは無し。
バス停の手前の路側帯であいちゃんを下ろす、「猫じいありがとう」
「おうまた来いや」
俺は、駅の長い階段に向かうあいちゃんをちょっとだけ目で追う。しみじみ、女の子の成長ってほんと早いわ。1年半前ははな垂れ小学生だったのに。