※この書き物は私の独り善がりの妄想話であり、フィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。
ステファニーやっぱり顔を出さない。悲しみにうちひしがれてみかんを食っていてら、住宅街の道を大通りの方からあいちゃん。あいちゃんも結構目が悪いのでないか、「あっ、G猫煙草吸いよる」と近付いて来て、「何や、みかんやん」
「G猫煙草吸いよらんの?」と斜め前の婆さんの敷地の段差に腰掛ける。
「俺は吸ってないっちゃ。去年あいちゃんと友達になる前には止めとったし」
体操服服姿のあいちゃんに、「部活からの帰りか?」
「うん、今日まじで遅れるかって思った」
「間に合ったんやな?」
「うん」とあいちゃん。
あいちゃん、「今日毛玉(きよのちゃんのこと)頑張っとったよ部活」
俺は、「おう、試合でもありよったんか?」
「うん」とあいちゃん。
寄って来ただんごを愛でているあいちゃんに、「ヤバいわ!まじステいねぇ。あいちゃんと知り合えたんもステのお陰なんやけどな。今月5日であいちゃんと知り合って1年なんやけど、まさかステとも1年で別れる羽目になるたぁ思ってもみんやったわ。で、今日はまたどこか行くんか?」
「小倉(繁華街)に行く。まずは帰って詐欺メイクせんといけん」とあいちゃん。
「昨日あいちゃん送って行くとき乗ってきた自転車取りにきたお母さん、あいちゃんの姿探しよって見当たらんで学校から帰って来て何か言われんやったか?」
「何も言われんよ」とあいちゃん。
あいちゃん、顎マスクで顔が見える。やっぱりかわいい。俺は新しく手に入れたスタイリッシュなマスクを車のグローブボックスから出して掛けてあいちゃんの前へ。
「どやあいちゃん、新しく勝ったマスクや」
あいちゃん、「どこで買ったん?」
「コスモスや」
あいちゃん、髪が結構伸びている。
「髪が伸びたな。その後宗像の彼氏とはどうなったん?」
あいちゃん、「別れたぁ」
俺は、「はぁもう別れた。ほんの一瞬じゃん」
あいちゃん、「正確には6日ぁ」
「何で?」
「ふられたぁ。もう飽きたって言われた」
「まだ会ってもねぇのにかぁ?そいつおかしいんやないんか?知り合ったんはインスタやろ」
「うん」とあいちゃん。
俺は、「もうリアルで探したんがいいんやないんか?」
あいちゃん、「クリスマスまでまた頑張って探すぅ。でも今度のクリスマスは親友同士三人で過ごすようにはなってる」
俺は、「みーちゃんと…さやちゃん(ここはわざと)と」
あいちゃん後を引き取って、「さやは違う。親友じゃない。みーちゃんと◯◯」
「きよのちゃんとは厳しいんか?」
あいちゃん、「違う友達と遊んどるけん」
俺は、「女子は友達って結構入れ替わるんやな。俺とか中学高校って固定しとったけどな」
あいちゃん立ち上がって、「じゃぁねぇステ」
「俺はステじゃねしステ消えたし」
あいちゃん、「間違ったぁ。じゃぁねぇG猫」
車の中でうとうとしていたらいつの間にか14時過ぎていた。あれっ、もう今日はあいちゃん乗せてくれって来ないのかなと思いながらもまたうとうと。すると、俺の視界にあいちゃん。
俺はドアを開けて、「おうあいちゃん」
おっともう一人居るみたいだ。もしかしてさやちゃん?と思ったらあいちゃんのママだった。左リヤドアを開けて、「あいが色々お願いごとしてるみたいですいません。私全く知らなくて」
俺は、「いえ全く気にしないで下さい。俺らは毎日が日曜日でド暇ですから」
あいちゃんのママ、「愛はどっちに乗る?」
あいちゃんが後部座席の右側に、あいちゃんのママは左側に乗り込んだ。
あいちゃんのママ、「いつもご来店(あいちゃんのママが勤めている餃子の王将のこと)ありがとうございます」
俺は一応嫁に知らせておこうと家の中に入ったが、コタツで安らかに昼寝しているのを起こすのは忙しい。
そのまま外に出て乗り込む、「嫁、今度はラーメン鉢貰うんやって張り切ってますから」
あいちゃんのお母さん、「いつもすいません。リバーウォークまで…」
あいちゃん即座に、「違くねぇ」
俺は、『リバーウォークでもまぁ嫁は暫く起きそうもないしバレることはないだろう』と承知するつもりではあったのだが、あいちゃんのママ、「下曽根駅?安部山公園駅?」
あいちゃん、「安部山公園駅でよくねぇ?」
あいちゃんのママ、「下曾根駅の方が近くて迷惑掛からないんじゃない?」
『今さら迷惑とか言われても』と俺は苦笑い。
「ここからやったら安部山公園駅の方が断然行き易いですね。距離的には遠いかもしれませんが信号に引っ掛かりませんから。下曾根駅の方が近いかもしれませんが下手すると信号全部引っ掛かって時間はこっちの方が掛かりますよ」
あいちゃんのママも、「確かに下曾根駅の方が信号多くて行き辛いですよね。なら愛、安部山公園駅の方にお願いしようか」
今俺は息子の新車が来たときのために車を停める位置を変えた。息子が言う、「新車の屋根枝で摩りながら停めとうないけ」
枇杷の木、前からなのだが、ここんとこ蕾が多くついて、ますます垂れ下がってきた。そこで停めっ放しにしているエボリューションを枇杷の木の下に持ってきて、百円のレジャーシートでフロントガラスとボンネットだけ覆って、蕾が上に落ちても大丈夫なようにした。
ハスラーは勝手口に頭から着けている。出るためにバックした途端、あいちゃん、「あれステじゃねぇ?」
おっと見てみると、住宅街の路地の溝蓋の上にちょこんと座ったステらしき猫。
俺は、「おう!」と感嘆の声をあげた。車を元の位置に戻して、以心伝心であいちゃんと二人社外に出て、その猫を近付こうとしたら逃げ出した。
あいちゃん、「な〜んだ『しんじん』じゃん」
しんじんというのは漢字で書けば新人。今年の始め、まだあいちゃんかなえちゃんきよのちゃんが小学生で俺の家に毎日猫に餌をやりに来ていた頃、新たに加わったという意味で、『しんじん』と名前を付けた。
俺はかっくりと肩を落として再び運転席へ。
「やっぱステは消えたんかなぁ?もう会えんのかなぁ」と呟きながら、俺は住宅街の路地を竹馬川の方へ。
あいちゃんのママ、「12月に入って急に寒くなりましたよね」
俺は、「確かに。11月30日から12月1日になった瞬間冷えましたねぇ。1日は気温が10度以上になりませんでしたから。30日テレビの天気予報で12月にはいったら冬の気温になるとは言ってましたがここまで手の平を返すとは思ってもみませんでした」
日豊線の跨線橋を渡って○○元町へ抜け、高速高架の手前から田んぼ道に入る。入って直ぐの田んぼ、持ち主が簡易なビニール小屋を二棟立てて、令和新撰組の立看板を設置している。この道をよく使う俺には否応なしに目に飛び込んでくる。
「ここの地主令和新撰組の支持者のごたって最近この看板立てたんですよ」と俺。
あいちゃん、「令和新撰組?」
あいちゃんのママ、「◯◯さんが令和新撰組やないの」
あいちゃん唐突に、「ステもう死んだかもしれんね」
俺は、「あいちゃん死んだとか悲しいやん」
あいちゃんのママ、「近頃この子、死ぬとかよく使うんです。注意してやって下さい」
「5日は俺があいちゃんと知り合ってちょうど1年や。ステが居らんやったら知り合うこと絶対なかったしな」と感慨深気な俺に、「確かにG猫の言うとおりじゃん。うちなんか、『何!このおいさん』って思ってたしぃ」
「『何このおいさん』はちょっと悲しいけど、俺のようなじじいはあいちゃんたちにとっては当然そんな認識やしな。全てステのお陰や。ステは天使やっんやな」
あいちゃんも、「ステは確かにうちとG猫の天使やったかも」
あいちゃんのママ、「私ここのところ11時入り(餃子の王将)が多くて中々お会いできません」
俺は、「確かに会うことが少ないですもんね。ところで〇田さん宅は暖房は灯油ですか?」
あいちゃんのママ、「いいえ」
「ならエアコンですね。私数年前まで灯油じゃんじゃん焚いてたんですが、金が勿体なくてストーブ止めてコタツだけにしたんです。めっちゃ寒いときは動かずコタツに丸まってます」と苦笑いの俺。
あいちゃんのお母さん、「朝寒いでしょ。部屋の中暖めておかないと家事とかで動き辛くて」
「ネットニュースで沖縄、電気代が1・5倍に跳ね上がるって言ってました。エアコン使ってたら月15000円くらいはいくでしょうね。あっ四国電力も40%値上げってなってましたね。九州のように原発がないところは厳しいようですね。まぁ寒いですが朝は元気一杯です。嫁王将スタンプ前回50個貯めて餃子の王将棋貰ったんですが、家族に誰も将棋するもんが居らんってこと忘れとって35個でラーメン鉢貰えばよかったって後悔しとりました」
あいちゃんのお母さん、「35個だったらブランケットが人気ありますよ」
「あれは要らんと嫁初めから外してました」と俺。
「餃子の王将棋貰った人がやっぱりハンドレスイヤホンが良かったと交換しましたよ」とあいちゃんのママ。
俺は、「私らにはハンドレスイヤホンは必要ないですね」
あいちゃんも、「うちも要らな〜い」
「でも私ら夫婦飲食店にはどうしても一番で入らないと気が済まないんですよ」と俺。
あいちゃん、「一番で入らないと困ることあるの?」
「何でも一番って気持ちいいやん。それに好きな席に座れるしぃ」と俺。
あいちゃんのママ、「店に一番に来店されるのは猫じいさんと…」
あいちゃん、ここでお母さんの言葉に横槍を入れる、「お母さん『猫じいさん』って」と笑う。
俺は、「あいちゃんのママには俺の名前教えてないけんね」
あいちゃんも今年の始めまでは俺のことを猫じいと呼んでいたが、G猫に変えた。だから『さん』づけにはめっちゃ違和感を感じておかしかったんだろう。あいちゃんのママとしては、大人の嗜みとして、俺との会話で『猫じい』と呼び捨てる訳にはいかないだろう。
思い出した、確かきよのちゃんのお母さんも俺と会って話したとき、「猫じいさん」と呼んだ気が。
安部山公園駅には電車が止まっていた。あいちゃん、「電車が来てるけど間に合わない」
あいちゃんのお母さん、「次の電車があるよ」
俺は急いで駅の安全地帯の小さなロータリー部分で降ろして、家路を急いだ。嫁が目を覚ましたらまずい。