わざわざ門司港まで行ったが、おでんの若松屋はまだ持ち帰りだけだった。仕方なく小倉に戻って長浜とんぺいに行ったが、値上げしていて、ラーメン二つに小ご飯二杯で1560円。昼飯の予算、夫婦二人で1500円を超えてしまった。

 義足の左足の断端外側に出来た傷が治らない。痛くてまともに歩けない。この状態、もう1ヶ月以上になるのでは。尻の擦過傷、腹筋するとき擦れて辛い。

 

 16時半頃、きよのちゃんが一人でやって来た。まだ車に乗っている俺に、運転席のガラスを叩いて、「猫じい大ニュース。嘘やドッキリじゃないからね」

「どうしたん?またかなえちゃんと喧嘩か?」

「かなえちゃんは関係ないよ。あいちゃんが足捻挫したよ。体育の授業でサッカーしていたとき跳んだ拍子に足捻ったみたいなん。めっちゃ泣いたって」

「あのあいちゃんが泣いたって…、凄く痛かったんやろうな。卒業式出れるんか?」

「まだ二週間あるから大丈夫やと思うけど」

「暫くここにも来れんな。ステファニーに会えんってあいちゃんにはめっちゃ辛いやろうな。ばって、あいちゃんのことやけ松葉杖ついて来たりして」

「自宅療養するんなら見舞いに行ってやりたい気もするんやがな」

 きよのちゃん、「すぐ近くなのに猫じい行けんの?」 

「そりゃ無理やろや。俺のごたるジジイが猫知り合いですとか言ってのこのこ面出したら変な目で見られるわ」

「それは言えてる」ときよのちゃん。

 

「今日はかなえちゃんは来るん?」と俺。

 きよのちゃん、「友達へのプレゼント買いに行くって。ここに来るようには言ったから」

「新しい紙皿買って来たけんな」

「ありがとう猫じい」ときよのちゃん、ポリバケツから猫缶を取り出して開けた。

 暫くして、日豊線に沿った住宅街の路地から自転車に乗って現れたかなえちゃんに、「あいちゃん捻挫したってな」と投げ掛ける俺。

「そうみたい」というかなえちゃんの返事にはあいちゃんの怪我を心配する気持ちがあまり籠ってないような気がした。

 

 きよのちゃん、「だんごが居ない。昨日も居らんかったし…」

「昼頃俺だんご撫でてやったがなぁ」

 きよのちゃん、ステファニーを相手にする。まだ他の猫はやって来ない。

「あっ、あいちゃんからラインが来てる」ときよのちゃん。

「あいちゃん1週間は遊べないって」

 きよのちゃん、ビデオ通話にしたようだ。コンクリート地面にスマホを置いて俺にも見える。ディスプレイにはスナック菓子を食べながら寝そべっているあいちゃん。こんなあいちゃんもかわいい。

 スマホでステファニーとかなえちゃんと俺を映し、一通り喋り捲って、「じゃぁあいちゃん切るよぉ」

「あいちゃん明日学校行くって?」と俺。

 きよのちゃん、「ちゃんと行くって。もしかしてお母さんが送り迎えしてくれるのかも」 

 かなえちゃん、「あの足の悪い子も送り迎えして貰ってるからね」

「いいな。うちもやって貰いたい」ときよのちゃん。

 

「じゃぁかなえちゃんステを抱いてみて」ときよのちゃん。

 俺が、「かなえちゃんステ抱けるようになったんか?」

「大丈夫だよ」と、ステファニーを抱き抱えた。

 かなえちゃんの膝の上にステファニーが乗っている。こんなことは初めてではないか。あいちゃんがいつも言っていた、「かなえちゃんって本当は猫が好きじゃないんやない?」

 かなえちゃん、「こうしてみるとステかわいい」

「やろ」と満足そうなきよのちゃん。

 

 かなえちゃんが向こうに行っているとき、「かなえちゃん、『ずっと友達でいたい』とか、お前ら二人との友達関係絶対失いたくなかったんやな」と投げ掛けた俺に、「うん。うちもあそこまで言うとは思わんかった」ときよのちゃん。

「それとかなえちゃんに悪いことしたわ。俺が椅子に座っとったらいいと言うたんやが、あいちゃん、『これうちの椅子だから』ってかなえちゃんば押し出したんやが。申し訳なかったわ。あいちゃんに言おうとしたんやけど、まぁいいかって黙っちまったわ」

 きよのちゃん、「猫じいかなえちゃんに悪い!」と擁護するふりして笑っている。

 

 かなえちゃんときよのちゃん見ていて、二人のときは凄く仲が良いのだが、ここにあいちゃんが入ってくると、二人で結託してかなえちゃんを苛めるのではなく、弄る。

 かなえちゃん、「俺昼頃だんご撫でてやったんやがな」と呟いた俺の言葉を拾ってきよのちゃんに伝えに行く、「毛玉(きよのちゃんのこと)、新事実!新事実!」と駆け出した。

「かなえちゃんそのこと毛玉知っとるんやけど」という声は届いて無さそう。

 

 きよのちゃんがだんご(婆さんの庭に居るオスの茶トラ)を探しに行ってるとき、かなえちゃんに、「さっき足の悪い子のこと話してたよね。何年生?」

「確か一年生だと思う。酷い内股になって苦しそうに歩いてる」

「確か先天性内反足っていう病気なんじゃ」

「猫じい何でも知ってるよね」とかなえちゃん。

 去年、下関駅で、この病気の女性を俺が見過ぎたとか難癖付けられて、姉とかいう奴と言い争った。思い出してしまった。胸糞悪い。

 

 門限前、二人仲良く、「猫じいまたねぇ」

「ああ。明日あいちゃんが学校に来たら宜しく言うとってなぁ」

 俺としてもあいちゃんと1週間も会えないとなると禁断症状起こすかも。冗談だが。

 

 2024年5月31日修正