「世間は春爛漫だぁ。やっと帰って来たぁ」

 両手を拡げて大きく背伸びする美穂ちゃん。彼女は、荒木からバスには乗ったものの、終点の西鉄久留米駅の相当手前のバス停で下りて、久し振りの久留米の街を味わうようにゆっくりと歩を進めて散策する。通り沿いの小さな公園に植わった数本の桜の木も、眩しい春の陽光を浴びて満開だ。日曜日、遊具できゃっきゃっ騒いで遊び回る小さな子供たち。そんな子供たちを温かい眼差しで見守りながら、母親は井戸端会議。高校時代、親友の美咲・夏樹・照代の四人で騒ぎながら彷徨回った懐かしき通りだ。今日は、西鉄久留米駅の溜り場だった喫茶店で親友同士集まろうということになって、久留米の中心街まで出て来た美穂ちゃんだった。

 

 西鉄久留米駅前の路上に無造作に停められた、生産台数800数十台の希少車、三菱ギャランGTO・MRが美穂ちゃんの目に留まる。

「へぇMRじゃん、珍しい!それもオレンジ。私の車と一緒じゃん」

 駅ビル一階、商店街の一角の馴染みの喫茶店のドアを潜ると、「美穂ぉこっちこっち」とはしゃぐ声。

「美穂ぉ、会いたかったよぉ」と夏希と照代が席を立って大袈裟に抱き付いて来る。

「あれっ美穂、胸大きくなったぁ?」

「もう、変わらないよぉ」

「だよね、美穂だけ大きくなられてたまるか!ってね」と冗談っぽく口を尖らせた夏希が、美穂ちゃんの胸をブラウス越しにポンと人差し指で押した。

 美穂ちゃん、わざとらしく胸を腕で覆って、「夏希のエッチ!」

 

 四人掛けの席に、拓海は隣から椅子を拝借してきて座っている。拓海の彼女の美咲はそんな三人の様子を眺めながら目を細めていたが、「美穂お帰り」

 拓海も、「よっ野中!」と右手を上げる。

 美穂ちゃん、「あれっ拓海君、何か感じ変わったぁ?」

 美穂が知っている拓海は長髪の優男だったが、スポーツ刈りの、長袖ニットシャツから盛り上がる胸筋は逞しいし、腹筋も引き締まって心なしか割れているような。

 美咲、「そやろ。まぁ積もる話もあるから、色々聞かせてあげるよ」と意味深な笑い。

 

「でも、美穂が急にイギリスに語学留学するって言ったときはびっくりしたよう」と夏樹。

 夏樹は西南学院大学の英文科卒だ。去年損害保険会社に就職して勤務地は福岡市だ。

「うん、佐賀県の教職試験には受かったんやけど、鳥巣高校の境校長が大吾先生との約束に責任感じてて、意地でも私を鳥巣高校に迎えるんだって焦ってて、佐賀県教育委員会に教師生命を賭けて働き掛けてくれたん。でも欠員が出なくて、1年待ってくれって申し訳無さそうに電話掛かって来たんだ。1年か、でもちょっと待てよ、これは良い機会かもって閃いたん。確かに英語は得意だったけど、それは中学校・高校・大学の日本の語学教育レベルを超えることはなかったけんね。もし、私が英語圏の人たちと本気で関わることがあったとしたら、不安じゃん。発音も日本人の英語やし。やから、生きた英語を学ぶなら今しかないって思ったん」

 夏樹、「じゃ美穂、その成果を私に披露してみて」

「いいよ、さっき私が言ったこと、英訳してみるね」

「Yes, though passed the teaching profession examination of Saga, the boundary principal of Torisu High School feels responsibility in a promise with Mr. Daigo, and get impatient when invite me to Torisu High School no matter what happens, and bet teacher life on the Saga Board of Education, and pressure it to work on it; a sputum. But a vacancy did not appear and came apologetically when I waited for one year whether a telephone took it. I wait a minute in one year, it was a good opportunity or had this and flashed. Though English was surely pride, as for it, there was not the thing more than the language study education levels of a junior high school, a high school, the university of Japan. It is uneasiness if I might associate with people of the English zone seriously. The pronunciation is an English palm of the Japanese, too. Therefore I only just thought that there was not it if I learned live English」

「凄い!もうネイティブの発音じゃん。私の英語力では、和文から英文への翻訳、完全かどうかは分からないけど…」と夏樹は舌を巻く。

 

 2021年10月29日・2024年3月23日修正