ここ数年、1月の暖冬傾向が続く。まだローソンでのコーヒーブレイクの習慣がつかない頃、俺は道路を挟んだ対面の自販機で微糖コーヒーを買って一服していた。余りの寒さに陰に隠れて寒風を凌いだ。
去年のお袋さんはまだ太っていた。体調が思わしくなく初詣にも行かなかった。今年、病気治療で驚くほど痩せた。10月、嫁の癌手術の見舞いに医療センターにやって来たお袋さんの姿を見てあっと驚いた俺だ。
天候も良く、恒例の四国一の宮、田村神社に詣でることになった。実家にはアイシスとパッソの二台、自家用車がある。前者は義理の弟、宅配会社に勤めるフミオが使い、後者は保険会社に勤める嫁、カズヨが使う。
そのカズヨ、去年、親父さんが亡くなり、まだ喪に服しているため初詣には行かれないとのことで、俺ら家族は乗って来たミラージュで向かう。本殿参りの長い行列の最後尾に付き、参拝の順番を待つ。義理の妹・マユミの髪、ふさふさだ。髪は染めているとは思うが分からない。歳は54の筈だ。嫁は58だが、このところ、白髪だらけで頭頂部の髪がだいぶ薄くなった。女だから、俺と違って禿はしないとは思うが。
あまりの人混みに俺はみんなを見失う。気にせず、喫煙場所で悠然と一服していたら、嫁からライン。
嫁;帰る。何処や?
俺;煙草吸いよる。社殿の前。
嫁;知らん。
俺;今、車のところに行きよる。
駐車場に着いてみると車が見当たらない。置いてきぼりにしやがった。さすがにこれには実家では日頃温厚?な俺でもむかついた。
俺;なん、勝手に出よんか!
嫁;何処にいるん?
俺;置き去りにしやがったな!
嫁;総合結婚式場田村神社会館前にいる。
俺;何で動いたんか!わかるか!糞が!
嫁;置き去りにしてない!
俺;しとるやないか!
嫁;付いて来なかったん?探していたんよ。
俺;歩いて帰れってか!ふざけるなや!
嫁;フミオ君おばあちゃん、TYMちゃんはって探してたんよ。待ってるよ。フミオ君たちも。何処にいるん?
広い駐車場をぐるりと見回して本当に歩いて帰ってやろうかと気を吐いてみた俺だが、さすがに全く知らない街、どっちに向かって足を踏み出したらいいかさえ皆目見当付かない。
そんなとき、息子から電話。
「父ちゃん今どこに居るん?」
「来たとき降りた駐車場や。置いてきぼりにしやがったな!何で動きやがったんか。着いてみて車がなかったら愕然とするやろうが。そんくらい分からんとか!糞が!」
「ばあちゃんが歩けんけ、神社内の結婚式場前に動かしてくれって頼まれたけん」
「そんなん俺には関係ねぇわ。俺の姿が見えんやったら動かんで待っとかんか。そげなことにも気が回らんとかちゃ」
「ご免父ちゃん!」
2021年1月14日・2022年1月30日・2024年1月9日修正