今期4月からのドラマ「集団左遷」を見ていたら、気になる話題が出てきた。若者三人のグループがロボット義足の会社を立ち上げたいから融資をお願いしたいとのことで、彼らが差し出した写真に、俺は大いなる関心を抱かずにはいられなかった。

 すぐさま、ユーチューブで検索したら、MITメディアラボのバイオメカトロニクスグループを率いるヒュー・ハーの講演動画が出て来た。正に驚愕!

 と、同時に拙いとも思った。俺の障害者差別裁判に影響して、もしかしたら裁判官にこう言われるかも。

「今はテクノロジーが進歩して足を切断してもロボット義足にしたら健常者と何ら変わらないそうですね。どうして被告は金を貯める、もしくは借金してでもロボット義足にしようとしなかったのですか?どうして旧式の義足をわざとらしく装着しているのですか?ロボット義足だったら杖なんて必要ないでしょう。要するに、原告は障害者を騙っていただけではないのですか?ロボット義足があるのに装着していなかった被告は健常者に分類されますので、障害者雇用促進法の庇護の対象から外れると言わざるを得ず、因って、原告に非はないと結論付けざるを得ない」

「そんな無茶苦茶な!」と俺は法廷で天井を仰ぐだろう。

 そうなれば、障害者関連法は全て書き換えられて下肢欠損者は障害者仲間から爪弾きだ。

 

 動画では義足の足首が健足のように動くから、不整地も走れるしロッククライミングもできる。ただ、平均年収400万前後の者には手の届かない高値の花だ。俺はスーパーカーを買えないし、メンテンナス費用を考えたら維持もできないように。

 

 あるロボット義足のエンジニアがこんなことを語っている。

身体の障害は現時点では障害かもしれないけれど、10年後には障害でなくなるかもしれない。もし足が無かったとしても、足と同じように動くテクノロジーがあれば、その人は普通に歩くこともできるし走ることもできる。そうなったら、足が無いことは障がいなのだろうか。きっと未来は誰もが身体に不自由はなく自由に身体を動かすことができるに違いない』

 

 勝手なことは言わないで欲しい。下肢欠損者がどうして障害者なのか、よ~く考えて欲しい。血が通った足を失ったからである。作り足なんか要らない。死ぬまで外さずにおれる義足だったら認めるが、そうでなかったら外科手術で安価で生身の足、移植してくれ。

 そういえば、小学生のとき、作り足ってからかわれたな。

 今付けている義足と値段が変わらないなら生身の足と同じ機能があるに越したことはないが、生涯で悪事を働いて逃げることなどないだろうから、別に走れなくとも何の不都合もないし、歩ければ動ければいいから是が非でも欲しいという訳ではない。こんなもの。

 足を切断した11才の頃なら、う〜んか。

 補助金が利いてタダという訳では絶対ないだろうから、こんな数百万もする高価なもの、障害者だけ購入しなさいというのは頂けない。健常者であればタダでしょと言いたい。

 ちなみに移植手術はいくら掛かるんだろう。数千万か?いや、数百万くらいだろう。手首の移植手術を受けた患者の画像をみたことがあるが、不自然に肌の色が違って縫い目があって、まるでフランケンシュタインの手みたいだったな。

 

 俺が今使っている義足は下腿PTB式と言って、義足では一番安くて18万円くらいだ。今期のドラマ、「パーフェクトワールド」に出てくるライナー式義足は、装着者は大腿義足のようだが、下腿義足でも30万もする。動き回るのなら密着性が高いライナー式の方が有利だ。PTB式はとにかく緩み易いから、吊っている皮ベルトを初中、締める必要がある。義足屋の話に拠ると、ライナー式は断端の状態で合わない者もいるとのこと。それと、医者がその下肢欠損障害者の仕事とか日常生活とかに必要性を認めなければ補助金は出ない。

 公的補助は九割で一割は自己負担になる。俺の場合だったら、18000円くらいだ。これくらいだったら、家計にそう影響はない。この二種類の義足以外に補助金は出ない。

 

「身体の障害は現時点では障害かもしれないけれど、10年後には障害でなくなるかもしれない」

 この言葉を何の違和感もなく受け入れられるとしたら、40年前のテレビドラマ、「バイオ二ック・ジェミー」のような足になれたら認める。どうしてって、バイオニック移植手術で肉体に同化していて外れないし、手術しないと外せない。寝るときも風呂に入るときも、あのときも、付いたままの状態だ。生身の足を外そうと思ったら叩き切るしかないが、切ったらもうくっつかない。切らないと外せないならそれは生身の足だ。認める。

 

 どんなにテクノロジーが進んでも血管や神経や腱を義足と繋ぐことが出来ないなら、それは肉体の一部ではなく、あくまでも装着物ではないのか?

 同じ装着物なら、考え方としたら、小型のジェットエンジンとカーボンファイバー製の翼で自由に空を飛べるスーツ、「ジェットマン」と同ら変わりないんじゃないの?

 この「ジェットマン」を背負った人を超人とは言わないだろう。それと同じで、ロボット義足を装着した人を健常者とは言わない。装着物を付けた状態で10年後には障害でなくなるかもしれない、とか言われても隻脚の俺は絶対納得できない。今のままで俺は十分満足している。下肢欠損障害者になって半世紀、今更、ロボット義足もくそもない。心を惑わす情報は垂れ流さないで欲しい。

 

 競技用バネ義足、俺は兎の足と呼んでいるが、これで健常者の百メートル記録を破れたとして、果たして公正だろうか?

 金に糸目をつけないなら、アスリートのドーピングは禁止なのに、どうして競技用義足には金額・材質の規制がないの、イコールコンディションではないんじゃないの?と言いたい。競技用義足は三十万するライナー式の二倍くらいする。勿論、補助金対象外、自腹だ。有名義足アスリートだったらスボンサー払い。コンディションをフェアにするなら、健常者が同金額する750バイクでトラックを走っても、ウサギの足装着者は反則だと文句は言えない筈だ。

 

 そんなに素晴らしいロボット義足なら、こいつを付けている奴と一度空手で対戦してみたい。こういう日がくることを想定して、俺は毎日百回やって腹筋だけは鍛えている。ある程度の突き、蹴りには耐えられる筈だ。生身の足にはない義足の弱点はその付け根だ。その部分を攻撃されると折れたと錯覚するくらいの激痛が襲う。ただ、対戦相手は左足が義足でないと拙い。義足では蹴れない。ロボット義足で蹴りが出せるのなら俺の負けは決定だが。

 

 俺は隻脚になって人生が180度変わった。最低限動けて歩くことは出来たが、走れなかったし、曲がらなかったし、水に浸けられなかったし、一日中付けておくことができなかったし、擦過傷の傷に年中悩まされた。どう足掻いても障害者手帳等級四級の障害者だった。将来の夢のほとんどを諦めざるを得なかった。

 一本足の自分の姿を見て、中学高校の部活も、野球をやりたかったが、諦めた。自分の足で走りたいとか言っているが、無いものは無い。痛いものは痛い。人生諦めも肝心だ。

 いくら優れていたとしても、そんな装着物を付けてまで、お情けを受けてまでやりたいとは思わなかったし、やりたい奴の気持ちが分からない。やりたかったら静かにやってくれないかな、と願いたい。

 俺は義足だが○○ができたとか、喧伝しないで欲しい。ネット社会の今、知りたくなくても勝手に目に飛び込んできて心がざわついてしまう。

 

 仮定して検証してみたい。もし10年後、ロボット義足が一般化して隻脚の誰もがその恩恵を受けられる時代が来たとしよう。

「障害でなくなる」のだったら健常者と言って良いんだよな。だったらそれを国は認めてくれるのか?警察官、海上保安官、自衛官になれるのか?

 警察官だったら犯罪者と対せねばならない。走って追うことはできても、相手も馬鹿ではないからその警察官が堂々とロボット義足を晒していたら、そこを攻撃されるぞ。外して捨てられるぞ。それに切断した断端が痛みに脆いという弱点は解消できたのか?

 海上保安官、自衛官だったら寝込みを襲われるかもしれない。ロボット義足は生身の足の如く、四六時中、付けておくことができるのか?

 

 長々と論を進めてきたが、何を叫びたかったか、ここではっきりしておきたい。

 下肢欠損障害者が弱者と規定されている現社会では様々な恩典がある。それに頼って生きている下肢欠損障害者も居ることを義足エンジニアは失念しているのではないか。

 走りたかったら勝手に走れば良い。今更、ロボット義足を装着したら障害者ではなくなりますよ、とか諭されたら、障害者手帳は返納しなければならない。所得税減免も自動車税減免も公共輸送機関の半額も公共物の入場割引も無くなる。

 何よりも痛いのは、厚労省は下肢欠損障害者に障害年金を支給している。大概二級だから、年間77万円が不支給になる。些細な金額でも、無くなると首吊って死なねばならない下肢欠損障害者も出てくるのではないか。

 知的障碍者、精神障害者、内部障害者は障害を障害で無くしてくれるテクノロジーはまだ見当たらないから障害年金は安泰だ。下肢欠損障害者だけ割を食うことになる。

 それと障害者雇用促進法の庇護の対象者でも無くなる可能性がある。これも痛い。どんな肉体労働を強いられても事業主に文句言えなくなる。

 でも日本は自由民主社会なんだから、ロボット義足が一般化しても、下肢欠損者が義足を付けずに生活する自由はあるよな。

 怖いのは、障害年金を貰っている下肢欠損者が、痛々しそうに弱々しそうに惨めったらしく杖、または車椅子姿で街に居たら、世間の人にこう後ろ指を差される時代が来るのかもしれないということだ。

 ――ねぇ見てあの人、わざとらしく杖で歩いてるよ。もしかして、障害年金貰っているのかしら。ロボット義足付けたら日常生活に全く不自由しないのにね。

 その代わり、隠れてロボット義足を使っていたら、傷害年金は没収だ。

 

 参考;歩行のあらゆる工程を演算処理して、膝の振り出し速度や、磁性流体のコントロールができるというもの。人工知能が内蔵されている。5年保証付き3.560.000 円。因みに俺が所有している。ランサーエボリューションⅧMRは10年十万キロ保証がついて、消費税抜き価格、3.398.000円。エボより高いなんてある意味、詐欺。早く走りたかったら、俺なら、自己負担18.000の義足でエボに乗って300キロ出す。

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2021年5月17日修正