嫁のお目当ては仲見世商店街の探索だ。海岸沿いの参道に平行して仲見世通りが広がる。規模的には去年の盆休みに行った伊勢のおかげ横丁と変わらないが、驚くのはもみじ饅頭本舗の何と多いこと。よくこれだけの店が共存していけるものだ。

 ぷ~んと海の香ばしい匂い。そう、もみじ饅頭に並ぶもうひとつの広島名物、焼き牡蠣だ。3個買ったら皿に盛ってくれた。店のテーブルについてご馳走に与る。
 う、旨い!
  他にも、これでもかと旨い物の店が軒を連ね、病気で食えない俺には誘惑通りと化した。
「ソフトクリームくらいならいいやろ」と嫁。
「そうやな」

 

 ソフトクリームをそれぞれ手に持って宮島ターミナル前の公園で一休み。これでゴールデンウィークの前半の三連休は終わりだ。隣のベンチでは女性の二人連れがアイススイーツを頬張りながら寛いでいる。日常を過ごす土地から遠く離れれば離れるほど何でもない公園でこうしてぼ〜っと過ごす時間の何と贅沢なことか。身に染みて分かる。

 ここから小倉までは250キロ、高速で約3時間か。明日は小倉でゆっくりしてPCでも打ちながら、昼飯は関門橋下の若松屋で絶品おでんでも味わうとするか。

 夕方、息子が学校から帰って来た。嫁は直ぐにでも高松の実家に向かって出たいようで、早く出ようよと煩い。今日は平日だから高速の千円は効かない。高松まで約6時間掛かるから、今出ても高松中央インターを出るときは0時過ぎて祭日割引の千円は適応になるが、もうちょっと自宅でゆっくりしていたかった俺は、「馬鹿かおめぇは。今日は平日で千円が効かんのじゃ」
「ほんとやね。お金が勿体ないところやった」

 馬鹿な嫁は俺の言うことを鵜呑みにする。そのくせ、俺も退屈になって9時過ぎには小倉南インターのゲートを潜ってしまった。何で?と能天気な嫁の突っ込みはなし。

 

 夜中の2時頃高松に着いた。高齢の嫁のお袋さんには夜更かしさせて申し訳なかった。今回は実家に二泊の予定だ。

 お袋さんはいとこが仙台に居り、東日本大震災の罹災を心配していたらしく、このゴールデンウィークを利用して義弟が独り車で訪ねることになり、俺らが着いた日の朝出かけて行った。七人乗りのイプサムに乗って行ったため、実家で何処か出かけるとしたら俺のデリカを使うしかない。

 足の悪いお袋さんが乗り込めるか心配だったが、小さな折り畳み椅子を使って何とか乗り降りができた。小学校一年生の義理の甥はデリカの広い車内で息子と燥げるので大喜びだ。

 後半の三連休、一日目はお袋さんの提案で近場の国営讃岐まんのう公園にドライブ。そこは行ってびっくり、弘法大師空海が修築した四国最大の溜池・満濃池に接した、滝有り山有り林有り、四季折々の花が咲き乱れる大花壇有りの広大な国営の公園だった。障害者手帳を持つ俺と嫁とお袋さんは無料だ。

 

 ゲートでお袋さん用の車椅子を貸して貰ってのんびりと散策に出発。園内に入ってすぐ目を見張ったのが落差9メートルの巨大な人口滝、昇竜の滝だ。満濃池に伝わる竜神伝説から滝を昇る竜をイメージしたらしい。

 休憩を兼ねて最初に立ち寄ったのはフワフワドーム、跳んだり跳ねたり色々な遊び方ができる大型遊具で、ふわふわと雲の上を歩くような不思議な感覚を味わうことができ、甥が大喜びだ。小学生以下限定で息子は俺らと休憩所で寛いだ。

 ちょっと歩くと広大な芝生の広場に出た。みな思い思いの遊びに興じている。この広場は八つのお椀型の小山に囲まれていて、人の背丈ほどもある大きなボールを小山のてっぺんから転がして遊んでいる。甥は興味を引かれたようでボールが空くのを待って息子と遊び出した。小山の下には小さな子供もいたので、当たらないように見守ってやった。

  雨が本降りになってきた。今日はもう引き揚げだ。満濃池公園内の引き返す小道沿いの花壇にチューリップが見事に咲き誇っている。

 マンションに戻って、さて明日はどうしようかと思案していたところに、お袋さんが、「明日もどこか行きますか?」
「しまなみ海道の耕三寺に行ってみますか」と俺。

 

 俺は親父が1月に亡くなって最初のゴールデンウィーク、この四国に来て、10年ちょっと前、親父と行った耕三寺が懐かしく思い思い起こされた。高松から生口島まで約200キロ、高松道から松山道、そしてしまなみ海道に入るつもりだ。小倉から猪町までの距離に匹敵する。足の悪いお袋さんを乗り込ませるために昨日の椅子をそのまま使う。

 1000円高速最後のゴールデンウィーク、嫌な予感がしていたが、嵌まってしまった。地獄の渋滞だ。おまけにナビも調子が悪い。追突されてから今まで不具合がなく安心していたのたが…固まって動かなくなった。またDVDを挿入して画面を変えて何とか動くようにした。途中、SAで一度だけ休憩をとって渋滞に耐えた。

 

 俺ら家族は年間多くて三度高松の実家に行く。関西に行った帰りなら、行きは神戸淡路鳴門自動車道だが、高松からの帰りに俺はいつも悩む。夜帰るならどうせ景色が見えないからどのルートをとっても一緒だが、昼頃帰途に就くならしまなみ海道を通ってみたいといつも思うのだが二の足を踏んでしまう。

 ナビでルートを自宅にとると瀬戸中央自動車道しか示さない。しまなみ海道が数十キロ遠回りなだけだが、今治と尾道で一般道路に出なければいけないのがたまに傷だ。この二ヵ所はいつまで経っても高速に繋がらない。

 

 しまなみ海道に入っても渋滞は相変わらずだった。できた当時は橋を渡って一旦島に下り、一般道を島の反対側までぐるっと回ってまた橋に上がらなければならなかったが、今は全線繋がっている。今走っている道路は二車線なのにどうして渋滞が緩和されないのか不思議だったが、分かった。しまなみは二車線と一車線が交互にやってくる。これがこのゴールデンウィークの渋滞の原因だ。どうせなら一車線のままのほうがよほどスムーズに流れる。

 

 生口島は小さな島だ。観光の目玉と言ったら耕三寺だけだが、今年は天気に恵まれた上に千円高速の恩恵か、まさかこれほどの混雑とは…予想が狂った。親父と行ったときは生憎の雨でそう人出はなかった。車もすぐ停められたが今日は満車だ。さてどうするか、あんまり離れた駐車場だったらお袋さんが辛い。

 耕三寺の門前町を二度通り過ぎて、次に右に曲がったら臨時駐車場が設置されていた。ちょっと歩かなければならないが、お袋さんは大丈夫だと言ってくれた。

 耕三寺は昭和初期から建立が開始された新しい寺だ。開祖は金本耕三、個人の財力だけで始めた。東の日光に対して西の日光と異名をとる。日本各地の歴史的建造物を模した極彩色の堂塔は見る者の目を奪う。

 俺は親父と行くまで耕三寺の名前だけは何となく覚えていたが、それがどんな寺か、どこにあるかなど全く知らなかった。
門の手前に行列のできたソフトクリーム屋があった。この陽気だったら誰でもつい引き込まれてしまう。結構旨かった。

 ここの拝観料は高い。1200円だ。親父と来たときも思った。身障者割引を使っても半額までならない。境内は三段の丘になっていて階段が伸びる。お袋さんには無理だ。受付で駄目元で訊いたらちゃんと車椅子が用意されてあった。ありがたい。遠回りにはなるが、スロープが境内の縁に巡らされてあった。

 

 讃岐まんのう公園昇竜の滝↓

 

 巨大ボール転がし↓

 

 

 まんのう公園の花壇↓

 

 高松を後にして↓

 2011/6/18(土) 午後 6:26作成

 2019年3月11日・2022年8月13日修正