敵の敵は味方、などという言葉がある。
キシリアはザビ家の一員である。だがシャアはそれをいったん脇
に置くつもりなのだとキシリアは考えた。ギレンとドズルを倒す
ため、とりあえず、キシリアに与するということだ。いつ裏切る
か、わからぬ男だが、シャアは持っていて損のないカードである。
主導権は自分が持っている、と。キシリアはシャアに「ザビ家打
倒をあきらめ」、自分に協力すると誓約させようとしているのだ。
これに対してシャアは恭順の姿勢で応じる。
キャスバルではなくシャアが為そうとすることをキシリアは問う
たが、実際のところ、彼女の目の前にいるのは「ジオン・ダイク
ンの遺児」以外の何者でもなかった。
キシリアは終わってもいない戦争の後をすでに考えていた。戦後
いかにして父や兄弟を排除していくかを思うとき、ジオン・ダイ
クンの遺児を擁する意味は大きかった。
キシリアはダイクンの子を飼おうとしたのだ。
獅子を飼う危うさを、自分ならば逃れうる──そのように考えた
ものだろう。
となれば、キシリアとしては一言、この新しいナンバー2にこう
告げるだけでよい。
「ギレン総帥をわたしは好かぬ……それだけは覚えていておくれ
」
シャアはこれに対し「新しき時代のために」と呟きを返す。
ニュータイプの時代の変革のために、という意味であったか。た
だ、このような言い方をキシリアは好まなかったようだ。
「政治は難しいのだ」
差し出がましさを窘める。
「ギレンはア・バオア・クーで指揮を執る」
はい、と応じたシャアへ、彼女は語を継いで「その後のことはす
べて、連邦に勝ってからのこと」という。宜しいか、と念を押し
てさえいる。
シャアはキシリアのア・バオア・クー脱出を、援護に向かおうと
していた兵より聞く。
ギレンによるデギン謀殺の事実を知ったキシリアは、これを口実
に指令室内でギレンを射殺、指揮権を掌握していた。しかし、ア
・バオア・クーでの敗色が濃いと見たキシリアは、グラナダへ逃
れようと考える。グラナダに温存した戦力と、公国本土を連携さ
せれば、戦争の継続は可能という見方である。
シャアはバズーカを手にキシリアのもとへ向かった。発進するザ
ンジバルの艦橋にキシリアの姿を認めたシャアは、敬礼を送る。
「ガルマ、私の手向けだ。姉上と仲良く暮らすがよい」
艦橋の正面でバズーカを構えるノーマルスーツはキシリアの目に
も留まった。シャアか、とキシリアは驚きの声を洩らす。復讐の
意図がないとシャアが断言していたからではない。ジオングの識
別信号が消失した段階で、キシリアはシャアが「白いヤツ」によ
って死に至らしめられたと考えていたのである。
シャアの放ったバズーカの弾丸は、艦橋の指揮官席に座るキシリ
アの頭部を正確に射貫いた。艦橋は損傷したものの、ザンジバル
は上昇を続けた。そのザンジバルを沈めたのは、要塞から出た直
後に喰らった、連邦軍の艦艇からの砲撃だった。ザンジバルは港
の施設を巻き込み爆発する。
ア・バオア・クー陥落とザビ家の崩壊を受け、共和制へ移行した
公国側(ジオン共和国臨時政府)は、連邦政府をサイド6を通じ
て終戦協定締結を申し入れた。翌0080年1月1日、共和制へ
移行した公国側と地球連邦政府との間で終戦協定が結ばれる。