「ブラザー工業」の創立者・安井正義の思惑通りにいっていれば、
現在の社名は「ブラザー(兄弟)」ではなく、「シスター(姉妹)」
になっていたかもしれない。
名古屋の自宅で家業の「安井ミシン商会」を手伝っていた安井は、
父の死去により、21歳で家業を継ぐことになる。
これを機に大正14年、「安井ミシン兄弟商会」と改称したのは、
6男4女の兄弟姉妹の力を合わせてやっていこうという決意の表れ
だった。
かねてよりミシンの国産化の志を抱いていた安井は、米国の「シン
ガー」など輸入ミシンの修理の仕事をしながら、その開発に取り組
み、3年後の昭和2年に第1号機が完成する。
このミシンの販売を開始したのが昭和3年だったことから、当初
は「昭三式環縫いミシン」という名にしたが、それまでの修理業
で横文字のミシン名ばかりを見慣れていた安井には、この漢字名
がどうしてもしっくりこない。
そこで兄弟で知恵を絞って考えついた商標が「シスター」だった。
「シスター」は「シンガー」にどことなく語呂が似ている。
ミシンを扱うのが女性であることを考えるとイメージも合う。
そのうえ、安井ミシン兄弟商会の「兄弟」には4人の姉妹も含まれ
ていたのだから、いよいよもって文句なしのブランド名である。
ところが、いざ調べてみると、シスターはすでに商標登録されてい
て、使えないことがわかった。
しかたなく兄弟は再び頭をひねり、今度は自分の会社名の「兄弟」
から「ブラザー」をブランド名にすることにしたのである。
同社は昭和36年にタイプライターの生産を開始。
現在はミシンのトップメーカーの技術を活かして、アパレル機器や
ファクシミリ、デジタル複合機、プリンター、通信カラオケなど
幅広い分野に進出している。