・「ソロモンの偽証」宮部みゆき第Ⅰ部事件を読んで | ぐーすけとりきのブログ

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まあ、この人の作品は、おおまかに言うと歴史
物、ファンタジー、現代小説と分けられるのだが、
本作は、現代小説の部位に入るのだろう。


ただ、これまでの現代物の主人公が、大人だった
のに対し、本作は中学生が主人公扱いだ。


クリスマスの夜、学校の裏門で、屋上から飛び降り
た(あるいは投げ落とされた)柏木卓也の死体が
翌朝発見される。


発見者は野田健一。


他殺と見るには、これといった証拠がないため、
この事件は自殺として扱われた。


すると、告発状が、本作の狂言回しの藤野涼子宅、
校長先生宛、2年A組の森内恵美子宅に届けられ
る。


柏木は大出俊次ら不良三人組に殺されたというものだ。


彼の死を悼む声は小さかった。


けど、噂は強力で、


気が付けばあたしたちはみんな


それに加担していた。


そして、その悪意のある風評は、


目撃者を名乗る


匿名の告発状を産み落とした。


真相は雪が覆い隠した──


死体は何を目論んだのか!?


告発状を出したのは三宅樹理。


思春期によくあることだが、樹理はニキビの
多さに悩んでいた。


大出らに靴で額を蹴られたこともあった。


復讐しようとしたのだ。


しかし、告発状にはあやふやなところもあり
津崎校長は事件として扱わなかった。


ところが、森内教諭の郵便ポストから、彼女宛
の告発状が盗みとられ、引き破った告発状を
発見したと偽ってマスコミに情報が渡った。


森内教諭のポストから告発状を盗み取り、
「一市民として放ってはいけないと思った」
とマスコミに情報を流したのはマンションの
隣人垣内美奈絵だった。


これと、同時進行的に城東中学校の2年A組、B組
藤野家、野田家、柏木家、教職員、不良三人組、
マスコミのHBS、城東署の少年課・刑事課と
いったところで、話が進んでいき、ぎゅ~っと
収斂していくかのように細い枝が太い枝になってい
き、それがやがて大きな一本の大きな木になって
終末を迎える──という宮部氏のお得意な筆致に
なっている。


登場人物が多すぎて、相関関係図がなければ、
たぶん、ぐーすけも「もう、やーめた」と投げ
捨てていたかもしれない。


読むのに相関関係図はとてもありがたかった。


とくに大出のオヤジの親としての所業も面白い。


大出勝は「大出集成材」という材木加工会社の
社長だが、これは親から譲り受けた家業で、俊次
もゆくゆくはその跡を取るのだという。


将来が決まっているのだから、何も無理にギリ
ギリ勉強なんぞさせることはない。


従って、一人息子が授業をサボりまくり、行事
にも参加せず、たまりかねた学校が父親を呼び
出すと、大出勝はその度に張り切って職員室へ
飛んでいき、教師の言うことなど聞きもせず、
学校なんざ行かなくっても自分は立派に社長と
して会社を切り回せるだけの度量のある人間に
なったし、学校という狭い世界しか知らない頭
でっかちの先生なんかに、世の中の理を教わる
必要もなければ、教えてもらわねばならない
義理もない、うちの倅のことなら放っておいて
くれと怒鳴りまくって、意気揚々と引き上げて
ゆくのだそうだ。


柏木卓也の死後、学校側はカウンセリングを
行った。


野田健一は向坂行夫にこう語った。


「そんなに緊張するような雰囲気ではなかったよ」


「尾崎先生(養護教諭)がいるからさ。
お茶とか出してくれるし」


「ふ~ん」


「普通にしてれば平気だよ。
なにか悩んでいるっていうんじゃなければ」


「勉強ができないっとこと相談しちゃダメかなぁ」


「いいんじゃない?
ついでに、モリウチがえこひいきするってこと
も言っちゃえば」


「健ちゃん、言ったの?」


「言うわけないじゃない」


「じゃ、ズルいよ。オレも言わない」


個人面談なんかで、ホントのこと言う奴なんか
いるもんか。


僕は、学校は世渡りを学ぶ場だと思ってます。


自分がどの程度の人間で、どの程度まで行かれ
そうなのかを図る場です。


先生たちは、先生たちの物差しでそれを計って
僕らにそれを納得させようとします。


だけど、納得させられちゃったら、大抵は負け犬
にされます。


先生たちが「勝ち組」に選びたがる生徒は、
とてもとても数が少ないから。


そんなこと、誰が言うもんか。

 


狂言回しの藤野涼子は、図書館で若い男に絡まれ
ていたところを野田健一に助けてもらう。


「野田君の家ってどっち?」

それはつまり、方向が同じならばこのまま一緒に
歩こう──という誘いである。


が、経験が足りず才覚もない健一は、バカ正直に
こう答えた。


「ボクんちは反対方向だ」


涼子はがっかりした。


それが表情に出た。


経験が足りず才覚もない健一は、バカ正直ではあ
るがバカではない。


「だけど一緒に行くよ。なにか心配だから」


健一は、涼子とはあまり付き合いのなかったこと
を述懐する。


「藤野さん、優等生だからね。
僕らなんかとは、かかわりがなくて当たり前
だよ」


「そういうのって、ホントはつまんない」

 

「え?」


「たくさんの友達と付き合ったほうが、本当は
面白いに決まってるじゃない?


だけどなかなかそうはいかないんだよね。


どうしてなのかわかんないけど」


後半の言葉は嘘だった。


涼子はどうしてなのか知っていた。


野田健一も知っているはずだ。


だから、今度は彼が黙ってしまった。


同級生や級友だからといって、一切の隔てがない
わけではない。


現実は逆だ。


成績。容姿。運動能力。


適切な場面でみんなにウケることを言えるかどうか。


性格の明るさと暗さ。


ありとあらゆる物差しで、生徒たちは互いを計り
計られる。


そして付き合う相手を決める。


先生たちは、人間は平等につくられているというけ
れど、そんなのは嘘だ。


大人の社会に区別や格差があるように、学校のなか
にもそれはある。


子供は誰でもそれを知っている。理解している。
認めている。


そうでなければ、生きていかれない。

 


三宅樹理が書いた告発状をポストに入れる手伝い
をした、浅井松子が死んだ。


自動車事故であった。


他殺か自殺かはわからない。


いつも樹理と一緒に仲良くしてた二人組。


事実は、樹理が松子を子分のようにあつかっていた
のだった。


松子は太っていた。


ダイエットもした。


しかし、効果は得られなかった。


「そういう家系なのよ」とお母さんに慰められた。


体型のことでも大出らにからかわれた。


でも、「いいんだ、あたしはデブだから、関係ないや」
と思うと、気分が楽になり、いじめも気にならなく
なった。


しかし、三宅樹理は違った。


ニキビのことでいじめられた体験は、恐怖から呪い
復讐へと変貌していった。


マスコミを介在させた樹理は、松子が


「樹理ちゃんと一緒に有楽町まで行って告発状を
ポストに投函した」


というのではないか、と寝てもたってもいられな
かった。


そこで、樹理が松子を殺したのではないか、と
いう噂も流れ始めた。

 


津崎校長も憔悴しきっていた。


外部に向かっては、まだ言い張ることができる。


告発状の差出人はわかりません。


浅井松子さんの事故死と告発状は無関係です。


それだけは死守しなくてはならない最後の砦だ。


だが学校の中では、津崎はその気力を失ってし
まった。


もう、誰も津崎を信じてはくれない。


私は無力だ──そう思うだけだった。


どこで間違ったのか、何が失策だったのだ、何度
となく考えてみた。


柏木卓也が死んだときか。


最初に告発状が来たときか。


少年課の佐々木刑事と相談し、生徒たちへの聞き
取り調査を行ったときか。


HBSの茂木記者が連絡してきたときだったか。


彼の取材に激怒した大出勝が、校長室に乗り込んで
きて大暴れしたときだったのか。


わからない。


わかっているのは、時を巻き戻せないということ
だけだ。


失われた命は戻らないということだけだ。

 


HBSの茂木記者は藤野涼子の家にも訪ねて
いき、留守番をしていた涼子と話をした。


「もうたくさん。


警察も学校も当てにならない?


だからなんだってのよ。


だから僕たちマスコミを信じなさいって?


そういえばいいの?


だから僕らには何でも打ち明けなさい、


すべての情報をよこしなさい、


君たちの悪いようにはしないからって?」


気が抜けるくらい優しい声で茂木記者が
問い返してきた。


「僕の敵は何だと思う?


僕の敵は、君たちの敵だよ」


「違います」ときっぱり言えた。


「違わないよ。君はわかってないんだ。
まだ子供だから」


「わかってないなら、わかるようになれば
いいんでしょう?」


純粋な驚きに、茂木の表情が揺れた。


「どうするつもりだね?」


ついさっきまでの頭と心の混乱が嘘のようだ
った。


あれは、この瞬間のために必要な武者震いだ
ったのだ。


準備を終えた今、涼子の言うべき言葉は決ま
っていた。


「自分たちで真実を見つけ出します」


ことごとく無力な大人たちには、もう、


任せてはおけない!


一人の生徒が立ち上がった。