●「格闘者の血」~「惣角流浪」・今野敏レヴュー・1 | ぐーすけとりきのブログ

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これは、大東流合気柔術の祖である、武田惣角(そうかく)
の青春を描いたものだ。


明治の世となり、武に生きる時代は終わったというのに、
それでも尚、武にしか生きられない惣角の、無骨で不器用
な生き様。


まず、惣角は剣術から修行を始めた。


16歳の惣角は、まだ、合いの手を知らず、ただただ
力技を毎日毎日鍛錬するのみであった。


どんな日も鍛錬を怠ることはなかった。


単に自分にそれを課しているというわけではない。


そうせずにはいられないのだ。


一日練習を怠ると、それだけ腕が衰えるような気がする。


常に強くなることだけを考えている惣角には、それは
耐え難いことだった。


ひとりでやる稽古の内容は、毎日同じではなかった。


木刀を振る回数を決めてはいないのだ。


一度振り始めると、たちまち夢中になった。


手に木刀がしっくりこないときなど、その感覚が


戻るまでいつまでも振り続けた。


逆に、気持ちよく振れたときは、すぐに稽古を
やめてしまうのだった。


木刀が空気を切る音を自分なりに確かめている。


いい音がしたときは、その感覚を大切にした。


16歳で、山にはびこっていた山賊を3人
ぶった切った。「自分は、武術では人にひけを
とらない」という自信があった。


惣角は、勉強家で算術にも長けた兄を亡くしたため
父の惣吉は、子の惣角を神主にしようとした。


白河の都々古別(つつこわけ)神社にいる、
元会津藩家老、保科近憲に神職の修行のため
行かせようとした。


保科近憲…かつての西郷頼母だ。頼母は、戊辰
戦争が終わった明治2年5月に西郷姓を保科に
改めた。


惣吉は、惣角を保科近憲の下に置くと、帰って行った。


保科近憲は、惣吉がいなくなると、態度をごろっと
かえた。


「惣角、おまえは、剣術が強いそうだな…?」


「はい、養気館で渋谷先生に小野派一刀流を学び、
その後、榊原健吉先生に直心影流を学びました」


「ちち、惣吉からも、剣術、棒術を学んだそうだな?」


「はい、それに武田家に代々伝わる体術も学んでおります」


「うん。存じておる…。相撲も強いらしいな…」


「はい」


惣角は、臆面もなくそう返事をした。


彼は、こと武術に関しては自信があった。


会津藩の力士団のひとりである、弥兵衛と組手を
行うことになった。


「神主さま。こやつどうなっても知りませんよ」


「武田の若虎だ。油断すると痛いめにあうぞ」


      ★      ★     ★


弥兵衛は、すいと腰を入れる。


惣角の身体が浮いた。


次の瞬間、天地が入れ代わり、背と腰にしたたか
な衝撃を受けた。


息が止まった。


弥兵衛は、下手を打ち、惣角は見事に投げられた
のだ。


惣角は、苦しげに喘いでいた。


「武田の若虎……?」


弥平が言った。


「神主さま。これはただの猫の子ですよ」


しきりに悔しがる惣角を部屋に呼んだ保科近憲
は言った。


「負けるのが悔しいか?」


「悔しいです」


「惣角。あの弥兵衛に勝ちたいか?」


「もちろんです」


「では、私が勝てるようにしてやろう」


数日が過ぎた。


稽古は激しい厳しいものだと思っていたが
立ち居振る舞いの稽古ばかりだった。


惣角は耐えられなくなった。


「こんなことをして何になるのです?
これであの弥兵衛が倒せるようになると
いうのですか?」


「惣吉が手を焼くのももっともだな…。
ならば、試してみるか…」


「試す…」


「私はここにこうして座っている。
この私を組み伏せることはできるか?」


「簡単なことです」


惣角は、言った。彼の自信がそう言わせた。


「やってみなさい」


     ★     ★      ★


近憲は、正座したまま動いたように見えた。


惣角は、ころりと投げ出されていた。


近憲が脇で正座している。


何が起きたのか惣角にはわからない。


近憲は、膝で移動しながら、惣角の片手を取り、
手首を決めて投げたのだ。


その手の取り方が絶妙でいつ投げられたのか
わからなかった。


惣角は、跳ね起きた。


再びかかっていく。


いくら飛びついても同じことだった。


何度も投げられているうちに惣角は馬鹿らしくなった。


      ★     ★     ★


この合気術が、実戦で通用するものかは、不透明である。


前に、テレビで、各スポーツジャンルの第一人者が
集まって相撲を取るといった、番組があった。


合気の達人と紹介された壮年の方が、出場していた。


煽りのビデオでは、プロテクターをつけた会員たちを
前にして、ひとりまたひとりと、挑みかかってくる者
を、ひらりひらりと投げ飛ばしている模様が紹介され
た。


相手は菊田早苗。グラップラーだ。


立会が始まった。


達人は、胸の前に手を上げて、くるくる回したようだった。


菊田が真正面から向かっていくと、案の定というか
番狂わせというか、達人は土俵を押し切られていた。


これは、イレギュラーなのか、それとも合気が
古典芸能だからか、僕にはわからなかった。


       ★     ★     ★


また、アメリカ大統領、たしかジョンソン氏だと思ったが。


塩田剛三先生の合気道場へ立ち寄ってみた時に、SPに
手合わせを行わせようとしたことがあった。


そのころの白黒の映像が残っていた。


見てみると、正座した塩田先生の両腕をつかんだSPが手を
持ち上げようとすると、どうしても持ち上がらない。
何度も何度も、前にお辞儀して、結局立つことができ
なかった。


総合格闘技ではどうなるのだろうかなぁと考えて
みたりする。