酢は塩と並び、人類がつくった最古の調味料といわれ、
日本には紀元前3世紀ごろに中国から伝わったとされる。
ミツカンは今から約200年前に世界で初めて
酒粕から醸造酢を作ることに成功。
その後「酢といえばミツカン」と呼ばれるまでになったが、
さらに消費者のニーズを追求。
その結果、昭和39年に鍋物には欠かせない調味料
「味ぽん」を開発する。
画期的商品の隠し味とは?
それでは本題のはじまりはじまり。
江戸中期、現在の愛知県半田市で
中野又左衛門(またざえもん)は酒造業を営んでいた。
御上のお達しで、酒造りの規制が撤廃され
どこでも酒がつくれるようになった。
又左衛門は思った。
「規制に守られていた半田の酒もこれからは厳しくなる
おまけに酒粕も大量に出て処理に困っている…
なんとかせねば」
「となり町で酒粕からミリンをつくったと聞いた
酒粕からほかに何かできないだろうか?」
「万葉の昔から酢というものがある…
大阪では酢づくりが盛んだというが
米から作るわけだから酒粕からでも
つくれるかもしれぬ」
酒粕から酢をつくるには
粕のアルコール分を取り除き
水と種酢を加え酢酸発酵させる。
酒粕は3年くらい経たものがいい味がでるという。
試行錯誤の末、数年後ようやく完成した。
又左衛門の酢は地元で大人気となった。
「酢は意外に需要があるな」
奉公人から
江戸に酢を使った寿司という食物がある
ということを聞くと、さっそく行ってみた。
江戸に寿司屋ができたのは元禄の前(1687年ころ)、
これは熟(な)れ寿司で魚介だけを食べるものだった。
1752年飯とともに食べる半熟れ寿司が登場。
江戸中に広まっていった。
江戸ずしを食べた又左衛門はこう考えた。
「この酢は大坂の和泉酢だ。
米酢は時間と手間がかかるためどえりゃあ高くなる
うちの粕酢なら風味もあり早く安くできる。
和泉酢に勝てる!」
粕酢は酢飯にすると、かすかに山吹色がつき
風味もあるため、一躍人気となった。
時代は下がり、1825年後頃「早寿司」と
呼ばれる現在の握り寿司が登場。
安くて品質の良い粕酢の需要は大いに増した。
2代目の中野又左衛門は本格的な酢造業をはじめ
「酢屋勘次郎」と名乗り、商標も「丸勘」とした。
他の酢屋も「丸勘」を使い出して「丸勘」は
三河の酢屋の代名詞となっていった。
4代目の中野又左衛門は易学に凝ったり、
新しい事業を起こしたりした。
ビールもつくった。
明治17年(1884)、商標登録が必要となった。
「丸勘でいこう」
しかし他の業者が先につけていた。
又左衛門は易学で考えた。
中野家の家紋は○に「三」
「三」は縁起がいい。
○は天下一円、
丸勘をしのぐ「三勘」だ。
「ミツカン」としよう。
(この「三」は酢の命
味・利き・香りをあらわしている。)
激動の時代を乗り越えてきたミツカン酢だったが
戦後安価な合成酢がでまわると醸造酢は売れなくなっていった。
「今までのような方式ではコストがかかる
合理化し新しい生産システムを導入して
よりよい醸造酢を安くつくろう」
昭和20年代、酢は酒屋などで瓶から
漏斗(じょうご)などでつぐ計り売りをしていた。
昭和30年代、全国にスーパーマーケットが登場。
「問屋売りをしていた酢も、これからは個人向けになる。
瓶詰めにしよう」
「スーパーでは消費者が自由にモノを選んでいる
それに応えるため新しい商品も必要だ」
こうして酢のほかに、すし酢、フルーツビネガー、
ぽん酢などが商品化。
ぽん酢の語源は、ヨーロッパの食前酒
「パンチ」や「ポンチ」が戦国時代、日本に伝わり
これを酢の入った調味料にひっかけて
「ポンズ(ぽん酢)と呼ぶようになったのがもとだという。
関西では鍋物を食べるとき
柑橘類としょうゆで味付けする習慣があり「ぽん酢」は
人気となった。
「ぽん酢にしょうゆを加えるとひとつになって便利や」
との消費者の声を聞くと
「よし味付けぽん酢をつくろう」
と決意。
「料亭の味を研究して本物の味にするんだ」
昭和39年味付けぽん酢
略して「味ぽん」登場。
一山越えてまた一山。
味ぽんは、水炊きの習慣のある関西では受けたが
寄せ鍋の濃い味付けの関東ではさっぱり売れなかった。
これを解消するためには、水炊きを関東に
広めることが最重要課題になった。
関東の市場などに、鍋を持ち込んで鍋料理の
デモンストレーションや
デパートやスーパーなどで
水炊きの試食会をくりかえした。
セールスとCM効果で、関東でも
鍋料理に「味ぽん」を使う家庭が増えてきた。
そのうち、消費者が発見した味ぽんの
新しい使用方法も伝わってきた。
「へー、ぽん酢を焼肉に使っている人がいるのか」
「サラダのドレッシングがわりにしている人もいる」
「そうか
いままで我々は鍋料理しか頭になかったが
消費者は自由に発想していたんだ」
「ありがたいことだ
さっそく広告を出し、新しい「味ぽん」
の使い方を広めよう。
これにより消費者からさまざまなアイデアが
寄せられ
冬に多く出た「味ぽん」は
年間を通じて売れる商品に成長した。
「味ぽん」は消費者が
育ててくれた商品なのだ。