▼なぜ、冒頭部分を重視するのか
「私が、田中角栄であります!
ご存知のとおり、私には自分のためにすることがいっぱいある!(爆
笑)しかし、そうもいっておれないッ」
「みなさんッ。この前アメリカの新聞がインタビューに来て、
ロッキードは?と聞くから、私は、アメリカ風邪は間もなく治ります。
といっておいたのであります(爆笑)」
「角栄」スピーチのポイントは、この第一声のうまさである。
「ご存知のとおり
私は自分のためにすることがいっぱいある」
「アメリカ風邪はまもなく治ります」
と、聴衆、聞き手が今一番聞きたいと思っていることは
なにかを瞬時、敏感に察知、スピーチの冒頭部分をまず重視すること
で、聴衆、聞き手を引き込んでしまうのだ。
スピーチはこれで半分、成功したも同然である。
第一声の重要性は、会場の緊張をほぐす一方で、以後のスピーチを
自分のペースで進めることが出来るかにかかってくる。
【実例】 私が田中角栄であります!
「私が田中角栄であります
ご存知のとおり、私は自分のためにすることがいっぱいある!(爆笑)
しかし、そうも言っておれないッ。
みなさんッ、東京都は日本人の顔なんです。
田舎ほど自民党の勢力が強い。
日本人の中で、一番、親から面倒を見てもらって、
東京などでいい職場につき、クルマ、テレビ、いいマンションに
恵まれている人が、自民党に一番投票しないッ。
そんなバカなことがああるかッ(笑)。
社会的恩恵を一番受けている人が、自民党に反対するのは
間違っています。
この会場にも新聞記者がいるが、大学出て新聞記者にでもなると、
すぐ自民党はいかんと、こうなる(笑)。
体制に反対の声をあげんと、おかしいのではないかと思っとる!
これは錯覚だねェ。油だらけになって
朝から晩まで働いている諸君は、
自民党に入れてくれるんだ。
なにが大学かと言いたいよ(爆笑)
(昭和56年5月東京都議選応援演説で)
【実例】 アメリカ風邪は治ります
「みなさんッ。
この前、アメリカの新聞がインタビューに来て、「ロッキードは?」
と聞くから、
私は、アメリカ風邪はまもなく治ります、
と言っておいたのであります(爆笑)。
いま、鈴木善幸という人が総理大臣をやっているわねェ。
なるつもりはなかったから、こりゃ本人も驚いた(笑)。
大平(正芳)クンが急死したあと、まァ、私は
彼が2~3年やるはずだったんだから、
大平クンのグループから出したらと提唱したんです。
鈴木クン、伊東(正義)クン、斎藤(邦吉)クンの三人で
決めろやといっておいたら
年の順で鈴木クンに矢が当たってしまたわけなんです。
みなさんッ。
総理大臣というのは、強いリーダーシップなど必要ないんですよ。
ありすぎるとよくないッ。
他人の言うことをよく聞くほうがいいんです(笑)。
でも、あまり聞きすぎてもよくないッ。
そういったことから考えると、
鈴木クンというのはなかなかのもんです(笑)。
新聞には、鈴木クンはじつは田中派だなんて書いてあるねェ。
しかし、これは間違いだ。
じつは、私が鈴木派なんであります(爆笑)」
(昭和56年6月南魚沼越山会青年部大会で)
▼ナニワ節から学んだスピーチ術
田中角栄のスピーチには、演壇などに立ったあと
会場の緊張感と聴衆の期待感を確かめるように、一瞬、
会場を眺め渡したり
天井などに視線を遊ばせて
数秒間の空白をつくったりする時間があった。
固唾を呑む聴衆に向かい
ややあって、「えー、田中角栄でございます」とやる。
どんな第一声が飛んでくるのか、まずその視線を引きつけ、
ややあって「えー、…」とか
「みなさんええですか…」といった具合に入る。
聴衆は、なにやらホッとするところだが、
こんどは間を置かず、やおら迫力満点、笑いたっぷりの
本題に入っていくのである。
このことは、「間」の取り方がうまいということを示している。
田中は、一方で、ナニワ節の「名人」であった。
子供の頃、持ち前の「吃音(きつおん)」を直すために、
節が流暢なナニワ節を口ずさむ努力をしたのである。
こうした抜群の「間」のとり方は、そうしたところから
体得していたようであった。
一方、「間」のとり方は、スピーチの冒頭での他に、
スピーチの途中でとるというのも、また有効だ。
【実例】 角栄ジイさんが来た、逃げろ!
「みなさんッ。
いま、都会では何もわけのわからんうちから
子供を三年保育かなんかにやっている。
まァねェ、私にも孫がおりますが
いま、三年保育に行っているんです。
しかしッ、ほんとは三年保育をやめて
西山町大字坂田(田中の実家がある)に行ったほうがいい。
あそこで子供を裸で放り出しておけば
三年保育が一年保育で立派に育つ。
三年保育なんて、口ばっかり達者になって、
こりゃなんにもなりゃあせんッ。
一昨日か、孫のところへ行ってきたら
「ジイさんが来た。逃げろッ」
なんて言う(爆笑)
私の娘(田中真紀子氏)がどういう教育を孫にしているか
わからんが、これは許しがたきことですよ(哄笑)。
笑いごとではないッ。
いや、笑いのなかに真実があるッ」
(昭和57年7月、越山会婦人部総会で)
田中のスピーチの途中での「間」の取り方は、
「まァねェ」「みなさん」「そうでしょう、みなさんッ」
「まァそのオ」と
巧みに一息入れるところにある。
話の展開がひからびそうになると、くだんの「間」を織り込んで
水を与えるようにして話を引っ張り、
ときに、
「笑いごとではないッ。
いや笑いのなかに真実があるッ」とシメる。
けだし見事というほかはなかった。