木田竜男の趣味は家庭園芸であった、妻の藤子と暇さえあれば
自宅の庭に出て、四季の草花を育てていた。庭には池もあり
その中では金魚も飼っていた。
木田家の庭に異変が生じるようになったのは、隣の一戸建ての
家に日比野幸雄とその妻玲子の二人が引っ越してきてからだった。
日比野家では子供がおらず、家では猫を3匹、放し飼いにして
いた。
その猫が木田の庭に入り込み、丹精込めて作った花壇の草花
を荒らしたり、糞をしたりしはじめたのだ。また、池の金魚も
一匹、二匹と数が減り出し、とうとう一匹もいなくなってしまった。
現場を見たからではないが、これも日比野の猫の仕業に相違ない、
と竜男はおもっていた。
竜男はある日曜日、思い切って隣の日比野の家をたずね、猫の
被害を訴えた。
「お宅の猫がうちの庭に入り込んで花壇を荒らしたり、池の
金魚を食べてしまったりして大変迷惑しているんですよ。
もう少し、しっかり管理していただけませんか」
幸雄は、猫を両手で抱き上げながら、
「うちの猫はしっかり躾(しつけ)をしていますから、決して
そんなことはしませんよ。それはどこかの野良猫の仕業じゃ
ないんですか。ねえミーちゃん、そんなお行儀の悪いことは
しないよね」
と、猫に向かって話しかけた。
竜男も、ここで引き下がるわけにはいかないと言い返した。
「いいや、おたくが引っ越してきてから、こんなことが起こるよ
うになったのですから間違いなく、おたくの飼い猫の仕業です」
しかし幸雄は、猫の背中をゆっくり撫でながら、
「じゃあ、お聞きしますが、あなたはうちの猫がおたくの花壇を
荒らしたり、池の金魚を捕ったりしたのを見たことがあるんですか。
うちの猫は、子供のいない我が家ではわが子同然の扱いをして
いるんです。妙な言い掛かりをつけるんでしたら、こっちにも
考えがありますよ」
「直接、見たことはありません。お子さんがおられなくて寂しい
気持ちもよくわかります。でも、だからといって他人に迷惑を
かけていい、ということにはならないでしょう。もし仮に、
おたくの猫が直接やっていなかったとしても、おたくが猫を
飼っているから今までいなかった野良猫も集まってくるんです。
やはり責任は持ってもらわないと困りますよ。それに私の孫が
うちの時々遊びに来るんですが、実はアレルギーで、猫がいると
大変なことになるんだ。猫の数を減らすなり、家の外に出さない
なりの処置を取っていただけませんか」
しかし、取り付く島もない幸雄であった。
「いつまで話し合っていても、合意をみることはなさそうですね。
お引き取りください」
二人の話し合いは、結局物別れになってしまった。その後も
花壇は荒らされ、再び買ってきた金魚もいなくなっていった。
どうしたらいいのだろうか?