星新一「人民は弱し 官吏は強し」の書評 | ぐーすけとりきのブログ

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星新一さんは、誰でも知っているだろう。

俺は中学校の教科書で始めてお目にかかった。

そのときの国語の先生が、星新一さんに興味を持つようにと

珠玉のショートショート集「ボッコちゃん」をコピーして渡してくれた。

一番初めの短編集ということで、一話一話がよく練られていて

とても面白かった。


ダウンタウンの松ちゃんが、高校耳時代、小説にはまるで関心を示さなかった松ちゃんが

友人の藤井さんに星新一の短編集「ボッコちゃん」を勧めた事があったという。

「この本おもろいで、人生観変わるで」

小説を勧められるままに読んだ藤井さんは

「あの松本が本を呼んで勉強しとる。これはホンマに芸人として一生やっていく目標を定めたんだと、あのときハッキリ思いましたね。


俺が一番面白かったのが、「おーいでてこい」というシュールな短編で

ある日突然地面に大きな穴が空き…、というものでネタをばらすわけにはいかないから

直接手にとって見てほしい。


で「人民は弱し 官吏は強し」である。

これは星新一の、お父さんの星一の半生をえがいたもので

(一の息子が新一というのも端的なネーミングだが)

製薬会社としてアメリカ帰りの星一が成功するところから始まる。


しかし政治的なコネを持たなかったために、役所にいじめられ

検察には起訴され、銀行には暗に取引をするなという通達がだされ、

給料にも遅配がするおそれが出てきたため、星一が会社に万が一のときがあったときのための

生命保険金も解約して支払っていたりした。


社員も給料から資金をつのって新聞に「こんなひどい扱いをうけている」という広告を出したりしたが

次の日の新聞には「星製薬、家宅捜索」とトップ面に検察の情報がリークされ

株式を買う人も、社債を買ってくれる人もなくなってやっていけなくなった。


台湾の最高裁が済んだ後の株主総会では

「愛さるるもの、必ずしも幸福ではありません。虐待されるもの、必ずしも不幸ではありません。虐待されるところにこそ進歩がうまれます。これを契機として、あくまで進歩し、進歩し続けるつもりであります。

 現在の会社は困窮に陥り、活動力をうしなっております。しかし、私は会社の金を投機につかったのではなく、浪費したのでもなく、また事業に失敗したのでもありません

 私は、自分の物質的利益のためには働いてはおりません。事業を始めてから二十年間に会社から得た報酬や配当の金は、すべて会社のために使い、個人として所有するものは、一軒のぼろ家にすぎない。しかしこれも現在では抵当に入れてしまいました。

 私は、ただ、株主はじめ事業関係者すべてに、高水準の利益を与えてみたいとの目的で働いてきました。しかし、官憲はなぜか同情してくれなかった…」

それからかすれた声で、この本のタイトルを言い添えた

「人民は弱し 官吏は強し」と。


星一の破綻は兄貴分を間違えたところにある、という意見がある。台湾総督の後藤新平がいるうちは、羽振りがよかったが、後藤が内地に帰った後は後ろ盾が無くなりジリ貧になってしまったというものだ。

大正の「海賊と呼ばれた男」とよばれるにも匹敵する快男子も官吏にはかなわなかった。