ビアトリクス・ポター作『ピーターラビットのおはなし』の中には、可愛いねずみ達がよく登場します。



イソップ物語の『田舎のねずみ 町のねずみ』によく似たお話や、老仕立て屋さんの針仕事を手伝うねずみ達のお話、子猫を逆に捕まえて料理しようとする夫婦のねずみのお話、お掃除好きのおばさんねずみのお話などなど。



どのお話のねずみも、とても可愛くユーモラスに描かれています。



一方、1979年に、姉と一緒に観に連れて行ってもらった映画『くるみ割り人形』に出てくるねずみ達は、悪役として登場します。子供心にも、ねずみの息子シュヌルルの気持ち悪さを感じたものです。



私は、ねずみのこの二面性を、実体験しました。



私の実家は山の麓にあったため、たくさんの虫や小動物が共存していました。



飼い猫のてんちゃんが、庭から帰って来ると、口に何かをくわえています。見てみると、小さなモグラでした。鼻が長くて、薄ピンクの小さな手袋みたいな可愛い手をしています。可哀想に、こんな事がしょっちゅうありました。(夏のある日などは、ジ~ジ~、とすごい音と共に帰って来ました。獲物は蝉です。)



こんなわんぱくなてんちゃんも、年をとり、私が大学生の時、天へ帰って行きました。



ある日、部屋のソファーに座っていたら、何かが、目の端でチラッと動きました。



そちらを見てみると、一匹のねずみがあちらへ走って行きます。そして、その後から子ねずみがついて行っています!



その子ねずみが、何匹いたのか、一匹ではなかった。二、三匹だったと思います。



今やほとんどうろ覚えで、自分の脚色は入っていないとは思うのですが、何しろほんの一瞬の出来事だったものですから、はっきりしないのです。でも、確かに、その可愛い光景を見たのです。



あのねずみの親子は、ポターの描くねずみと同じだったなぁ。みんな、人間に見つからないよう必死に、勇気を出して、あそこを走り抜けたのでしょうね。とても小さいねずみでした。



その後、結婚して都会へ住み始めた私は、仕事場のネズミ取りにかかったねずみを見ました。
 


苦しそうな姿。強烈なにおい。ああ、これは都会のねずみの中でも、幸せに暮らしているねずみではなく、くるみ割り人形のねずみみたい。可哀想に。南無阿弥陀仏。



ねずみの世界も色々です。ましてや人間の世界など、千差万別。



それでも、



どんなねずみも、どんな世界の住人も、ひとつの光から生まれていることには違いない。



目を覆いたくなるような世界が、少しでも癒やされ、美しくなって行きますように、とただ祈るばかりです。