意外な容疑者 7
もし彼以外の人間であったなら、被告である僕の質問を全て却下していたでしょう。
この僕に質問する機会を与えてくれたからこそたどり着いた真相なのです。
弁護側席にいるナナさんも発言しました。
「裁判長の変更はそれこそ時間の無駄です。これから重要参考人として現れる人間は法界なら誰もが知る有名裁判官。つまり、裁判官であれば誰もが慕う人間でしょう。むしろ孫である彼こそが不正の余地のない人材だと思います」
音が消えた空間に彼女の声が響きます。
それを受けたノドカさんは「ふぅ~」とため息に近い一息を尽きました。
「選ばれし者の向かう聖地。彼はその唯一の案内人になるしかないというわけね」
ここでよく分からない例えが出てきましたが、どことなく納得している雰囲気です。
裁判長はじっと自分の木槌を見つめて沈黙しています。僕たちの言葉が耳に入っていたのかどうかも分かりません。
誰もが彼の返事を長い時間も待っていたことでしょう。やがて少年は木槌を、カンッ、と打ち鳴らしました。
「悠一兄ちゃん。おじいちゃんの怪我のことはずっと気になってたことでもあるんだよね~。せっかくだから答えを見つけてちょうだいね~」
表情は微笑んでいますが、心の声で「違うよね? やってないよね?」と悲痛な呼びかけが聞こえてくるようです。
この真実が全員にとって必ず良い結果をもたらすとは限りません。
しかし、僕は……いえ、ここにいる全員は真実を知る義務を負ったのです。
「必ず見つけだします」
僕にいえることはそれだけでした。
裁判長は、カンッ、と木槌を鳴らします。その音は弱々しくなっていました。
「それじゃあ~、いったん休廷ね~」
〔つづく〕
登場人物
遠崎悠一 主人公
藤堂奈々 ナナさん。弁護士藤堂姉妹の三女
裁判長 十代で裁判官になった天才少年
武笛鉄人 テキ検事、マッスルを連呼し筋肉を強調
藤堂和花 ノドカ検事。藤堂姉妹の長女
藤堂音子 ネコ刑事。藤堂姉妹の次女
城柳浩司 城柳裁判長 少年裁判長の祖父
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編集掲載 緋鷹由理(ひたかゆり)
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